チャイボーグとすっぴんの間
「中国は儒教だからすっぴんがよい。整形はNG。美しくなりたい願望は自撮り加工で」という記事を読んで、なるほどと思ったのが三年前。
一般的に中国人は美容整形への抵抗感がかなり強い。中国は昔から儒教の影響を受けてきた。(中略) そのため、中には顔にメスを入れるどころか、脱毛やヘアカラーさえ、させてくれない親も普通にいる。(中略) そして、「すっぴん」できれいな女性こそが本当の美人だと思われている。
たしかにすっぴんの人が多いので納得である。うちの会社でも特に事務方のスタッフ達はほぼ全員が「黒髪すっぴん眼鏡」で、誰が誰なのか見分けがつかず金太郎飴状態。
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しかしここ最近、びっくりするようなバキバキの化粧をしている女性を街中で見かけるようになった。
一部の変わったひとたちなのかな、と思っていたけれど、実は一大トレンドになっていたらしい。
去年から今年にかけ、日本の女子高生の間では「チャイボーグ」という言葉が流行っている。チャイボーグとは、「チャイナ」と「サイボーグ」を掛け合わせた造語で、サイボーグ並みに人間離れした美しい女の子たちという意味を指す。深みのある真っ赤な口紅を引くなど、ハッキリしたメイクが特徴だ。
化粧品と言えば外資系ブランド。ナチュラルメイクのテクニックは日本が最高。そう思っていた。
中国で化粧といえば、普段は慣れていないひとが春節のパーティーで白塗り&深紅の口紅で登場して「京劇みたい」と失笑を買うというのがお約束だった。ところが中国コスメは京劇路線をそのまま突き抜けてしまい、中国伝統要素を活かしながらの新しいメイク観をつくりあげたようなのだ。
そう思ってあらためて見ると、いままで金太郎飴だった事務系女子たちの中にも、いきなり「東方美人」みたいなメイクで出社している子がいるではないか。うん、いいよ。キュウリ食べてるのは相変わらずだけどいいよ。
三年前の自撮り加工が、今年になって現実に移ってきたというのは、やはり変身願望の一種なのだろうと思う。なぜならわが社のチャイボーグたちも、フルメイクの翌日はすっぴんで出社したりとギャップが激しい。「今日は時間なかったんで」「今日は気合入れたかったんで」という中間のないコメントから考えるに、チャイボーグコスメは退屈な日常から違う場所へ自分を一気に飛ばすためのカタパルトなのだろう。
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と、知ったようなことを書いておいて、実はわたしは化粧オンチで、ナチュラルメイクとすっぴんの判別がうまくできない。妻がよく「眉毛かかなきゃ!」と出発前にバタバタしているのを見ても、別にいらないのでは、とひそかに思っている(言わないけど)。どうせ化粧するならチャイボーグコスメをおすすめしてみようかと思ったけど、家に京劇役者がいると笑ってしまいそうで、あとには悲惨な展開が待つのみであるため、やっぱり何も言わないのであった。