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「ODD ZINE vol.6」刊行特別企画 ~雑談の延長~

かもめブックス(東京・神楽坂) で 2020/12/8~12/27に開催した『ODD ZINE 展』の会場で掲示し、「ODD ZINE vol.6」(限定50部)にも掲載されている早稲田の「古書 ソオダ水」のオーナー・樋口塊(ひぐち・かい)さんのインタビューを公開いたします。

聞き手・構成補助:太田 靖久(「ODD ZINE」企画編集)/撮影・構成:伊藤 健史(ライター)

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〈プロフィール〉
樋口 塊(ひぐち・かい)
二十代半ばまでは、初めて読んだ漫画は小学校低学年の時のつげ義春、と言っていましたが、最近は言わなくなりました。
好きな食べ物はカチカチに塩をきかせた焼鮭と白いごはん。


太田:樋口さんのご出身は関西でしたよね。お店の場所に早稲田を選んだ理由はあるんですか?

樋口:出身は関西ですけど、早稲田を選んだ理由は、ないっちゃないんですよね。出身大学でもないですし。店を始めるときは大塚に住んでいたんです。僕はまだ働いていたので妻が店番という形でしたが、都電沿いで店を探していて、やるなら雑司ヶ谷か早稲田という話になって、そしたらたまたまここが空いてたんで。家賃も安かったし、それだけです。

太田:学生の子たちが常連で来たりもするんですか?

樋口:常連さんの半分くらいが早稲田大学の学生とか卒業生だと思います。たぶん通りすがりの人はほとんど気づかないんで。二階にあって様子もわからないところって入りづらいじゃないですか。だからほとんど、常連って、どれぐらいの頻度のお客さんを常連と言うかというのもあるんですが、そんな感じです。

太田:詩歌を中心に扱われているのはご自身が好きだからですか?

樋口:そうですね。僕が自分の店を始める前によく通ってたのは、閉店してしまいましたけど荻窪の「ささま書店」さんとか、三鷹の「水中書店」さん、あとは中野の「古書うつつ」さんぐらいですかね。今でもいちばん好きですごいと思っているのは「うつつ」さんです。あと穴場は中野の「まんだらけ」。まあ最初は自分の持っている本からはじめたので蔵書中心に偏っちゃったという事情はあります。

太田:お店をはじめる時にコンセプトとかはあったんですか?

樋口:全然ないです。何にもなくて、とりあえず詩集、歌集、句集はきちんとやろうということくらいです。まあ売れないのはわかっていたんですけど(笑)。やっぱり、他のジャンルと比べると売れないんです。読んでいる層も少ないし、あとはコレクターがすごく多いジャンルなので、コレクターさんって自分が探してる本以外はあまり興味ないんですよね。知らない本や持っていない本も少ないし。決め打ちで探しに来て、無きゃ無いで帰っちゃうみたいなことがどうしても多いんで、こちらもそんなにいい本を常に仕入れられるわけじゃない。だから最初はいい本から売れていって、探してる人があんまりいない本とかがどうしても残っちゃう。新刊だと大阪の「葉ね文庫」さんとかにそういう人達があえて「葉ね文庫」さんに行こう、みたいになりますけど、東京は広いし、あの店はすごいし、絶対になれない、というのがあったんで、基本的には買取った本を並べて出すっていう感じですかね。学生さんが本を持ってきてくれるんで、そういった本は学生さんが買ってくれそうなものなので、そこで回っているのかなっていうのはあります。

太田:いまお話しされた「葉ね文庫」さんみたいなところはファンがしっかりついてる本屋さんじゃないですか。戦略じゃないけど、そういうことに関してはどうですか?

