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【日記】「がんばれないコンプレックス」を克服するために必要だったこと


 
 わたしはかつて、「がんばれない若者」だった。
 自分でも、自覚していた。おそらく、自分がいちばん、自覚していた。「がんばれない」ことはもはや、コンプレックスの一つだと言ってもよかった。
 がんばりたくないわけでは、決してなかった。むしろ、目の前のこと、たとえば部活や勉強や仕事に打ち込んでいる同世代の子たちを見ては、羨ましくなった。どうして自分には、”あれ“がないんだろう。のめりこめるもの、夢中になれるもの、子供に戻れるもの、一度それに没頭すると、そこから抜け出せなくなるくらい、集中してしまう、もの。
 10代も、20代も、そういうものを探し続けていた気がする。
 大学に入ればきっと見つかるだろうという安易な期待も、叶わなかった。サークルに入ろうが、人気の教授の授業にエントリーしようが、バイトしようが。ボランティアやインターン、留学、旅、恋愛、いろいろなことに手を出したけれど、”あれ”はなかなかやってこなかった。どこにいるの。強い強い吸引力を持った何かは、いつになったらわたしを見つけて、わたしをその世界に吸い込んでくれるんだろう。
 いつもどこかぼんやりとしていて、目の前のことに身が入らない。やる気がないわけではないのだ。人生に、悲観しているわけでも。ただ、それまで一度も誰かや何かのために全力になり、結果を出すという経験をしたことがなかったから、そもそもがんばり方がわからないのだった。
 
 それで、だ。
 社会に出て働くようになり、10年くらいは経って、大学生のころはよくわからなかった「全力でがんばる」という感覚もなんとなく掴めてきたわけだが、これまでの経験もふまえて思うのは、そもそも「がんばる」を成立させるには、かなり重要な条件が一つある、ということだった。
 それは、周囲との「温度差」がないことだ。チームで動くのならば、みんなが同じくらいの熱量を持って、一つの目標に取り組んでいること。
 そんな、まわりがどんな反応をしようが、自分は自分。ぶれずにひとりでコツコツ目標に取り組むのが本当に「がんばる」ってことじゃないの? と、わたしも思っていたのだが、いやはや、人間、孤独で頑張り続けるってのはなかなかきつい。誰が応援してくれるでもなく、頑張った先に目覚ましい成果があるのかもわからず、これって時間の無駄じゃないの? 意味あるの? みたいな自問自答と闘いながら、ずーっとやるってのは、なんというか、「がんばる」超上級編だと思うんです。チームで仕事していても、たとえば、自分ひとりだけが必死になっていて、まわりが「勝手に熱くなるのはいいけど、うちらを巻き込まないでよね」みたいに冷めた空気を漂わせていたら、とてもじゃないけど、全力は出しきれない。
 そういう冷めた空気にあっても、自分の意思を貫き続け、いつしかそれがまわりにも伝わるようになり、世間にも評価され——みたいな、宮崎駿スタイルこそ「がんばる」の頂点という感じがするが、こんなの、一般人がいきなりできるわけないのだ。
 で、大学生のころのわたしは、まだがんばった経験が一度もないくせに「がんばる」超上級編を追い求めていたからこそ、迷走していたんじゃないかなあ。
 今振り返ると、社会人経験で得られたもっとも大きな学びの一つは、「がんばる」基本編を習得できたことじゃないかと思う。
 会社に入ると、自分にやる気がなくとも、能力がなくとも、まわりの人たちが高い温度で仕事していると、自分もそれに引っ張られていく。仕事に没入する方法がわかる。こういうときにギアを上げるべきなんだ、とか、こういうときは粘らなきゃいけないんだ、みたいなタイミングも、まわりに合わせているうちに体感としてわかってくる。
 子供の頃から「がんばる」基本編が身についている人にとっては、当たり前のことなのかもしれないが、「がんばれない若者」だったわたしにとっては、会社という場は、がんばりかたの癖をつけるための修行道場みたいなものだった。
 温度差のない場所で、みんなが一致団結して一つの目標に向かう。
 そういう経験ができたからこそ、フリーランスになった今も、なんとか会社員時代に覚えた「がんばる」の型を思い出して、えいやっと目の前のことに集中する場面が、よくある(いや、まあ今もひいひい言いながらやってるんだけど)。
 どこかで一度習得してしまえば、いろんなことに応用が効くようになる。そういう意味では、「がんばる」というのも一種のスキルなのかもしれない。
 ただ、今年で32歳。もっといい仕事、もっと面白いものを書くために、そろそろ「がんばる」上級編を身につけていかないとなあと、つくづく痛感しているこのごろである。いや、その前に体力が……。
 
 
 


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