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ノウワン 第十三段 明日香

 五月雲(さつきぐも)が夕焼けに照らされて群青色にたなびいている。何処かで誰かが夕立に晒されているのかもしれない、それが自分の親しい人でなければいいと思う。京阪石清水八幡宮の駅を降り、自転車に乗り換え、平坦な石畳の道から橋を渡る。犬を連れた老夫婦が視界に現れる、ふいに山の手から涼しい風が吹き込むと彼らは互いに顔を見合わせて手を合わせていた。山頂にはどうやら立派な神様が祀られているらしいのだが、私はまだ行ったことがない。どんなご利益があるのだろうか?  私達の住処(すみか)の庭

    • ノウワン 第十二段 漆黒(パート8)

       「御屋形様自らが見定めるほどの人間とは思えませんが。」  執事の時田の意見を左手を挙げて遮る、男の姓は我妻といった。右手に竹筒で拵えた水筒を持っている。  「こいつだ、間違いねぇ」。  祭祀王の全知か。  檻の奥で越中一樹が声を出す。両膝を抱えて蹲っている。  「誰です。面会の予定はないはずだ。」  「こっちに用があるんだ、お前さんに頼みがあってきた。」  何処から入り込んだのだろうか?ベットの下から蛙が這い出てきている。  頼み?どうでもいい。  「私は今忙しいんだ、後に

      • ノウワン 第十二段 漆黒(パート7)

         ヤッホー。私はリリテウ ラム(19歳)、生まれはパラオだよ。木幡研究所で働きながら故郷の家族に仕送りをしている普通の女の子なの。☆(ゝω・)vキャピ。趣味は日本の少女漫画を読むことで、大好きな作家さんは折原みと先生、マイフェイバレットは『時の輝き』。胸の奥がキュンときちゃう作品なんだ。みんなぁ、読んでくれないと毎ターン即死呪文唱えちゃうぞ。日本文学界は折原先生に何時になったら芥川賞あげるんだろう、プンプン。そんな私の将来の夢はお嫁さん、キャハ。木幡研究所の生活は毎日毎日ザ

        • ノウワン 第十一段 漆黒(パート6)

              わたしのお父さんは家族思いの優しい父親だった。  「お前の父が土地を明け渡すからだ。」  「わたしの家族が何処かにつれていかれた、元々はといえばお前の父が!」  ある日、父がいなくなった。みんなから石を投げつけられ元の形をとどめていない。私たちの集落の人々が私の父を私刑の末、死亡させたのだ。  「君が天叢雲(あまのむらくも)の神憑りか。その能力を使えば君のお父さんの名誉を回復できるかもしれない、私たち宿禰衆は協力を惜しまないよ・・・。」  あの男はそう言った。私は子供

        ノウワン 第十三段 明日香

          ノウワン 第十段 漆黒(パート5)

           ― 9年前、鳴門海峡。観潮船にて。ー  「いやぁ、絶景だねぇ、ふたりのぉ~ゆうやみがぁ~♬」  「ユコ博士、まだ午前の10時といったところです。」  「徹夜続きで時間の感覚が無いや、視界がぼやけて矢島が山吹色のオバケに見える。ゆらめいてるねぇ。」  尾張 裕子(おのばり ゆうこ)、学友からはユコ博士と親しまれるこの烈女は齢17で『時空零子理論』という当時の物理学会でも新しい理論を提唱した人物である。それは一般相対性理論と粒子物理学の不調和を正し統合する理論ではあったが、真

          ノウワン 第十段 漆黒(パート5)

          ノウワン 第九段 漆黒(パート4)

           「タケルくん。君は知らないだろうがこの世界はSFでは語りきれないのだ。むしろSFではなくSとMで語れることのほうが多いまである。ふふふ、ヒューマンネイチャー。。。」  パンティーを頭頂部に被った矢島隼人の変身は厳かに続けられた、それは夏の明け方に繭を抜け出し羽を広げようとする蝶のように。まずネクタイが小気味の良い音を立てて首筋を離れ、次にジャケットが床にするりと落ちる、Yシャツがヒラリと宙の中を泳ぎこれもまた静かに床に着地する。矢島隼人はYシャツの下には何も着用しない主義だ

          ノウワン 第九段 漆黒(パート4)

          ノウワン 第八段 漆黒(パート3)

           聞いて欲しいのですが、仮に私たち凡人が自分の運命を自由気ままに動かせるとしたらどうでしょうか?「自由気ままに決めれるものなんて、既に運命ではないではないか」。とそう思いますよね?そうですよね?!では仮に本当にそうなったとしてですよ、そんな便利な運命を生きる途中で自らの力に飽きてしまうんじゃないでしょうか?違いますか?だって最初から自分のモノになるんだから人生そのものに意味がないじゃないですか。そうでしょ?。そこにどんな幸せがあるんですか?経験値ゼロのスコタコ相手に富野由悠季

          ノウワン 第八段 漆黒(パート3)

          ノウワン 第七段 漆黒(パート2)

           佐伯投馬を始めとするアラハバキ中枢部のメンバーが次々と円卓に着き、最後に小学生が燕尾服を着た男に手を引かれて入口から最も遠い席に腰掛けた。  「うおおお、凄い!オトナの世界じゃん!!」  我妻 健には舞台の中で『一見破天荒にみえるけれども実はシナリオ通りに動き、話を円滑に進める』そんな機能はない、本当に只のナマモノの小学生だ。この会議室の人間、御屋形に近いであろう佐伯や大中といった人物でさえその意図は掴めずに神経をヒリつかせている。    「御屋形様は何考えてやがるんだ?」

          ノウワン 第七段 漆黒(パート2)

