ノウワン 第八段 漆黒(パート3)
聞いて欲しいのですが、仮に私たち凡人が自分の運命を自由気ままに動かせるとしたらどうでしょうか?「自由気ままに決めれるものなんて、既に運命ではないではないか」。とそう思いますよね?そうですよね?!では仮に本当にそうなったとしてですよ、そんな便利な運命を生きる途中で自らの力に飽きてしまうんじゃないでしょうか?違いますか?だって最初から自分のモノになるんだから人生そのものに意味がないじゃないですか。そうでしょ?。そこにどんな幸せがあるんですか?経験値ゼロのスコタコ相手に富野由悠季先生の無限力放ちますか?放ちませんよね?
なのにどうして私たちは願い事なんてするんでしょうか?なんでもいいんですが宗教施設で私達が手を合わせて何かを祈るとき、その想いが強ければ強い時ほど、その行為の中身にはどこか「心の痼のようなものを神や仏におあずけしたい」そんな弱い人としての気持ちがありませんか?私にはあります。
よくよく考えてみればそれが普通の神や仏に対する普通の人間の態度なのではないでしょうか?少なくとも現代社会においては。「神様や仏様は当然忙しいのでしょうが、私も忙しい、お賽銭だしますんで、ちょっと憂鬱なこの気分を晴らさせてください。これ貴方の仕事ですよね?」私はそんな感じで神様仏様とお付き合いしているんですが、実のところ大概の人も本当はそうなのでしょう?神様仏様に願ったら何でも叶う、そんなことなど誰も願っていない、みんなそれ以前に頑張ってるから、楽しい未来を信じてるから。でも努力が叶うとは限らない、現実は恐ろしい。だから皆が願ってしまう、祈ってしまう。
さぁ本題です。もし神というのが本当にいて、彼ら神の都合が悪くなったら誰か、つまり天使みたいなものを神が地上に使わして、その力で世界が神にとって都合よく改変できる、この世界が実はそういう仕組みだったら。良くも悪くもどう思います?
許せないでしょ?神様とか天使とかスーパーヒーロー?我々の世界にそんな存在なんぞ居てはいけないのです。
「あああああああああああああ!これは大ピンチよ!!赤鬼丸!!!!」。携帯端末を片手に握って相葉 ひかりが叫んでいる。
「ひかり、お前がずっと閃里の野郎とイチャイチャイチャイチャしてるからだろ?どれ見せてみろ。」
『出ろ、既読ついてんぞ。』
『出ろ』
『出ろ』
『出ろ』
『出ろ』
『出ろ』×99
『もう、お前に作る服などない。顔も見たくない。声も聞きたくない、さようなら。』
「あう、こりゃ激怒フンフンだな。明日香は服のことで冗談なんか絶対に言わない奴だ。」
服を作らないって一言でも明日香が言うと殺し文句とか呪詛の言葉にしか聞こえないから不思議だ。何かの掛け言葉?いや新しい形の枕詞かな?そうか、これわ万葉集の世界に違いない。ひかり、悪いけど俺、化学系なんだ、化物だけに。
「どうしよう?」
「どうしようって?アイツを怒らせたらどうなるかお前が一番思い知ってることだろう。もう地獄を見るしかないぜ。」
弓月の件で私市(きさいちし)にアジトを構えてから既にとうとう一月経とうとしている。相葉ひかりは最初の頃は北条 明日香に迷惑を掛けたくないという理由で、しかし途中からはタイミングを逃して、そして最終的に今では明日香のメールの数が増えに増え怖くなって何も返信できなくなってしまっていた。
怖い、怖すぎる。このままでは修羅が舞い降りる。。。。何か都合のいい言い訳があるはず、きっと、きっとあるはずよ。考えろ!考えろワタシ!!
「さぁ、皆様、考えましょう。長伸ばしにして良いことなどない、この際皆様にはそう思っていただきます。」我妻家執事の時田 琢磨が傲然と言い放った。
①工藤真一は何でいつも犯行現場にいあわせるのか?ではなく何故、河内湖の堤防爆破の犯行現場に神憑りが偶然にも居合せたか?
②神憑りはどのような手段で西横堀川開発予定地に堀を一瞬で築いたか?
