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 ノウワン 第六段 漆黒(パート1)

 人の愛情や真心が果たして争いをこの世から消すことができるのか?衆生である我々はそれを思うときに「そうであってほしい」と願う。しかしながら反面それは夢想に過ぎないことも本当のところは解ってはいるのだ、なぜなら人ならば誰しもが持つ「愛情」や「真心」、そのために争いが生まれることを骨の髄まで我々は知っているからだ。踵を打ち鳴らし力を込めて殴り最果てには殺し合い、怒気を孕んだ言葉で人を罵り、企みをもって敵を貶める、己の愛情や真心のためならなんでもやる。少なくともそれが繰り返されているのが人間という生き物全体の歴史だ。
 そして今も、世界中至る所がそうであるように、その場所でも争いの火種が産み落とされようとしていた。
 
 逢坂平野の北部に位置する伏見区に木幡研究所(こはたけんきゅうじょ)がある。表向きは精密工業機械の設計とメンテナンスを行っているが、その地下に巨大なアラハバキの秘密基地があることは一部の人間を除いて誰も知らない。山草 遊人(やまくさ ゆうじ)はそこに研究室を持つ従事する考古学者である、彼には命をかけて崇め尊び愛するものがあった。
 「センシティブオフの状態で素体⇒着衣⇒下着⇒結合の順番で投稿したもののやはり結合の場合はセンシティブの警告は免れないか、これほど愛情深く丹念に心を込めて描いたというのに、口惜しいものだな。」
 「みなが皆、博士のように慈しむ者とは限りません。衆生には素体を辱める者達も数多くいるのです。どうかお気を落とさず」。
 「リリテウよ。モノクロの場合は規制が緩いことがわかったのだ。私には気を落とすなどといった猶予はない。真実の美を世界中に示し、あの汚らわしい着衣を崇めるバウルの使徒の如きエセ預言者に正義の鉄槌をくれてやる。」
 「わたしは常に博士の傍にお仕え致します。」山草はリリテウという名の助手に謝意を伝えるとパソコンから手を離し立ち上がった。巨躯である、丸々とした巨大な腰に繋がる足は短いが丸太の様に太く、そこに自動掃除機ルンバのような足が地面に根を生やすようについている。体つきは太いが防波堤を思わせるような均一の厚みがあり、人間のものとは思えない。更に異様なのは先端がでっぷりと太った鼻であり己の口で咥えんばかりの長さを誇っていた。身長は月並みだが、それが逆にこの異様さを際出たせており、動けば猪の存在感を漂わせる。
 「矢島 隼人。あの小僧はワシが潰す!」


 矢島 隼人は国立下関大学物理学部の教授である。年齢は三十を僅かに越える程度だが、アマノヌマホコの研究に関しては右に出るものはおらず、そこから発生する怪奇現象の発生を幾度も予知している。現場肌の学者であり、論文よりも実地での成果を重んじるタイプであった。筋骨隆々だが食事はもっぱらラーメンであり、それさえなければという実に惜しい体躯をしている。
 「おい、矢島。今日の会議はやっぱ例のアレか?我妻のオヤジが遂におっぱじめる気になったってことだろ?」。「知らね、山草博士は来るの?もぉいい加減に俺のカリスマに平伏せばいいのに諦めが悪いのよな、あのオッさんは」。「来るだろ、あのオッさんとオヤジは古い間柄だしな。あっ。。。おい今日の会議に越中一樹がくるってよ。あの人もアラハバキだったんだな。」「誰?コシナカ?」。矢島は自分の研究テーマ以外の世情には疎い方だ。「ああ、平成仮面スケーターシリーズの産みの親だよ。特撮が専門でな。こないだ引退したんだが、まさかコッチに来るとはね。」 


 「神は確かにいた。奇跡も確かに見た。だが私は未だに胸のざわつきを抑えられないでいる、理由はわからない、しかし、なんと見苦しい。恥をしれ!私は牢獄で暮らそう、ススキ野が秋になれば枯れるように私の命も草のように風に吹かれて静かに終りを迎えるべきなのだ。」
 河内湖の堤防を破壊して十日後、自首した越中一樹は河内湖南東部にある逢坂留置所にいた。
 「御屋形様自ら見定めるほどの人間とは思いませんが」。追添え人の言葉を無視して留置場の越中一樹に面会に訪れた客人は一目越中をみやると一言、「こいつだ」と呟いた。
 この来訪者のため河内湖の堤防爆破の犯人は一切メディアに取りざたされることはなく、公式的にも犯人不明の状態のまま捜索活動が現在でも行われている。さらに言えば世間では西横堀川の土砂を一気に掘削したのも河内湖の堤防を破壊したのも同一の犯罪グループの仕業だと認知されている。
 