           ノウワン 第六段 漆黒(パート1)

           人の愛情や真心が果たして争いをこの世から消すことができるのか?衆生である我々はそれを思うときに「そうであってほしい」と願う。しかしながら反面それは夢想に過ぎないことも本当のところは解ってはいるのだ、なぜなら人ならば誰しもが持つ「愛情」や「真心」、そのために争いが生まれることを骨の髄まで我々は知っているからだ。踵を打ち鳴らし力を込めて殴り最果てには殺し合い、怒気を孕んだ言葉で人を罵り、企みをもって敵を貶める、己の愛情や真心のためならなんでもやる。少なくともそれが繰り返されてい

           ノウワン 第六段 漆黒(パート1)

             ノウワン 第五段 籠女

           伊藤 智恵がアラハバキから西横堀川計画に関する帳簿を掠め取り宿禰衆の息のかかった秘書と逃亡を図ったのには情緒的な理由があった。  施設で育ち定時制の高校を卒業した彼女であったが幸いなことに地頭はよく美貌にも優れていた。3年ほど既製服の倉庫スタッフとして従事しながら夜はブティックに勤務し生計を立てていたのだが生活が安定してくるとやはりというか、何処から居場所を聞き出してきたのだろうか、彼女の父と母が生活苦を理由に彼女にまとわりつくようになった。この仲の険悪な父と母が伊藤 智恵

             ノウワン 第五段 籠女

             ノウワン 第四段 弓月

          「救世主は紛れもなく大和の国に降臨しています。既に様々なはたらきを行っておりますし、しばらくすればその姿を我々の元に現し、新秩序のために大いなる奇跡を示すことになるでしょうw」。  何いってやがる、そんなことさせてたまるかよ。弓月は電話口で熱心党の教主の言葉に耳を傾けながら心の中で独りごちた。「そうかい、そりゃ祝着ってやつだな、しかしこっちはエラいことになっていてな、アラハバキの情報を握った人間をこちら側に引き込もうとしたんだが訳のわからない黒ずくめのトレンチコートに誘拐され

             ノウワン 第四段 弓月

            ノウワン 第三段 宿禰

           罪を重ねてきた人間はすべからく罰を受けるべきだし、人生においてその報いを受けるべきだと思います。みんなもそう思うでしょう?でも、そんなふうに考える我々自身、正味のところ自分が思い込んでいるように正しい存在なのでしょうか?自分が正しいと思えたら安心して生きていける、只それだけの中身のない生き物なんじゃないでしょうか?人を裁けるほど立派なんでしょうか?仮にここに罪人がいたとします。すると何も疑いもせず何も考えず大喜びで「罪人」に石をを投げてしまえる。もしかしたら我々なんていくら

            ノウワン 第三段 宿禰

            ノウワン 第二段 曇天の

           大中 隆は逢坂の土地区画整理事業に無くてはならない人物であった。というのも大和の民衆は古くから大雑把に言えば保守的であり、特に今時のお上からの命令はまず疑うことから始める傾向が強い、よく言えば反骨の精神が逞しく、悪く言えばねじ曲がっている。誰かが上の命令を下々に大らかに伝え、反対するものを宥めなければ何か一つ事を動かすことすら能わない。大中はいわば『顔役』であり、彼の家は曽祖父からの時代からこの生業を続けていた。逢坂のいわば「ねじ曲がっている」「ヘンコ」な連中も彼の言葉には

            ノウワン 第二段 曇天の

                 ノ ウ ワ ン

                          序 この世に開かれた天地というものが如何なるチカラのはたらきによって生み出されたものか確たる説は存在しない。古来より多くの学者によって解明が試みられてきたが、今だにその謎は明かされてはいない。古文書には神代のモノ達による御業が記録されてはいるのだが、今の世の人々にはその記録の内容を完全に理解することはできない。あまりにも途方もなさすぎるからである。    無論、我々が住む大和(タイナ)の国の西方にある鳴門海峡には天の沼矛(アメノヌマボコ)と呼

                 ノ ウ ワ ン

          竜とそばかすの姫 ちょう考察 ドラゴンパート最終回 ヒロちゃん無双(後編)

          ※この記事はあくまでも映画公開されたバージョンの解説です。 「最低限の勝ちじゃ満足できません、我々が目指すのは完璧な勝利です。」ヒロちゃんが豪語しますが、果たして結果は?あの兄弟は助かるのでしょうか?「レベル1のゾロア一匹でチャンピオンを打ち倒した天才ポケモントレーナーノシランさんに比べたらゼンッゼン大したことないです!」ポケモンネタそろそろ怒られそう。。。 坂で足を滑らしずっこける鈴、一瞬情けない顔をしますがやはり虐待親父との対決間近で怯み始めているんでしょうか?覚悟を

          竜とそばかすの姫 ちょう考察 ドラゴンパート最終回 ヒロちゃん無双(後編)

          竜とそばかすの姫 ドラゴンパートその8 ヒロちゃん無双(中編)

          「本当の鈴ちゃんを知らない知ろうとしない、そんな私は鈴ちゃんも鈴ちゃんに魅せられている恵くんやトモくんも助けることができない。問題は私の心にある、そういうことなんですよね。」先生は黙ってヒロちゃんの言葉に耳をかたむけるだけです。「鈴ちゃんの今の行動原理は彼女の母親のそれに基づいています、だから私は鈴ちゃんのお父さんに聞いてみたんですよ、鈴ちゃんが昔どういう子だったのか?鈴ちゃんの母親がどういった女性だったのか?」「本当は今の鈴ちゃんが私の手から離れて勝手なことばかりするのが腹

          竜とそばかすの姫 ドラゴンパートその8 ヒロちゃん無双(中編)