③しかも神憑りは自らの蹴りの衝撃を触れもせずに捻じ曲げている。どのようにして?
④何故市民に死傷者がいないのか?
⑤どのような手段で掘削した土砂を片付けたのか?
⑥何を考えて人助けをやっている?
木幡研究所の面々が次々と発言をする。彼等はこの道の玄人であった。
「まず、重力を操れないと不可能だニャン。ただ操るといっても複数のプロセスが必要になるわね。」
「実際に神憑りがやってしまったわけだから、その事実を認めることから始めなきゃな。この第六の神憑りが身体中の素粒子に膨大なエネルギーを蓄えることができると仮定する。」
「丸山君、それだと質量自体は高まるけど、空間が歪んだ影響は周囲に及ぶニャンよ。街中大破壊よ。」
「そうなんだよな。質量のはたらきを阻害する素粒子は通常空間ではごくごく僅かだし、仮にそれも操れたとして空間を歪めるほどの重力波を通常空間の環境が支えれるとは思えない。別のチカラが必要だ。」
「仮にヒッグス粒子のようなものを地上空間の至る所からかき集めることが出来たとしたら最高じゃん!それを失った地域では生命に限らずあらゆる物体が素粒子レベルに分解されて永遠に宇宙を彷徨うことになる!ふぉ~SFだぁ!」
「タケル様。お行儀が悪いですよ。」
第六の神憑りは膨大なエネルギーを身体に蓄え空間を歪めることができる。そのエネルギーの一部をキックに変換して、河内湖付近で土砂を蹴り上げた。しかしこれはキッカケに過ぎない。自らが蹴り上げた土砂を追い抜き、高い質量を保持しながら空間を捻じ曲げた状態で西横堀川建設予定地を駆け抜けることによって一気に土砂を掘削していった。この仮説であれば曲がりくねった逢坂の街の道路にそって作業を行うこともできる。ボーリングのレーンが曲がりくねっていても、その歪みにそってボーリングの玉は進み続けることが出来るのだ。
だが問題もあり、これだと周囲のビル郡も土砂と同様に重力波によって神憑りに向って吸い込まれていくことになる。震災待ったなしだ。
「そういう設定のほうが僕は面白いと思うよ!どんどん街を進む度に建物が破壊されガシガシ人が死んでいくんだ。横スクロールのアクションゲームみたいに画面右上に得点が表示されていくのもいいなぁ、子供は300点、若者は100点、老婆を殺したら1万点のボーナスが加算される!」
「タケル様は興奮しすぎですな。しかしそういう教育しがいがあるタケル様の存在を時田は嬉しく感じております。」
我妻 健。8歳。我妻家当主の息子。趣味はSFであり、ショーン ・コネリーが主演した『未来惑星ザルドス』と富野由悠季監督の『伝説巨神イデオン』をこよなく愛している。
既に彼の出自を知る木幡研究所の面々は高いスルースキルを駆使せざるを得なかった。場を察したリリテウが発言する。
「土砂を分解させたのは超音波分解なのでしょうか?多分に水分を含んでいますし、神憑りなら出来て不思議ではないかな?と私は思うのですけど。」
「リリテウの言う通りだと思うニャンよ。おかげで天王寺動物園の被害は相当らしいわよ。」
「そして自らの重力を使い気流を操り、竜巻を発生させた。だが土砂を巻き上げるには身体に蓄えたエネルギーを遮断するしかないな。でないと歪んだ空間の中心に神憑りがいるために、土砂が神憑り自身に降りかかってしまう。」
そして巻き上げた土砂をあれほど綺麗に2箇所にわけて集積させる物理法則などない。
「いやいや、きっと両手を広げて超超音速で回転したんだよ、回転速度の調節で土砂をコントロールしたんだ。そしてソニックブームが広範囲に悪影響を及ぼし、ひも状にねじ曲がった死体が付近では散乱し、その外周では体内の至るところの組織を断絶した重傷者や全身のあなという穴から血を吹き出した人々が群れとなって街中に満ち溢れる。阿鼻叫喚だ。ソニックブームの影響でビル街の割れた窓ガラスによる死傷者にも充分期待できるし、そっちの方が面白いじゃん。僕が脚本家ならそうするね。」