樋口:基本的に本当に何にも考えてないんですけど、遠い所からわざわざ来てもらう店というよりは、学生さんや近所に住む人達がふらっと来てふらっと買ってくれる店の方がいいかなと思うんです。でもそういう人達の需要と僕の趣味がたぶん合わない(笑)。合わせなきゃいけないんですよね。
そういう意味ではたぶん中途半端になってると思うんですけど、わざわざ来てくれる古本好きの人達とかの目を引く本が常にあるかっていうと無いし、近所の人達がふらっと買うような人気作家の本や暮らしの本などがたくさんあるわけでもないし。

太田:立ち上げ時はいわばほぼノープランだったわけですね。

樋口:そうです。

太田:お店は立ち上げて何年ぐらいですか?

樋口:いま三年目ですね。

太田:その間に考え方が変わったりとか、変遷みたいなのはありましたか?

樋口:基本的にはないです。市場に行って仕入れてくることもあって、そういう時はある程度決め打ちで買ってくることが多いんですけど、買取りで持って来てもらったらこっちが全然いらないっていう本もあるわけじゃないですか。古書価がつかないとかじゃなくてジャンル的に。だけどそんな本も売ってもらったら、とにかく並べています。そういう風にしてどんどん棚は変わってきてはいるんですけど、それはもう、そういうもんだなという感じで。
うちは来るお客さんにどういう店だと思われてるかって全然わからないんです。どんな本を探しに来ているかっていうのもわからないし、たまたま見かけて入ってきているかもしれないし、学生さんが空き時間とかに来ているかもしれないし、わからないんで、考えないようにしています。

太田:自分の意思みたいなものがあると逆にうまくいかない気がするという感じですかね。持ち込まれる本によって変わってくるっていうのは。要するに予測できないことが起こるから、こっちはとりあえずノープランで構えてくっていうスタイルなのかなって思ったんですが。

樋口:もちろんどんな棚を作るかっていうのは考えてやっていますし、市場に行って仕入れる時にはこういう本が欲しいって仕入れるんですけど、僕は市場にはそんなに行かないし行けないので、詩集、 歌集、句集以外に関しては、店の意思というか色みたいなものは見えない方がいいのかなと思っていますね。

太田:それは状況がそうさせているというか、仕方なしにそうしていて、本当はこうしたほうがいいんじゃないか、とかそういうのはありますか?

樋口:店の棚の感じとか品揃えに関してこうなりたいっていうのはあまりないです。今はおかげさまでオールジャンルに近い感じであるので、その中で探している人が多いと思われる本があればいいなとは思っています。仕入れがすごく多かったり、お客さんがすごく来る店っていうのは、出せる本は限られているから買取ったうちの、たとえば半分だけ店頭に出して残りは市場に出しちゃうとか、それで研ぎ澄まされていくと思うんです。でも、うちはそうじゃないんですよね。
来た本は、僕が全然知らなかったり、欲しい人がいるのかわからないような本も出すしかない。仕入れもそんなにはないし、お客さんもそんなに来る店じゃないので(笑)。そうなったら、棚の入れ替えは、しばらく売れてないから抜いちゃおうとかっていうぐらいなので、自分の意思がその程度は出ますけど、なんて言うんですかね、やっぱり、「雑な店」が好きなんですよ。まあ、あんまり受け身で、なるようになるっていうだけではやっていけないと思うんで、そこらへんは考えながらやってはいるんですけど、店自体をどうこうしたいっていう大きな意識はあまりないです。お客さんもたくさん来てくれりゃいいな、ぐらいですけれど。どうすれば来てくれるかわからないんですよね(笑)

太田:三年目のいまは、コロナの影響で社会的な状況が大きく変化してしまっているじゃないですか。大学は一年ほど人が全然いない状況ですし。

樋口:学校が開いていた時でもそうなんですが、来る学生さんって決まってるんです。お昼時になるとここの前もたくさんの学生さんが歩いてますけど、ほぼ入ってこないんですよね。ここを知っている人だけが来て、友達とか後輩を連れてくるっていう感じだったんで。そういう子達は、大学が閉まっていようが、外出制限だって言われようが来る時は来るので、他の常連さんも頻度は下がっても相変わらず来てくれるので、売上はがっつり減りましたけど、目減りしたのはどっちかというと学生さん以外のほうかなと思います。

太田:この混乱期に古本屋さんは棚撮りをしたり、いろいろ活動をしていたところもありますが、それは横目に見ていたという感じですか?

