見出し画像

第32走者 杉本 流:竹取物語の精神分析

2024年2月からはじまったエッセイリレー(ラリー)も、もうすぐ一年になります。そろそろネタ切れになるなと思いながら年末を過ごしていましたが、子供にせがまれて見に行った「はたらく細胞」や、年末に一気見した「ダンダダン」「コンフィデンスマンJP」など、書けそうなネタにはまだまだ困らなさそうです。今年もよろしくお願いします。
 
前走の川谷先生はブッダ/スピノザのお話でした。俗世では受動的な欲望(夢・願望・愛情・執着・コナトゥス)による誘惑が多く、能動的な欲望が出せないせいで苦痛が生まれるということだと理解しました。では、私からも「欲望・願望」に関連する昔話を一つ。竹取物語(かぐや姫)です。ストーリーは有名すぎてネタバレを気にする必要もないでしょう。簡単に書くと
 
1.貧しい老夫婦が一人の赤ん坊を授かった(竹藪から見つけた)。かぐや姫と名付けた。
2.生まれた竹藪から金品が出たこともあり、その子はすくすく育ち絶世の美女になった。
3.名声を聞いて様々な男性がかぐや姫へ求婚してきたが、かぐや姫はその全てを断った。
4.ある日かぐや姫は「実は月の住人なので月に帰る」と言い、そのまま去ってしまった。
の起承転結です。思いついた点を3つ書いてみました。
 
①女性から見た、男性像の破壊願望
今では当たり前に起きうる「女性>男性」の構図ですが、日本文化では長い間タブー(禁忌)とされてきました。竹取物語はこの部分がかなり強調されます。例えば、5人の求婚を断る、男親である翁(おきな=父親)の言いつけを破る、最高権力者の天皇の求婚を断るなど。これは、古来より女性たちが抱えていた男性への恨みのようなものが象徴され、発散されているのかもしれません。
 
②父目線の物語、娘への執着
主人公はかぐや姫なのですが、読者視点では翁目線の世界が見えており、嫁に取られる父親の悲しみのようなものがあるように思います。竹取り=嫁取りと掛けているのでしょうね。嫁に行ってしまう=月に行ってしまう、とも読み取れます。翁の精神世界の物語とみれば、嫁に行ってしまう娘への別離の悲しみを表しており、当時からその点に共感する人が多かったのかもしれません。
 
③翁は強盗?
翁がかぐやを連れ帰るシーン、起きたことだけを媼(おうな=母親)目線で忠実に表現すると「鎌を持って出かけた翁が、ある日赤ちゃんを連れてもどってきた」「その後も鎌を持って出かけた翁は、金品や高価な着物をどこからか持って帰ってきた」ことになります。これって強盗・誘拐を連想させるものかもしれません。作中でそのような場面は一度もないのですが、作中の翁の怒りっぽい側面を見ると…もしかしたら…と思ってしまいますね。
 
尚、この昔話を題材にしたジブリ映画「かぐや姫」も存在します。こちらはネタバレになりますのでご注意ください。
 
 
 
 
かぐや姫の物語~かぐやの犯した罪と罰~(アニメーション映画:2013年)
 
基本的には原作と同じストーリーですが、かぐやが現代人と同じような感覚をもっていたり、「捨丸」というかぐやの幼馴染みが出演していたりと細部が違っています。翁役の声優地井武男さんと、高畑勲監督はこの作品が遺作になられたとか。全体的な描写は古い水墨画・絵巻を思わせるもので、幻想的に描かれています。劇中でかぐやが「もののけ」のように恐ろしい姿に変化する描写もあり、凄く印象的でした。
 
副題にもあるように、原作ではやや曖昧にされている「罪悪感」が主題になっています。時系列で罪と思われるものを書きだすと「月の世界の住人なのに地球に行きたいと願う罪→捨丸にいちゃんに恋をする罪→翁の言うことを聞かない罪→ツバメの巣を取りに行った人を事故死させた罪」となります。そしてその罰とは、(かぐやの言動のせいで)それらを失うということ。地球に行かなければ地球から離れる苦しみは無かった、などなど。捨丸に至っては、相手に妻子が既にいるのに誘惑した描写がありますからその点が罪なのかな?
 

以上、竹取物語の精神分析でした。

いいなと思ったら応援しよう!