 越中に面会した人物はアラハバキの首領、性は我妻である。 


 矢島隼人が施設の会議室の扉を開くと円卓の一席に山草遊人が待ち構えるかのように腰掛けていた。
 「こんにちはリリテウさん、今日も実にお美しい。むさ苦しい考古学界に咲いた奇跡の花とは貴女のことです。」
「彼女に代わって教えてやろう、リリテウ君は君の醜くでっぱった腹を心底嫌悪している、いや君の存在自体が醜い腹だ。」
 「おや、鼻でか博士、そこにいらっしゃいましたか、デカいソフビ人形かと勘違いしましたよ。いや、空気を入れて膨らませる仕組みかな?貴方の身体的構造には興味が湧いて尽きません。」
 「私の身体には神々の加護が付与されているのだよ、何時迄も穢れた布切れ一枚に頼らなければ聖域に踏み込めない生半可な君とは次元が違うのだよ。次元が。」
 「顔に卑猥なモノぶら下げて何言ってんですか、顔面チンコ博士。SNSの嫌われ者、毎日毎日ご苦労様です、先程もデカ乳の女性の一枚絵がBANされてましたね、南無、卑猥を超えて悲哀を感じます。」
 「我が一族は天孫降臨以来おっぱいを崇め奉っている。その歴史は3000年を越える、その誇り高き血筋の私がおっぱいを強調した絵をSNSにアップしてそのどこがいけないのか?いや悪いわけはない。オッパイを崇める私よりもまず、それを汚らわしいと感じるSNSの監視者や大衆の目を君は咎めるべきなのだ。」
 「では山草博士。。。いや『おっぱいを崇める会』山草会長は何故!?何故そこにいるリリテウさんの乳をモチーフにした一枚絵をSNSにアップしないのですか?あなたがSNSにオッパイを崇める一枚絵をアップしてから5年も経つというのにそこには一枚たりとてリリテウさんの乳に類したオッパイを持つ女性画は存在しない、リリテウさんの奥ゆかしいオッパイを邪な目で見ている貴方がいるからでしょう?違いますか?貴方は全てのオッパイは美しいという、そして平等にただただ愛おしむべきだという、それは良い!しかし貴方は全てのオッパイを等しく愛でてはいない、リリテウさんのオッパイを特別視してしまっているからだ!。」
 「・・・・う・・・うぐ」
 「本当ですか山草会長、寧ろ私は嬉しいのですが!」
 喜びに咽ぶリリテウの言葉は寧ろ山草にトドメを刺した、この歪な身体構造を持つ中年男のリリテウへの想い。。。我々凡人には中々に理解しがたい。あとなんでリリテウが山草博士を慕っているかは作者にもわからない。
 「私は皆が正直になれるそんな世界を目指しているだけだ!」
 「山草博士、嘘つきは泥棒の始まりといいます。自らの性欲にすら正直になれない貴方が正直な世界を目指す?詭弁にまみれてますな!恥を知りなさい!」
 「山草博士!私は構いませんが!」
 「やめてくれ!リリテウ、私は君にそんないやらしい気持ちなど微塵にも…そんなことは!それはあってはならない!」
 「さぁ山草博士、いますぐ貴方の深層に潜むムスカを解放するのです。裸になりましょう、貴方に還りなさい。さすればとてもいい気持ちになれるでしょう。よろしければ『パンティを奉る会』のカリスマであるこの私が教授の心と身体の脱衣をお手伝いいたしますが、如何でしょうか?きっと気持ちよくなれますよ、ふふ。」
 何故この世に争いは絶えないのであろうか?『オッパイを崇める会』と『パンティを奉る会』の抗争が終わる日まで、小幡研究所内の悲しみの連鎖はとまらない。他人事?果たしてそうであろうか?苦しみに悶える山草博士の姿こそ、明日の我々の姿なのかもしれないのだ!

