聖水少女14

https://note.com/kawatunaka/n/n2070e74fddea

カクヨム

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894480403



 午後からは比較的に落ち着いていた。
 授業中に数秒意識を失う事はあったが仔細はない。どうせ一日寝ていたのだから今更内容を把握していようがいよまいが違いはないのだ。 
 それよりも香織にとっては天花が尿を使った事が大事であった。嬉々として自分の尿を語るあの顔が、時折香織の顔を緩ませ照れた表情を浮かばせるのだ。

 本当に使ってくれたんだ。

 教壇で話す教師の言葉など耳に入らず、天花が自分の尿を振った事だけを考えてしまう。果たして如何にして身体に尿を纏ったのか。頭に浮かべるその光景。天花が自身で、手首に、襟元に、耳に黄金水を落とす様は実に心艶やかにする画であろう。

 素敵じゃない。とっても。

 恍惚と溶ける表情は人前に出すには余りにだらしなさ過ぎる。仮に誰かに見られれば彼女の評価は地の底となり、二度と恋とか愛とか口にできぬ事態へと陥るところであるが、幸いにして香織は聡明でありすぐに我を取り戻したのと、誰も彼も後ろや横を向いてだらけきった顔を眺めなかった事から難を逃れた。

 寝ちゃいましょう。

 開き直り、本格的な睡眠を決意したのは最後の授業である化学の時間。放っておくとまた妙な顔をしてしまいかねないと危惧した香織は大胆にも机に突っ伏し本格的な居眠りを決行するのだった。

 午後の温かな日溜りの中で香織は夢を見た。内容については夢故支離滅裂な突拍子のない混濁した深層意識の一片であったが、その中に一つだけ明確かつしっかりとしたヴィジョンが現れていた。

「椿さん。私のおしっこ、どうかしら」

「いいじゃないか。芳しく、美しいよ」

 机に置かれた瓶の中には黄金が入っていた。それが尿であるのは考えるまでもない。それを、何故だかタキシードとウェディングドレスで装った二人がまじまじと眺めているのである。

「君、もう辛抱できない。出してくれよ」

「あら椿さん。見ていてくれるの。私がおしっこするところ」

「見ているとも。君の華奢で白い両足の間から、針の穴のように小さく狭い尿道を通って出てくる聖水を。君が屈んで、顔を赤らめながら放尿する姿を、堪らなく見たい」

「やだ。そんな風に言われると、照れてしまいます」

「そこがまた可愛いんだ。頼むよ。早く出してくれ。君のおしっこを」

「そんな急かさないでくださいませ。今、準備をしますので」

 純白のドレスの裾を上げ机に上った香織は、いつの間にか天花の前に用意されたスープ皿の前に屈む。大きく股が開かれた彼女の秘部は隠される事なく晒され、赤貝だの鮑あわびだのといわれる割目をご開帳するにあいなった。生え揃わぬ茂みから土手下を見ると左右に膨らむ薄皮まんじゅうのような肉感が主張してくる。その間から見える桜色をした皮膜が小刻み微動し、上部にある小豆が揺れる。漂う甘い香りは尿が噴き出す兆し。尿穴がひくつく。香織が以前、鏡を使って見た排尿の際と同じ挙動を、同じ匂いを、同じ悦楽を、夢の中で感じ、吐息を漏らしたのだった。

「あぁ……」

 小さく震えた瞬間一雫が溢れ、続いて小川がせせらぐが如く尿が流れ出ていく。

「おぉ……」

 夢の中の天花は嘆息の後に息を呑み、その様子を食い入るように見る。飛沫しぶきが顔に当たり、惚けたまま空いた口の中に入っても気にする風もなく、ただただ香織の小水が弧を描き自らの皿に溜まっていく様に魅入られている。

「どうかしら」

「……好きだ。君が好きだ香織さん。美しい君と、極上の芳香を醸す聖水が好きだ」

「ありがとう。私も好きです。椿さん」

 皿に注がれた尿を挟み見つめ合っていると、天花がだんだんと香織の秘部に近づいてきた。これは間違いない。接吻である。

「香織さん。目を閉じて」

「あぁ……はい……分かりました……」

 静かに過ぎていくこの刹那の瞬間は香織にとって間違いなく幸福の絶頂であった。待ちに待った想い人と結ばれる日がやってきたのだと、たくし上げていたドレスの裾から手を離し胸に手を置く。心臓の音が、血の音が、香織の手から伝わり感じられる。この苦しさが、痛みを伴う喜びが真の幸せなのだと悟り、小さな涙を一つ落とした。

 私、もう、死んだっていい……

 感極まる香織はそう思った。幸福のまま死にたいと願った。しかし残念ながらここまでの一連は全て夢幻。非現実の国にて起こった幻影である。

 夢はいずれ覚める。
 そして現実へと戻ってきた時。人は夢見る前よりも辛く苦しく現実を思い知るのである。

「香織さん! 香織さん! 貴女、なんて事を!」

 つんざく声で香織目覚めた。硬い机の感触が嫌でも伝わり、まずは痛みを思い出す。

「あ、おはようございます」

 寝ぼけたまま挨拶をし、周りを見回す。何やら騒いでいる様子がわかると、今度は耳に話し声が入ってくるようになる。

「漏らした! 漏らした!」

「おねしょだ!」

 漏らした。おねしょ。誰が。

 考える間もなくそれを理解した香織は一気に血の気が引く。この頃になるともう完全に五感が働いており、何が起きてしまったかはっきりと理解できてしまった。香る匂いに、股座の冷たさ。下着と靴下が濡れた、不快な感覚。

 いや……

 叫びを上げそうな香織に追い討ちをかけるように、例の男子生徒の声が響く。

「おねしょぞなもし! 香織姫のおねしょぞなもし!」

 頰を伝う涙。これは幸福から流れたのではない。羞恥と悔やしさと、絶望から溢れた、涕涙ているいである。

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