箱を開けるのが物語であると聞いたので箱を開けない話を考えてみたんだが箱を開けない事が箱を開けるという効果を発揮してしまっており結果的に言葉通りの作品になってしまった作品のうちの一つ

 部屋でくつろいでいると収納から突如異音が響いた。
 時間は深夜二時。丑三である。独り身に降りかかるホラー現象などたいていろくでもないと相場が決まっている。このまま無視して眠りたいが、それもまた死亡フラグが立つ可能性大。ひとまず現場を確認せねばならぬだろうと思い立ち引き戸を開けると見慣れぬ箱が一つ。どうやら天井裏から落ちてきたようで、薄いベニヤ板が物悲しく散らかっている。まるで俺のようだ。いつもクラスで一人きりで友達などおらず、場違いな感じで教室に座っていたあの日の記憶が蘇る。なんと哀れな。

 ……

 辛い追憶に涙している場合ではない。箱だ。この謎の箱をなんとかせねばならないのだ。これが映画であれば不用意に開けオープニングサクリファイスに捧げられるのが定石。俺は逆立ちしたって主人公にはなれないのだから、とりあえず殺しておいて掴みはOKとさせる配役に割り当てられるに決まっている。だが俺だって死にたくはない。なんとかそれは回避しよう。であればどうするか。そうだ。電話だ。電話しよう。誰かに助けを求めればいいのだ。いや待て。電話も駄目だ。着信したら最後、きっとノイズだらけ不気味な音が聞こえて、最後に女の声で死ねとかなんとか言ってくるに違いない。却下。電話は却下。だいたい俺は誰に電話すればいいのだ。父母にかければ「なんだホームシックになったのか」と笑われるだろう。兄弟姉妹はいない。警察にかけてもし何もなかったら申し訳なくてきっと一週間は引きこもる。単位もあるからそれは避けたい。あぁ、なんという事だ。俺は電話をかける相手すらいないまま大学まで入ってしまったのか。進学すれば自動的に友達ができると思ったがそんな事もなく毎日毎日一人で講義に出てご飯を食べて帰ってからは漫画を読んで寝て……なんだこの人生。悲しすぎやしないか? いったい俺は何のために生まれてきたのだ。孤独からは何も生まれやしないというのにどうして生きているのか。いかん胸が苦しくなってきた。途方もない憂鬱に打ちひしがれ今にも死んでしまいそうだ。クソ。いったいどうして俺がこんな思いをしなくてはならないのだ。箱だ。突如落ちてきた箱が原因だ。まったくふざけている。理不尽この上ない。この箱野郎! お前だ! お前のせいで俺は友達がいないんだ! お前がいるから幸せなキャンパスライフが送れないのだ! ふざけやがって箱風情が! 貴様なんぞはこうだ!


 俺は箱を掴むと窓を開け、勢いよく遠投し失礼極まりない乱入者を成敗してやった。問題が解決すると心穏やか。夜風が心地よく清々しい。

「痛ぇ!」

 そんな叫びが聞こえたので慌てて窓を閉め電気を消し床に入る。少し落ち着くと、夜の闇が孤独の憐憫を撫で、頬をそっと濡らした。あぁ、一人とはこうも虚しく寒いものか。

「寂しい」

 一人ごちるも部屋は無音。傍に誰もいない寂寞。このまま闇に溶け込み消えてしまいたいと願うも朝はまたやってくるだろう。陽は、得てして俺を照らさないが……

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