幻の雑誌「THE SHANGHAIREN(上海人)」
衡山坊(Heng Shan Fang)というおしゃれなスポットがある。かつてはおしゃれではなかった。
2010年頃の衡山坊。つい数年前までなんのへんてつもない、枯れた感じの老房子だったのが、どこぞのデベロッパーの手が入って一気にインスタスポットに躍り出た。
間接照明の控え目な使い方など、なかなかレベルは高い。
さて、ここには小さな本屋があり、品ぞろえのセンスがいい。メインの客層は「小確幸」を追い求める上海の若者たち。先日は「ほぼ日手帳2021」の発表会までしていた。進んでいるというか、なんというか。
ある日、通りかかるとショーケースが変わっており、「THE SHANGHAIREN」という雑誌の宣伝かと思われた。
「Shanghai Ren = 上海人」 ということだと思われる。なんとなく気になってしまい手に取ってみた。そしたらこれ、雑誌ではなくて、画集だったんですね。
説明によると、ニューヨークに「The New Yorker」があり、パリに「The Parisianer」があるように、上海に「The Shanghairen」があってもいい、という架空のコンセプトに基づいて様々な画家が描いた「空想表紙集」とでもいうべき作品集なのであった。なかなかややこしい設定だ。
わたしは絵のことはよくわからないけれど、「新旧融合をポップに描く」というテーマが通底しているのかなと思った。上海の売りと言えば古い街並みと最先端カルチャーの組み合わせということになるだろうし、いまの上海人のアイデンティティもそのあたりに集約されているのだろう。いまはまだバブルが続いていると言ってもよい上海ではあるが、このあと10年もすると、満たされなさとか、喪失感とか、もう少し内省的な意匠が多く出てくるのではないだろうか。
今回なにがいちばんびっくりしたかというと、これである。
20元=300円。安いなと思ってレジに持っていくとなんと180元=2700円と言われた。バーコードの横をよく見ると、たしかに小さく180元と書いてある。うっ、と思ったがそのまま買ってしまった。こういう時にミエをはってしまう性格である。
表紙のみならず、全ての絵の左上に20元と描かれている。これも含めてレトロデザインの一環ということなのだろう。オールド上海を現代風にパッケージして高いカネを取るとはこれぞまさに「上海人」だねと、負け惜しみを思った。