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上海ハイボール今昔

戦時下の上海における汪精衛政府との友好工作を回想した犬養健の「揚子江は今も流れている」にハイボールの記述が出てくる。

「康は呼鈴を押して、スコッチ・エンド・ソーダの材料ひと揃いを取り寄せ、専門のバーテンダーがやるように、私にウィスキーの分量をたずね、氷を入れてすすめてくれた。彼もまた一杯を口にした。酒に弱いのだろう、彼の頬はすぐに赤く火照って来た。しかし、こういう時の方が堅さがとれて話がしよいのだ。」
「伊藤は康が踊っていると知ると、汗を拭き拭き戻ってきて私の隣に坐りながら、ハイボールをひと息に飲み干した。彼は手持無沙汰でいる私の相手を勤めるつもりで戻って来たらしい。」
犬養健 揚子江は今も流れている 中公文庫 P55、P80

舞台は昭和十三年(1938年)、このころにはもうハイボールという言葉があった。当時の上海で、しかも氷を使ったハイボールが供されていたとは驚きだ。

現在の中国ウイスキー事情

日本産が大人気

ここ数年のハイボールブームに乗って自分もウイスキーを飲むようになった。上海の日本料理店でも、ハイボールは嗨棒(ハイバン)という名前ですっかり定着している。角瓶かジムビームが多い。三得利の企業努力はすごいと思う。
しかし報道もされている通り、人気が出すぎた結果、中国では山崎をはじめ日本産ウイスキーがプレミアムアイテムになってしまった。一時期に比べればすこしはマシになったとはいえ、日本の1.5~2倍の高値で転売されている。

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850元、約13,000円。とても買う気がしない。
バーなどでは2000元以上、3万円以上の値がついている。それでも中国の金持ちは頼むらしい。もちろん一人で飲むのではなく、接待や、友人へのおごりとしてワイワイやるという感じ。面子コストとして考えるならマオタイ酒よりはコスパがいいと思ってるのかなあ。

スコッチが狙い目

一方で、スコッチの価格はそこまで高騰していない。というか日本より安い。タリスカー、ラフロイグなど、日本で5000円くらいのものが3000円程度で売っている。需給バランスの違いなのか、税金の違いなのか、そのあたりの事情はよくわからないけど、消費者としてはとにかくありがたい。
お得な店は天猫ではなくタオバオがほとんど。自分が買って飲んでみた限りでは、偽物の心配もなさそうで、満足している。

最近は家飲みが楽しい。スコッチ・アンド・ソーダの材料ひと揃いを準備し、氷をたっぷり入れたハイボールをずるずると啜りながら、80年前に上海で飲まれていた味はこれと同じだっただろうかと想像する。


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