丸山は自らのスルースキルをフルに発揮した。そんな地獄にならなかったから逆にこっちは困ってんだよ(そうなっても困るが)いや、このタケルってガキはワザといってやがるんだ、さっきからなんなんだこいつは。
「断っておきます。貴方達が何を想像し、何を行おうとも私の感知するところではありません。しかしながら神の御心に関心のない者がその真理を解き明かすことはできません。神のご意志は貴方達の目の行き届くよりも遠大であり、しかも目に見えることが全てではないからです。」
御屋形様のご友人、熱心党の男が静かに話した。これに時田が返す。
「あなた様のおっしゃることに異論はありません。しかしながらその真理に近づこうとするのもまた人間です。それに私はこの場に一人、その真理を観測した者がいることを知っています。矢島教授、あなたならこの第六の神憑りの御技をどう捉えますか?ご考察を伺いたく。」
沈黙を貫いていた矢島教授が一言で答える。
「ああ、いいよ。」
矢島教授が円卓の周囲を逆時計回りに練り歩き、講義を始める。
「皆様はこの世界、宇宙がどのような形をしているのか想像したことがありますか?ありますよね?。それを想像しすぎてワクワクして夜も眠れない。皆様そうでしょう。わかります、それが普通ですよね、それが普通の人の感覚です。わかります。この世界、つまり宇宙の形は三次元で説明付くのか?はたまた四次元なのか?また宇宙を数覚で捕える優れた物理学者は11次元もしくは複数の次元が収束した6次元であるとの見解も出しています。果たして何が正解なのでしょう?」
「私はラーメンを専ら主食としているのですが、ほら、そのためにこんなりお腹がプックリとしているのです。プクリンですね、ふふふ、科学のチカラです。即席ラーメンを作るために鍋に水を張りガスに火を着けるとき私の想像は常に宇宙の形に思いを馳せ、しまいに私は全能感に襲われます、ラーメンを作ることは宇宙を作ることと同義、私、何か間違ってますでしょうか?ふふふ」。
「水が熱されて鍋の中で水が水蒸気となりブクブクと無数の気泡が誕生します。ビックバンです。この気泡一つ一つが小宇宙でありその中のたった一つの気泡が我々の住む小宇宙なのです。鍋の中つまりこれは大宇宙なのですが、その大宇宙の中には我々の住む宇宙の他にも無数の小宇宙が誕生しております。これを、、、」
「マルチバースじゃん!」
「タケルくんはよく勉強されていますね。そうマルチバースです。」
佐伯と大中は話がぶっ飛びすぎていてついていけない。読者の皆様は、、、、ついてこいよ。
「さて、タケルくん。君はマルチバースをどのように捉えていますか?」
「はい、矢島教授。それはあらゆる別宇宙のスーパーヒーロー達が住む世界で彼らの住む小宇宙も僕たちの小宇宙と殆ど似通っているのです。やがては(以下略)。」
矢島は自らの衣服を脱ぎ捨て始めた、それは儀式のように厳かであり、あまりにも自然であったため気付ける者がこの事の起こりにおいてはいなかった。彼の脱衣は最初はズボンから始まる。そして、ズボンを脱ぎ終わると上着のポケットからパンティーを取り出し頭に被るのだ。
「矢島!おまえ、まさかここで変身するつもりか!いきなり過ぎるだろ!」
狼狽する丸山デイビスと同時にリリテウが叫ぶ。
「グエンパイさんが白目を剥いて口から泡を吹いてます!夥しく痙攣を!」
「ビクンビクン!ビグンビクン!!ブルブルブルブル。」
「彼女を直ぐに非難させろ!できるだけ矢島から遠ざけるのじゃ!」
危急を察した山草教授もたまらず立ち上がる。
「ためらいは罪、一切の懊悩から解脱したスウィングこそ真実に近づける唯一の手段。私は、そう私こそが。。。」
ためにためてパンティーを奉る会のカリスマ矢島 隼人は言い放った。
「I AM L G B T !!!!!!!!!!!!!!!!!」(意訳:さぁ崇めたまえ。我そのものがLGBTなのだ。)
※ちがいます。
つづく
逢坂紀行
ついてこいよ。