 「ちょっと矢島。山草教授は御屋形様の古い友人よ、あんまりイジメんじゃなゴフォ!」
 羿白(グェイ パイ)、中ッ国ウイグル区の出身二十四歳の女性で木幡研究所職員ある。どういうわけか研究所では専ら動物の着ぐるみを着て活動している、その頭部がいま会議室のドアの上枠に引っかかってもげたようだ。
 「うわー腐る!爛れる!汚れる!っタヒタヒタヒ!!!!ちょっとこの入口のドアのは上枠上げろって言っておいたじゃない!殺す気か!!・・・ニャン。」
 今日は三毛猫である。頭部を慌ててかぶり、心を立て直した。
 「はーいリリテウこんにちわ、きょうも綺麗ね。丸山助教授ひっさしぶりー!矢島の変な集会なんかに行っちゃだめよ。山草さん、矢島と変態の領域で争っちゃ駄目よ。勝目ないんだから。みんな仲良くするニャン。」
 「パイ、アレの準備はどうなってるんだ。」
 「ここでは話せないわ、後で書類でよこす、それに釣り針がまだ足りない。山草博士、そちらの進捗しだいよ。」
 「わかっておる。ちょっとしばらく構わんでくれ。悔しい気持ちでいっぱいなんじゃ。」
 「パイさん、ちょっとこれ見て欲しいんだ。」
 矢島と山草の言い争いを黙殺していた丸山助教授が口を開いた。
 「わからないことだらけだよ。」

 木幡研究所 緊急会議
 参加者
 ・我妻 健 (アラハバキ頭領 代理)
 ・時田 琢磨(我妻家 執事)
 ・頭領のご友人
 ・佐伯投馬(逢坂商工会議所 職員)
 ・大中 隆(西横堀川開発事業財団 元最高顧問)
 ・越中 一樹(SB団第1号)
 ・山草 遊人(木幡研究所職員 オッパイを崇める会 会長)
 ・リリテウ ラム(木幡研究所職員 山草博士付)
 ・羿白(木幡研究所職員)
 ・矢島 隼人(国立下関大学 教授 パンティを奉る会 カリスマ)
 ・丸山 デューイ デイビス(国立下関大学 助教授)

「この我妻 けんって御屋形の御子息かなんかなの?」
「タケル君ね、紛れもなく御屋形様の御子息だニャン。」
「御屋形の能力を引き継いでいたりするわけ?」
「いえ。只の普通の小学生で8歳よ。時田さんはその教育係、マジ凄い人だニャン。」
「なんで只の小学生がこの会議に参加してんの?」
「言いたくないニャン。」
 丸山の顔から表情が消えた。嫌な予感がする。
「この『頭領のご友人』って何?」
「知らない人だニャン。」
「この越中さんって特撮の監督だよね。SB団って何?」
「言いたくないニャン。」
「ふざけんなよ。」
「ふざけてないニャン。丸山くん。」
 羿白は丸山の目を真っ直ぐに見つめて話した。
「貴方は本当に気の毒な人だよ、ここにいる人達はみんなタケミカヅチに因縁がある人ばかりでどいつもこいつも既に真っ当じゃいられない。真人間なのは貴方だけなの、貴方だけがある意味で頼りなの。だからお願い、これからも私たちに巻き込まれ続けて欲しい。この会議が終わったら貴方もきっと何も言いたくなくなるわ。同じ痛みを共有して絆を深めていきましょう。ニャン。」
 
 丸山 デューイ デイビス。趣味は独りカラオケで愛唱曲はミスターチルドレンの「終わりなき旅」だ。

 矢島教授が口を開く。
「で、逢坂商工会議所と西横堀川開発事業財団が絡んでるってことは、やっぱりこないだのテロの件か?」
「ええ、御屋形様が言う所の『六番目の神憑り』が遂に現れたってことよ。」

                             つづく

 逢坂紀行
 
 色々と思い悩んで筆が止まる。本当にそんなことがあるもんだと身をもって思い知ったここ半年でした。

 矢島教授のモデルは音楽家ドラム兼ボーカルのゲイリー ビッチェさんです。素晴らしい曲が沢山ありすぎて何をおすすめすれば良いのかわかりませんが、『藻屑』『あなたがいる世界』が個人的にツボです。
 丸山 デューイ デイビスはオーストラリア先住民アボリジニの血を継いだフィリピン人と日本人のハーフです。肌の黒さは強めと思っていただいていいです。性格のモデルはTマルガリータさんから頂いております、どうか怒らないで欲しいです。絶対に怒らせてはいけない人だとはわかっています。モーモールルギャバンの『サノバ・ビッチェ』はマルさんのベースがあってこその名曲だと思います。モーモールルギャバンといえばもうひとりいますが、僕はこの人が好きなのでもっといい役割で出す予定です。

 山草博士のモデルは漫画家の山草遊さんです。この作品ではにんげんばなれした異形をしていますが、当然普通の人です、あしからず。たぶん山草先生なら、見た目のモチーフと意図に気づいてくれるはずです。

 もし他の設定でご批判などありましたらどうぞ。私は火をつける立場ではなく、火のなかで生きて死んでいく立場でいたいと思います。


 
 
 

 



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