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ノウワン 第十二段 漆黒(パート7)

 ヤッホー。私はリリテウ ラム(19歳)、生まれはパラオだよ。木幡研究所で働きながら故郷の家族に仕送りをしている普通の女の子なの。☆(ゝω・)vキャピ。趣味は日本の少女漫画を読むことで、大好きな作家さんは折原みと先生、マイフェイバレットは『時の輝き』。胸の奥がキュンときちゃう作品なんだ。みんなぁ、読んでくれないと毎ターン即死呪文唱えちゃうぞ。日本文学界は折原先生に何時になったら芥川賞あげるんだろう、プンプン。そんな私の将来の夢はお嫁さん、キャハ。木幡研究所の生活は毎日毎日ザッツハプニング、特に矢島のど変態が時折いやがらせをしてくるけど、やさしいくて可愛いい山草教授や親切な木幡研究所のみんなに囲まれて私は幸せです。でも山草教授、どうして私の想いに気付いてくれないの?わたし何時も興奮状態なのに、肝心な所でシャイなんだから、んもぉジュル。でもドンマイ☆わ・た・し。アハ(≧▽≦) 。
 ここですっごいことを皆に教えてあげるね、実はわたし『モンゴロイドの起源・海底に失われた大陸に嘗て存在した王朝すなわちラピュタル王家唯一の末裔』なんだ。つまり私は、お・ひ・め・さ・まってこと!キャー言っちゃったー!!
 そんなワタシなんだけどぉ、たったいま尊敬する先輩に連れられて研究所の地下空間に来てみたら、まさか悪の組織の幹部にされていたんだ、ウッソー、マヌケだよねーっ!でも私は負けない、ガンバ☆ルンバ♬いつかみんなの笑顔を取り戻してみせるの。いつかみんなの笑顔を取り戻してみせるの、いつかみんなの笑顔をとりもどしてみせるの。いつか・・・・・・・・・・・・・・・・。あはははは、あはは、きゃはは、ホーオッオッオ、オッーホッホッホ。ホッホッホッホッ!オホホオホホ、もう、もぉ、もぉ寧ろ殺してくれたほうが有難いわ。ホホホホッホッホッホぉー。
 
 「俺はいっこうにかまわないぜ、要は御屋形様の云う悪の組織で働けば命を長らえることが出来るってことだろ?俺としちゃ願ったり叶ったりだ、ありがてぇ。」
 毎秒8回のまばたきを繰り返し直立不動のまま固まっているリリテウを背景にして大中は木幡研究所のメンバーを出し抜く形でスーパーブラック団への加入を表明した。大失態をやらかした彼は本来アラハバキの組織から消される立場だったのだ。むしろ好都合といったところだろう。
 佐伯投馬が発言する大中を横目に見やり肩をなでおろす、どうやら彼の古い馴染みにとっては難しいことではなかったようだ。

 アラハバキ。この組織は終戦直前に突如勃興し、現在に至るまで急速に成長してきた。その目的や理念などは様々な憶測が世間では飛び回っており、存在の有無まで疑われている。佐伯や大中といった幹部に至るまで内情は伏せられており、トップの我妻という男も本当に存在するのか怪しまれている。
 時田家は代々、我妻家の執事を務めており、当代我妻家執事である時田琢磨はアラハバキの内情を知る数少ない人物である。
 「我々、アラハバキは元々は神々の怒りを鎮める者達でした。といってもその活動は素朴で穏やかなものです。太陽に手を合わせ有難いと感謝し、地の恵みに頂きますと感謝し、闇夜の中でも月や星の導きで人と人にめぐり逢いがあることに感謝しお蔭様でという。そういう風習を太古の昔から守り広めてきた、それがアラハバキ信仰です。人々に神に感謝し手を合わせさせることによって天孫の神が荒ぶることを阻止してきたのですね。」
 だが時代の流れによるものだろう。人々は神に感謝しなくなった、そもそも本当に神がいるなどと思っている人間が本当にいるのかどうかすらが疑問である。
 「高天原におわす天孫族が崇める荒ぶる神、タケミカヅチは神をまつろわぬ我々を決して許しません。既に一般人が気づかぬ形で天罰は下っているのです、そのため日を追うごとに矢島教授のいう『我々の時間表面の存在確率』が急速に低下しているのですが、これを放置しておけばいずれ我々はより存在確率が高い時間表面に飲み込まれる形で消し飛んでしまうでしょう。親方様の指令を読み上げます」。