樋口:そうですね。あんまりやりたくないというか、こんな時にそういう動きができるというのはすごく大事だとは思うんですよね。絶対そっちの方がいいんです、今までと同じでやっていたらやっていけないのは当然だし、いま動けなかったら店が潰れていくのはわかるんですけど、本をそういうふうに売るのはちょっと違うかなというのがあったので。明日にも潰れるっていう状況だったら必死こいてやったかもしれないですけど。まあ、そういうのが積もり積もってどんどんやばくなっていくのかもしれないですけど(笑)

太田:でも何かに期待しているっていうことですよね。だって絶対これでダメになると思ってたら、もうダメじゃないですか。何かに託したり、希望があるっていうことなんですか?

樋口:たぶん普通に面白そうな本を仕入れて並べていけば、それでいいと思っているんですよね。自分の店なのに他人事みたいな言い方ですけど、それでやっていけなかったら、たぶんコロナ騒ぎがなかったとしてもいずれやっていけなくなっちゃうと思うんです。だから、損失部分を補填する意味で そういったことは大事かもしれないですけど、結局のところ基本的な考え方がそういう所にあるので、その時だけ動かなくてもいいかなっていうことですかね。店を開けているのであれば、来てくれる人を最優先したいです。店を閉めて「こんなのあります」って動画撮ったりとか、棚全部撮って通販しますとかだったらわかるんですけど、少なくとも店を開けていてそういうことするのは ちょっと違うかなと。いいと思ったら今までもやってるはずなんです。売上はあったほうがいいに決まっているんで。こういう時だからやるっていうのは大事なことだし、動ける人はすごく尊敬しますけれど、自分は違うなっていう。店じゃなくて良くなっちゃうんです。

太田:実店舗を持ってる意味がないと。

樋口:本だけを売って生活していればいいんだったら、店はやらなくていいっていうことですよね、倉庫を持って通販という形で。たぶんそれは(心情的に)できると思うんです。ただやっぱりその場で手にとって、ぱらっと見て、なんかよくわからないけどこの本面白そうだなっていう方が、楽しいし、そういうふうに思ってくれる人がひとりでも増えればいいなっていう。自分もそうだったんで。
ネットってどうしても欲しくて、でも見つけられないっていう本を探す場でしかなかった。できるだけ、実際に見て欲しいので、だったら、まずやるのは店っていう。
店を閉めて本は全部自宅に持っていって通販っていうのがもちろん経費もかからないし、最終的にはプラスになると思うんですよ、家賃を払ってやるより。だけど、お金を儲けたいっていうことが全然ないんで、そこが根底にあるのかもしれません。

太田:偶然性の体験みたいなものをお客さんにしてほしいっていうことでしょうか。

樋口:まあ、商売している人にしてみたら、甘いこと言ってんなこいつっていう風に思われるんでしょうけど(笑)、でもできないものはしょうがないですよね。お金を優先したら古本屋じゃなくて、普通に働いたほうがいいんですよ。給料を月に二十何万とかもらったほうが。正直自分の稼ぎとしてはそれより少ないんで。自営業やってるんだったら、もっと稼げよって思われるかもしれないですけど、そうなっちゃったら違うというか。日がな一日本読んだり、ボーッとして、でもちゃんと店の棚や本だったりっていうのはしっかり見てきちんと扱ってさえいれば最悪それでもいい。本を買いに来るお客さんはそんなの関係ない、探してる本が安く買えりゃそれでいいんだよっていうんだったら、ここ以外にブックオフみたいなところも含めて古本屋はいっぱいあるんで。だけどここにわざわざ来てくれるってことは、ここに、それだけじゃない何かがきっとあるんだろうなっていう、だからもちろんお客さんがうちの店を知って、どんどん来てくれたらそれだけ店は活性化するんで、そうなればいいですけど、そこで売上を重視するわけじゃないというか。ここに来て面白がってくれればいいんで、もちろん何も買わずに出られちゃうこともよくありますけど、その時に響かなかっただけで、また来てもらった時に響けばいいし、またその次、という風にしてだんだん来なくなる人もいれば、また新しくここを見つけてくれる人もいるんで、そこに関してはもう、店を持ってる意味はそれぐらいですよね。

