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【執筆日記:8月9日〜12日】能力の限界をさとったときには/喫茶店でプロット/常連認定/取材

書いているあいだに気づいたこと、考えたこと、感じたことを忘れたくないと思って、執筆日記を書き始めた。そのときの感情はそのときだけにしか味わえないものだからね。と言い訳しつつ、自分を励ますためにメモしているだけかも。が、がんばれ俺!


8月9日(金)

新しい小説の執筆が行き詰まり、全体のプロットをゼロから練り直すことに。編集者さんにたくさんアドバイスをいただいた。ありがたい。ありがたすぎる。と同時に、自分の実力のなさに泣けてくる。埋まりたい。地層の奥深くまで引きこもりたい。おーいおいおいと目から血の涙を流しつつ、ディーン・R・クーンツの『ベストセラー小説の書き方』を読んでいたら「作家が、能力の限界をさとり、構想力の乏しさに悩みながらも、自分を叱咤激励して産みの苦しみをへたとき、はじめて真の名作は生まれる。こうした苦しみのなかでこそ、不完全な素材や未熟な技術を駆使して、持てるかぎりの力を発揮することになるからである」という言葉を見つけ、感激しすぎて雄叫びをあげる。
この日は喫茶店でずっとプロットを練っていた。言葉少なな店主はいつもそっとコーヒーを置いてくれる。近所にこういう場所があってありがたい。

8月10日(土)

今日も喫茶店にこもってプロット。あ、あつい。夏といえば! なコーヒーゼリーを食べながら名著『SAVE THE CATの法則』を読みつつ構成を考える。昔読んだような気がしたのだが、あらためて読み直すと新しい発見がたくさんあった。
脚本について調べていたら、大・大・大好きなディズニー映画『ズートピア』についての逸話を知る。チームの脚本家のひとりフィル・ジョンストンは、完成させるまでに400本以上の脚本がボツにしたらしい。400回の書き直しだよ、400回! プロでも400回もかけてあれを仕上げているのか、だったら駆け出しの自分がこの程度で落ち込むなんて烏滸がましいにもほどがあるよなと思い直す。

8月11日(日)

日曜日だから混んでるだろうなと思って今日も喫茶店に行ったらガラ空きで、お客さんがひとりいるだけ。店主に「あっ」みたいな顔をされる。いや、自意識過剰だよ、さすがにまだ常連認定はしてもらえてないよと思っていつもと違う席に座ってしばらくしたら、いきなり声をかけられる。「こっちの席がいいですか?」。私がよく座っているカウンター席にいた女性客が出ていったので、席を移動したいだろうと提案してくれたのだ。なんたる優しさ!「あっ、はい、ありがとうござま……」とおぼつかない返事しかできない自分が情けない。常連認定してもらえたのはうれしいが、すっぴんで来なけりゃよかったとか裏でニックネームとかつけられてたらどうしようとかどうでもいいことが気になってしまう。
夕方、本屋に行って資料探し。ちょうどいい本が見つかった。最近「何かを失う」ことの怖さや、失ってしまったあとの感情とどう向き合うか、みたいなテーマに目がいってしまい、「老い」や「死」についての本もいくつか買ってみた。

8月12日(月)

3日間、喫茶店にこもっていたおかげでプロットが固まってきたので、今日はそれを整理する作業をした。思いつくままに適当にメモしていたアイデアを文章にしてまとめていく。きっちり書いていくと抜け漏れがあることに気づく。なんとかまとまってきたかなあ。いや……。どうだろう。不安。これって面白いのか? と囁き続けるスタンドがずっと私の背後にいて剥がれてくれない感じ。
夜は、元カノごはん埋葬委員会。知人男性に恋愛のあれこれを聞かせてもらう。いやー、女と男で結婚に求めるものってちがうんだなとあらためて実感。失恋して引きずったあとどうやって気持ちを整理しているかも、人によって解決策が違っていて、面白かった。
帰宅後、小説を書くって本当に大変だなとつくづく思う。一人ひとりのキャラクターにはそれぞれの人生がある。その人がどういう人物なのか、どういう価値観の人で、どういうことを大事にしているのかを、私が誰よりも深く把握してなくちゃいけない。むずかしい。苦悩。む。




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