店員に弁償させる
同僚(日本人)がレモンティーをぶちまけられた。ランチタイムの香港茶餐廳での出来事。
運んできた店員が新人で、慣れないお盆にぎっしりのドリンクが見るからにあぶなっかしい。あんのじょう目の前でやらかしてしまった。同僚は左肩に直撃を喰らい、シャツ、ズボン、ダウンベストがびしょびしょ。
新人君はビビッて逃げてしまい、お掃除アーイーが大量の紙ナプキンを持ってきて、ベテラン店員が謝っている。
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で、どうしてくれるんですかという話になる。店員サイドは謝るだけで何も言わない。
クリーニング代は出してくれるんですよね?と同僚が切り出した。じゃあシャツの分を… と言うので、いやいやズボンとダウンもでしょと。
わかりました、クリーニングの領収書を持ってきたらその分は… ということになった。
しかし同僚は止まらない。クリーニングに行く手間だって時間だってかかるんだよ、午後も濡れた服で気持ち悪いまま仕事しなくちゃいけないんだよ、だから食事代もタダにしろ!と騒ぎ出した。
ベテラン店員は「ムリムリムリムリ!」というジェスチャーを交えながら、そんなことしたらタダ働きになってしまう、仕事している意味がないと言っている。
わたしは何か違和感を感じていた。タダ働き?クリーニング代の部分でも「領収書を持ってきたらその分は彼(新人君)が…」という言い方をしていたのである。
これはもしかして、店員が自腹で負担するということではないか?
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けっきょく食事代は払って帰ってきたのだけれど、腑に落ちないので周囲のスタッフに聞いてみた。
「そうですよ、店員が自腹です」
「皿を割っても店員が弁償です」
「店は絶対に出しません」
「自己責任です」
異口同音に同じ回答だった。恐るべきキッパリ度だ。うーむ… 中国では常識だったのか。長く生活していたけどいままで知らなかった。
常識だとすると。クレーマーと化した同僚のことを「おおいやだ」みたいな目で他の客が見ていたことを思い出す。我々はもしかして、地方出身の薄給の若者からなけなしの給料を搾り取ろうとする血も涙もない日本鬼子ということになっていたのではないか。これはあぶない。抗日ドラマなら5分後にカンフーでやられる役どころだ。
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確かに同僚も大人気なかったというか、そこまで言わなくてもいいじゃん?とはわたしも少し思っていた(というか濡れたの自分じゃないし♪と思ってた)。
けれども彼も、別に若者本人から搾り取ろうとしていたわけではない。こういうケースは店長へとおのずとエスカレーションされ、会社としてしかるべき判断がされるとサラリーマン的に思っていたのだろう。店員は店員で、店長を呼んでも無駄であるばかりか、あとからこっぴどく叱られると思ってたんだろうな。お互いの前提がすれ違っていたのだ。
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同僚は翌日領収書を持参してクリーニング代を払ってもらったらしい。わたしは彼に、それ店員の自腹だよと言った。おそらく日給に近い金額だったろう。彼はしばし考えて、じゃあどうしろっていうんだよと言った。
なんとなくお互いに後味が悪く、もうあそこに行くのはやめよっか、ということになった。
いままでけっこう利用していたのに、味もよかったのに、こうして気まずい思いをしてリピーターを失うわけだから、店員に金銭的負担をさせてもいいことは何もない。トラブル対応はぜんぶお店が表に出て、払うものはお店で払った方がいいと思う。
あと「自己責任です」と断言していたうちのスタッフたちも、なにかというとすぐに「残業代出せ」とか「食事補助出せ」とか権利を主張するよね。うちのスタッフは多くが上海人であるのに対し、レストランの店員はほぼ全員が地方出身の出稼ぎである。弱いものほど自己責任ということか。これも少し嫌な気分になった。