太田:おすすめ本とか、そういう棚を作っているところも多いじゃないですか、そういうのはどうなんでしょうか。

樋口:聞かれたら、おすすめします。おすすめの詩集とか、ちょっと詩を読みたいんですけれど何かないですかって結構聞かれるんですけど、聞かれたらどんなの好きですかとか、どんな詩人が好きですかとか、っていう風に聞いて、こんなのはいかがですかっていうのはやりますけど、自分でゼロからはやらないです。知らなかった人にその場で知らせるというか、知らなかったでしょこの本、すごいんです、みたいなことはツイッターとかでも言わないようにしています。

太田:それはさっきの、要は偶然性の体験を奪うからっていうことですか?

樋口:そうですね。その時点で、自分で読みたいと思った本じゃ無くなっちゃうんです。だから誰かが褒めてたから欲しくなっちゃう現象というか、もちろん紹介されたことにより、面白そう、とかなれば別にそれはそれでいいんでそのこと自体は悪いと思わないし、どんどんやったらいいと思うんですけど、自分でやるとなったらできる限りそのものに対する情報は発信しないようにしたいですね。

太田:いち読者としてもそういう風にしてきたっていうことですよね、樋口さんが。

樋口:本に限らずですけど、やっぱり面白いって思うことに他者の意見というか目線が入っちゃうと、もうその時点で違ってきちゃうんじゃないかなって思うし、うちに限らず本屋にはこうやって本がずらっと並んでいて、それで決めるわけじゃないですか。だから、古着屋に行って服を選んでもらう感覚で本を選んでもらったら一番いいのかなっていう。

太田:普段使いの方がいいっていうことですよね。ふらっと来てふらっと見てふらっと買うっていうのが理想的みたいな。最初におっしゃっていましたが。

樋口:詩集とかに力を入れてますと言っちゃったから、まあ、分量としては普通の古本屋さんよりあるのでお客さんもそう思うのはしょうがないんですけど、だけどうちにそんな珍しい詩集はありませんよって思っちゃうんですよ。わざわざ遠くから来てもらっても申し訳ないですよね、正直。そんなにないんで(笑)
やっぱり詩っていうのはそれぞれいいところと悪いところがあって、それもたぶん勝手に判断して面白がってくれればそれでいいんで。もちろん探しているものがあったらそれはめちゃくちゃうれしいし、探してたの見つかったんです、と言われたらよかったなと思いますけれど、それだけになっちゃうとたぶん古本屋さんに行っても買う本ってほとんど無いと思うんです。どこの古本屋さんもそうですけれども、その人が探している特定のものなんてなかなかあるわけないんですよ。そういう本を探しているんだったらネットで買ったほうがいいですよね。何探してるかよくわかんないけどなんか面白い本ないかなって行くのが実店舗だと思うんで。たまたま目にとまってたまたま値段見てこれだったら買えるかなっていうのが大きいと思うんで。探していない本を買えるというのが実店舗のいいところだと思います。