 諸君、よく集まってくれた、感謝する。お前たちは俺が選りすぐった精鋭だ。
 「ああああああ、よくみたらあの上にいる白いひと仮面スケーターシリーズの総監督越中一樹じゃん!スゲースゲースゲー!」
 木幡研究所のメンバーにおいては説明不要かと思うが、タケミカヅチの活動が活発になっている、俺達が生きる世界の消滅が何時起きてもおかしくはない状況だ。
 「きこえますかー!僕は我妻健っていいますぅー!越中監督ぅ!!!前からのファンですー!」
 一方で人々を啓蒙し信仰を取り戻させ、高天原の神々の怒りを鎮めることは最早不可能だ、これに関しては俺の落ち度が多少あったことは認める。それはそれとして皆々にはそれが確定した未来だという認識を俺と共有して持ってほしい。
 「仮面スケーター刃が悪の帝王ゴクアラモスが生成したストレンジレットを成層圏で受け止めるシーンはカッコよすぎて何度も何度も見返しました、浸食されていく手足を自ら切り取ってまで時間を稼ぐ姿は本当にもぉたまらなかったですぅ~!」。
 どうせ消え逝く宿命とこのまま割り切ってもいいんだが、それじゃあ味気ないと俺は考えている。生き残るためには派手にやらかしたって構わないってのが俺の性分だ、皆々にはそれに付き合ってもらいたい。このまま最期を迎えるなんてのは面白くないだろ?
 「でも一番好きなのは続編仮面スケーターマグナムのラスボスがまさかの仮面スケーター刃だったと判明したシーンです。前作で微笑みながら自らの想いと地球の人々の想いを膨らまし亜空間を生成しそこにストレンジレットごと消え去った刃がなんとラスボスとしてマグナムの前に立ちはだかるとわ!!!」
 とはいっても相手は神様だ、一筋縄ではいかねぇ。今は雌伏の時だ、第三のニギハヤヒの神憑りの調査・そして今回の新たな第六の神憑りの調査が済んでいない、これらの問題をまずは片付けるための悪の組織、それがスーパーブラック団だ。俺には2600年に渡る或いはそれ以上の全知があるが、全能ではない、認知の歪みはある。相手が何考えてんのかまでは俺にも把握はできないんだ。
 「サインくださーい!サイン!サイン欲しいー!サイン!!欲しいー!欲しいー!むごっむごむぐむむぐむぐ」。
 「僭越ながら健様、失礼いたします。健様、作法です、作法。御父上のお言葉ですぞ。どうか今はお静かに、あとでたっぷりサインなり限定グッズなり差し上げますので」。
 我妻家には高度な帝王教育が存在する、すればいいなぁと猫F伝は考えている。おそらく時田が興奮状態の健の口を押えて羽交い絞めにするのも彼らなりの作法にのっとってのことなのだ、そうに違いない。

 『執事の時田よ、アラハバキ首領の言葉は私が直に話すとしよう。』
 時田は少しだけ戸惑ったようだが、間をおいて一礼ののち羽交い絞めにしている我妻健と共に後ろに下がった。

 『まずは自己紹介をしよう、わたしの名前は越中一樹という、虚名といえどうやら世の中には私の名前が少なからず広まっているらしい。このあいだまで特撮監督だった。』
 『結論を言えば私の創作物に意味はなかった。私は二十歳以前から創作にいそしんでいる、20万時間以上涙と肉と汗と骨をこれに捧げてきた自負が私にはある。だが私の創作物に一切の意味などない。それに気づいたのは半年前だ。』
 『だから、先週、逢坂市民をたくさん殺すべく逢坂湾の堤防を決壊させた。私はたくさんの人々がただただ無意味に死ぬのを眺めて笑いたかったんだ。だからそうした。』

