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冒険とは「反転不可能」から始まる

 冒険は良い。長い旅の末に困難に打ち勝ち、宝を手に入れる。様々な試煉を乗り越えて成長し、ラスボスを倒す。仲間とともに喜びを分かち合う。冒険は良い。自分でするのは大変だが、達成すれば充実感があるだろう。そして誰かの冒険譚を聞くのも(フィクションであっても)、それはそれで楽しい。世にある多くのエンタメ作品は、基本的に誰かの冒険を描いたものであると言える。

 そんなエンタメ作品に関して、私達を夢中にさせる冒険はつまらないものであってはならない。つまらない冒険は興醒めだ。だからそういった冒険は必ず、反転不可能から始まるのが基本である。
 反転不可能。それがまずエンタメにおいて描かれねばならない。つまり、冒険が幕開けてしまったら、冒険をする者(しなければならない者)は反転ができない、帰れないのである。どんなに危機的状況でも、無謀でも、たとえ死んだとしても、帰れないのだ。冒険譚の始まりには「退路がない」。

 そういう状態で始まるからこそ、冒険である。いつでも帰れるのならばそうではない。安全な家路の用意された冒険が、面白いはずがない。だから、物理的にも心理的にも、冒険は反転不可能を基本とする。そうである冒険が、エンタメ的に面白いことは間違いがない。そのように始まる冒険が、私達の心を震わせる。ワクワクさせる。その冒険譚を楽しんでみようという気にさせる。

 冒険は良い。ことさら反転不可能なのが。これでもかと退路の断たれた、希望のない始まりこそ、冒険にふさわしい。

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