伊藤:面白いなと思ったのは、そのフラットな目線というかそういう形って根底はブックオフとそんなに変わらなかったりするのかなと思ったのですが。

樋口:そうです、そうです。

伊藤:だから雰囲気のある、そういうミニマルなブックオフだなと思って。

樋口:あまり僕はブックオフの実情とかは知らないんですけど、たぶん店員さんの意思ってないじゃないですか。このジャンルだよって言われていて、その棚の空いてるところに挿してくださいみたいな。僕は全然それでいいと思うんですよね。この店に関しては、もちろんある程度の客層とかは考えていて、たとえばうちにビジネス書とか大量に並んでいても売れるわけがない。でもブックオフさんみたいにでかくて本がいくらでも出せるっていう店舗だったら出してると思うんですよ、普通に。だけどスペースの関係でそれよりも出したい本を優先するっていうだけの話で、ジャンルで決まっているわけではないんです。この本はしばらく売れてないからだとか、よりきれいな状態の本が入ってきたとか、あとはこれもう百円にしちゃおうかとか。だから、この狭いスペースでの優先度っていうのを考えた結果そうなっただけで、本のジャンル的に無理だなっていう考え方はないです。

太田:最初に「雑さ」みたいなものっておっしゃったじゃないですか。ジャンルを定めないこと以外で、その「雑さ」っていうのは何を指しているんでしょうか。

樋口:ひとつは値段ですかね。一冊一冊細かく値付けをしすぎないっていう、このへんは全部五百円かなっていうのを適当に自分の感覚で決めちゃったり。だからすごく高い本もあればすごく安い本もあると思うんですね。

太田:あまり調べないっていうことですか?

樋口:全然見たことなかったりとかすごく古かったりとかそういう本は調べますけど、基本的にはもう他のお店に行った時とか、自分が買うならっていう感覚だけでだいたい決めちゃうんで。

伊藤:極端なこと言うと、他店だと三千円ぐらいで売ってる本がひょっとしたら四百円ぐらいで売ってる可能性もあるっていうことですよね。

樋口:あります、その逆ももちろんありますけど。知識はどんどん溜まっていくので、この本はこの値段で売れたのか、なんか出してすぐ売れちゃったな、うちの店のくせに出してすぐ売れたっていうことはやばいな、とか(笑)でも調べて値付けしだしたらキリがない。ネット相場だって日々変わっていくんだし。

伊藤:「おれブックオフ」って感じですかね。ブックオフの話ばかりして申し訳ないですけど、ブックオフって本の状態が主な基準になるじゃないですか。だからすごい希覯本とかが安く値付けされてたりするっていう。

樋口:出版されて何年以内はこの値段とか何ヶ月以内とか、自動じゃないですか、本の内容に関係なく。そういうのと似てるっちゃ似てますよね。一冊一冊そんなに調べすぎないというか。もちろん自分がすごく知っていて、これはすごいぞっていうのはその値段になるし、よくわからないのはこんなもんかなっていうのもあるし、あとは表紙とかぱらっと見た感じで、だいたい五百円になっちゃうとかありますね。よくわかんないのは五百円だ!って(笑)買取で持ってきてもらった時はそんな雑な感じでつけちゃうと「ええ?」みたいになっちゃうことはあるので一応調べます。だけど最終的には自分の判断で例えば他店が三千円で出してるけど、うちは違うなって判断をする時もあるし。
やっぱり本を持ってきてもらうことって他のお店はわからないですけど、うちってそんなにないんですよ。本を持ってきてくれるだけでうちにはありがたい、正直。ほんとに売ることよりも買取のほうが大事で、買取がくればそれだけで棚がどんどん変わっていくので売れなくても棚が変わっていったら、「あの本屋はマメに変わるな」ってお客さんが来てくれますから。

太田:もっとこうなったらいいっていうのはありますか?社会的にって言ったら少し大げさかもしれな いですけど、本屋さん業界とか古本屋さん業界、まあ他は他という部分もあるとは思うんですが、 こういうお店が増えてほしいとか。もうちょっと連帯したいとか。

樋口:みんなで頑張ってイベントを打ったりっていう、最近だと神保町の古本祭りのかわりに有志の出版社さんがやってたじゃないですか、安く出したりとかっていう、そういうのは試みとしていいかなとは思うんですけど、自分からは動かないですね。ダメとかじゃなくて。

太田:思いついたけどやらなかった、みたいなアイデアはありますか?