 越中一樹が何を言っているのか一々説明したくはない。

 『君たちにわかっていただきたいことがある。なぜ御屋形様が私を新たなこの組織の指導者にしたのか?ということだ。』
 時田がかすかに眉間に皺をよせた。
 『君たちは確かに知的好奇心にみちあふれているし、みたされない個人的な欲求もある、非常に乾いている、素晴らしい、好感を持たざるをえない。』
 『だが君たちは赤ちゃん、本当に赤ちゃんだよ、勝つために必要な犠牲・非情な手段、目的の為には相手を凌辱しても構わない、倫理よりも勝利を重んじる覚悟。君たちにはそのための決断ができない。君たちは弱く、幼く自分が可愛いからだ。自己愛が強い君たちではタケミカヅチには勝てない、組織の最大の利益、この場合勝利なのだが、それに目をくれようともしないだろう、乾きすぎているからだ、ひいては組織を自己のために利用し自らのエゴを肥大化させるための装置にしようとする、君たちはそういう人間だ。先ほどから君たちの会議モニターごしに見てきた、能力は高い、一人一人が優れているのは理解した。だが全員が赤ちゃんだ。くだらないと私は思ったよ。』
 「心外な!私は大まじめですよ!」越中に言い返したのがよりによってスーパーセクシーこと矢島だったので木幡研究所ならびにアラハバキの幹部は羞恥心に襲われ俯かずにいられなかった。
 『私は留置場にいた、自らの行いにそれなりに満足していたから自首したんだが、そこにアラハバキの御屋形様が現れた。運命を感じたよ。』
 『お前たちの望むものは何だ?!神を殺すことだろ?タケミカズチを打倒し、その死体を切り刻み罵りたい。臓腑を引きずり出し神が泣きながら止めろ、助けてくれとお前たちに懇願する、実に素晴らしい、その光景が見たい。それがお前たちの望みだ、違うか?わたしならそれができる。』
 『私に付き従え、お前達の望むものを叶えてやろう』。
 ずいぶんと逸脱している。越中一樹の話す言葉、一音一句すべてがアラハバキの御屋形の言葉とは逸脱している。同じ意味でもまるで別物だ、しかし時田は認めざるを得ない。木幡研究所メンバーの欲望をこれ以上刺激する言葉があるだろうか?
 「よく言っておきます。神殺し、荒廃した時間平面からの脱出、新世界、そのための木幡研究所、日高見。あなた方の行いに高天原の神々が気づいていないとでも?わたしは役目上、あなた方を止めはしませんが、寂しい結末が残酷な結末になるだけのことです。不可能ですよ。」
 御屋形様のご友人が何か忠告めいたことをいっているが、この場にいる全員の心に全く響かない。迫力に欠けた風貌、小者感を漂わせる雰囲気からこの男を軽んじるところが多少あったかもしれない。アレに関わる秘密をずいぶんと知っているようだが御屋形様が認識済みなら問題はないはずだ。そういう思惑も働いていたかもしれない。
 だがそれ以上に彼らは既にもう後退ができなかった、いまさら新参者が何を言おうが止まれるわけがない、越中が如何なる人物か知らないが目的が達成されるなら忌々しい指図でも甘んじて受けよう。木幡研究所のメンバーには各々あまりにもこの人事を甘受する理由がありすぎた。悪の組織?しかしそれが御屋形様の計画の一部ならそれに従って突き進むしかない。
 一人を除いては。
 「はじめまして、越中一樹さん。俺は丸山デイビスだ。」
 『御屋形様から聞いているよ、丸山君。君は木幡研究所の支柱だとね。』
 「そうか、ずいぶんな過大評価でこそばゆい。ちょっと質問したいことがあるんだが、いいかな?これから俺達のボスになる人間がどんなお方なのかしっておきたいんだ。」
 『かまわんよ。』
 「2万人も勝手に命を奪って、観覧車からそれを眺める気持ちってどんなんだ?おい」。
 場が凍り付いた。矢島ですらパンティーの下の笑顔を硬直させている。
 『語弊があるな。私は今のところ誰も殺していないよ』。
 「それはたまたまだろ。」
 佐伯投馬が間に入って出る。本人としては大人の対応だったのかもしれない。
 「丸山君、御屋形様の人事は絶対だ、不平があれば後ほど俺が聞こう。」
 「佐伯さん、あんたと会うのは今日が初めてでこういうことを言うのは忍びないんだが、すっこんでろ」。
 『佐伯君、さがりなさい。』
 『丸山、私はね、美しい背景が欲しかったんだ。万を超える人間が溺れ死ぬ、神はいない、絶対的な正義もない、道徳や倫理や法は所詮は人間が作り出したファンタジーだ。それを信じる人間を笑いたかったんだ。あれは今から思い返しても実によい計画だった。』
 「あんたの下で働く気はない、俺の友人達もあんたの下で働かさせるわけにはいかない、あんたは頭がおかしいよ。」

 今回のアラハバキの頭領の差配は明らかにおかしいものだ。テロの実行犯を組織の指導者にする?
 丸山の違和感は正しい。これに「はい、そうですか。」と諄々と従うことこそ誤っている。
 そんな簡単な問題ではない。

                           つづく 

逢坂紀行

 我妻健君が勝手に動くのは仕方がないのです。まだまだ小さな子供のすることなので優しく見守ってあげてください。
 

 
 
 
 
 

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