樋口:ないんじゃないですかね。何も考えてないんで。店からはみ出すようなことも考えたことないなあ。特に古本屋さんはいろいろなんで、考え方も店によって違うし、新刊書店ってどうなんですかね。それこそジュンク堂みたいに大きなところも閉店する時代なので、在庫を大量に持ってなんでもかんでも置くっていうビジネスモデルはたぶん崩壊しちゃってるんですよね。Amazonがあるし。かといってじゃあ全部が全部京都の「三月書房」みたいになれるかっていうとなれないですよね。 あくまでも想像というか、そう見える、という話なんですけど、店主が一冊一冊選んでそのお眼鏡にかなったものしか入れませんという風にやっていて、その店主が入れたものだからっていう説得力があってみんな行ってたと思うんですよね。店主のファン、イコール店のファンっていうか。 僕も学生の時は行ってましたけど、「三月書房」にしかない本も結構あったはあったんですが、ただ、やっぱり歌集が強くても、全部の歌集が置いてあるわけじゃないんですよね、当たり前ですけど。その中で、こちらとしては、ここにはきっと店主がこれだと思ったやつが並んでいて、だからあるやつは面白いんだろうっていうのがあるわけじゃないですか。

太田:セレクトされていると。

樋口:結局どんな本屋さんでも、セレクトはしてるんですよね。大きい書店だろうと、個人書店だろうと。でも、セレクト系本屋っていう言葉がなんで生まれたかっていうと、ほとんどの本屋はセレクトしてないって思われているからですよね。取次がいってくるセットだけを入れてるみたいな。だからベストセラーしかないとか、セレクトしてないというけど、その店は取次がいってくるセットをセレクトしているわけです。
だから、本当にダメだなっていう、やる気もない本屋も中にはあるんですけど、ほとんどの人って駅前にある本屋でいいんですよね。だから、セレクト系本屋のどれくらいが、たとえば半沢直樹シリーズみたいなわかりやすいヒット本を並べてるか知らないですけれども、あくまでもたとえばですよ、あまり勝手なこと言えないですけど(笑)、かえってそういう本を選ばないことを選ばされちゃっているとか。そういう本を選んじゃダメっていう足かせみたいなのがある気がするんです。

太田:なるほど。

樋口:半沢直樹を面白いと店主が思ったとしたら、「うちはセレクト系本屋を標榜してるけど半沢直樹はすごく面白いんで置きます」、とか言ってくれたらいいんですよ。「鬼滅の刃を揃えます」、みたいな。でもなんかいかにもセレクト系本屋にありそうな出版社の本が並んでいたりして。

伊藤:逆にセレクト系本屋だというブランドに捉われているところがあるんじゃないか、みたいな。

樋口:読んでないですけど、半沢直樹が来たら並べますからね。うちでは売れないなとは思いますけど (笑)でも、自分達で在庫決められるじゃないですか、新刊書店って。でも何軒か行くと、ああ、 こういう本があるよねっていう感じになっちゃうんですよね。いや、いい本屋なんですよ。本好きって言われる人達が読まなきゃって思う本がある。でも、結局セレクト系本屋っていうだけで同じような本屋ができあがっちゃっている。そしてそういう店は都会、東京でもたとえば中央線沿いや下北沢なんかの文化の香りがして、なおかつ人が居る・来る町だからこそ成り立つんやと思います。人口数万人なんかの地方ではきっと難しいんじゃないかなあと。
そんなことを、僕はちょっと心配していて、お前ごときがなんだって話なんですけどね。結局、セレクト系の方が自分で選ぶっていうことができなくなってますよね。お客さんがその場で初めて見て手に取る本っていうよりは、どこかで評判を聞いてそういう本を探しにいくところになっちゃっている。でも、本屋の役割って、今日何々の新刊が出るから買いに行こうっていうのだけでなく、最初の方でも言いましたけど、全然知らない本があるのを見つけるっていうのが大事だと思うんです。だけど、セレクト系っていうのはそこから先、外に出ていかないというか。

太田:自分で見つけるという体験は、そもそもどういうことだと思いますか?

樋口:僕の場合は書店に行ったら探していない本しか探さないんですよ。あ、もちろん目的の本を買いにも行きますけど。聞いたことない作家とか、こんな本出てたんだとか。それは有名出版社だろうと、実は有名作家だったりとか関係なく、自分が知らなかった本しか見ないので。セレクト系の本屋が置いてる本でも、この作家は人気があって売れるっていうのはたぶん共通であるんです。そうじゃない、自分が知らないそういう本を見つけるっていうのがすごく大事なんですよね。新人のすごいやつが賞を獲ってバーン、とかじゃなく人知れず存在しているような。

伊藤:たしかにちょっと分断している感じはしますね。セレクト系本屋とかを回っていると社会がいまこうなってるんだっていうところにもうちょっと触れたくなるというか、いわゆる町の本屋とかの平積みをざっと雑に見た方が、世の中がどうなってるんだっていう流れにダイレクトに触れているような気がするんですよね。

樋口:大型書店ではなく、いわゆる町の書店とかに一冊あればいいっていうような本がセレクト本屋ではどこでも十冊平積みになってて、「出ました。入荷しました!」とか告知してるのがちょっと異常なんじゃないかと。

太田:単純にそういう状況が続くとどうなると思いますか?

樋口:読んでいる人と作る人だけの関係になっちゃいますよね、本が。

太田:ああ、本を読むかもしれない人たちを排除している可能性があるのではないかと。

樋口:そういう人たちをどんどん削ぎ落とそうとしてる状態になってしまうのではないかと。自分は本好きだという自覚がある人だけのものになっちゃうんですよ、本が。それやったらほんとに無くなりますよね。本というものを特別なものにしちゃダメなんです。個人的な考えですけど。どこの誰が行っても何かしら手に取れるものがないと、そこの本屋で本を買うことが目的になる本屋になっちゃったらたぶんダメだと思うんですよね。

太田:区別したくないっていうことですよね。本をもうちょっと平等に見たい。

樋口:だからわざわざ「セレクト」って言わなきゃいけない時点でちょっと異常だと思うんです。もちろんお店が自分で宣言しているわけではないと思うので、あくまでもそうカテゴリー分けしてしまう人たちが、なんですけど。ただ、なんで新しく個人がはじめる本屋が全部ああいう形態になっちゃうのかわかんないんですよ。なんか漫画だろうとエロ本だろうとビジネス書だろうと婦人公論だろうと何でも置いておく町の本屋として、だけど置くスペースの問題があるからその中から選ぶけどジャンルとしては何でも置きますよ、っていうのはなんで出てこないんだろうとすごく思います。
なんか、詩の世界とも似てるんですよね。いまのその感じが。詩ってどんどん売れなくなってるのはなんでかって言ったら、もちろんみんながみんなではなく、中には情熱を持って取り組んでいる人がいる、ということが前提で、詩を読まれようと詩人たちも出版社たちも何もしなかったからなんですよね。自分でお金出して出版してるじゃないですか。詩集っていまだに。おかしいってみんな思うんですけど、それが当たり前になっちゃって。だから経済的に余裕がある人は詩集をバンバン出せてそうじゃない人は出せないです。金銭的にも続かないから。で、発表の場はそれこそリトルプレスだったりとか、そういうところに行くけど、そこからが。

太田:なかなか広がっていくのが難しい。

樋口:うちうちで消費されて終わってしまっている場合が多い気がします。僕がリトルプレスを置いているのは興味ない人とかの目についてくれればいいなと思ってやってもいるんですよね。

太田:僕もあらゆる場所で中間がない気がしているんです。すごく小さいものとすごく大きいものしかないっていう感じはある。でもここって実はすごく難しいんですよね。そういったグレーゾーンのようなものって一番ジャンルレスじゃないですか。だからそうやってセレクトして売るしかないっていう側面もあると思います。大きいところに置いたら絶対に埋もれちゃって売れないものがあったとして、それをどうするかといったら、やっぱりピンポイントで売れるとこに置くしかないっていう風になると思うんですよ。ちょうどいい、選んでもらえるグレーゾーンみたいな所が今あまりないから。もしかしたら選ぶ方のお客さんの心理としても、そういう所では心もとないというか、大きい本屋か小さくてセレクトされているか、どっちかにしてほしいっていうのもあるかもしれない。

樋口:そのグレーゾーン的なところになっていたのが、昔の「あゆみブックス」とか青山の「流水書房」だったり、吉祥寺の「ブックス・ルーエ」とかだと思うんですよね。個人的にはそういうところに今後の希望があるんじゃないかって思ってます。何でもあるから。やっぱり本を普段そんなに読まない人が半沢直樹を目指して買いに行った隣で夏葉社の本を手に取れるような場所がないといけないと思うんですよ。

太田:お客さんの選択肢の幅を狭めたくないし、なるべくコントロールしたくないってことですよね。

樋口:個人的にはできるだけ選ばすに本を置こうと思っているので、どんな人が来るかわからないからこれはうちの店で難しいなと思った本でも売れたりするんですよね。

太田:売れると思っていた本が売れるよりも、売れないと思っていた本が売れた時のほうがお店側としても広がっていくものがありそうな気はします。

樋口:置いとけば売れるかもしれないんです。売れなかったら古本屋は廃棄するしかないけど、新刊書店は返本もできるわけじゃないですか。そう考えたらなおさらチャレンジしようがあるから、むちゃくちゃうらやましいですもん、こっちからしたら。古本屋って基本入荷を選べないですけど、新刊書店はいくらでも選べるわけじゃないですか。

太田:そういうことが将来的に読者数を減らしてしまうのでないか、と懸念されてるってことですか?

樋口:そうです。だって、なきゃ他で買いますもん。Amazonには絶対あるし送料もかからないし。もうちょっと別のやり方はないのかなと。まあそれでも本屋さんの生活が成り立ってるんだったらいいんですけど、その人達にとって、今のやり方で全然間違っていないし、利益もあがって家賃も払えてますとかだったらいいんでしょうけど、次に生まれる本屋も同じような本屋なのであれば、最終的には自分たちの首を締めることになるというか、やっぱり古本屋もそうですけど、そこの町にいる人たちが使ってくれないと。最終的には観光客気分で来る人だけを相手にしていたらたぶんもたないですよね。うちに遠くから来てくれる人もいるけど、常にそういう人たちが望む本があるわけではないっていう話と通じるんですけど。

太田:単純に家から一番近い古本屋だからっていう人にも来てほしいということですかね。

樋口:もっと言うと、特に目的がなくて来てる人ですよね。そういう人たちが来た時に、それでも何か買っていこうって探して、手に取れる本がどれだけ並べられるのかっていうのが大きいと思うんです。そのなかで、さっきから「売れない」なんて言ってますけど、詩歌俳句がたくさんある、ということですかね、やっぱり自分で店をやっている以上、好きなものが溢れていなければ面白くも楽しくもないので。

<2020/11/7 「古書 ソオダ水」にて>

古書 ソオダ水  http://kosho-soda-sui.com/
東京都新宿区西早稲田1-6-3 筑波ビル2A
営業時間11時〜20時 水曜定休 

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