新型コロナウイルス感染症モニタリング検査 #1.5
こんにちは、翡翠です。
今回は、前回の内容の追記(#1.5)として、検査結果の『測定不能』とはどういうことかについて、解説したいと思います。
前回
新型コロナウイルス感染症モニタリング検査 #1
https://note.com/kawasemi_no_hina/n/n24a3d781d021
2021/03/21
PCR検査結果に表示されるメッセージには、『陽性』、『陰性』、『測定不能』の3種類があります。
このうち『測定不能』について、PCR検査でウイルス量を測定しても検出できなかったということは、「それは『陰性』ではないのか?」と思う人がいるかもしれません。
実は、新型コロナウイルスのPCR検査(リアルタイムRT-PCR)では、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の遺伝子だけでなく、同時に『RNase P』と呼ばれるヒトの遺伝子も検出しています。
タカラバイオ株式会社
Takara SARS-CoV-2 ダイレクトPCR検出キット(体外診断用医薬品)
https://www.takara-bio.co.jp/medical/pcr_kit.htm
添付文書
https://www.takara-bio.co.jp/medical/pdfs/SARS-CoV-2_2002K.pdf
多くのmRNAは翻訳されて機能的なタンパク質となります。
しかしながら、このRNase Pは、ある特定のRNAの配列を認識し、これを切断する『リボザイム』と呼ばれる、RNAのまま機能するRNAの一つです。
この発現が全ての細胞でほぼ一定であることから、『インターナルコントロール(内部標準)』として使われます。
PCR検査で使われる『リアルタイムRT-PCR』は、本来、RNAの本数(コピー数)を定量するものであると、以前書いた記事で紹介しました。
PCR検査における『Ct値』について
https://note.com/kawasemi_no_hina/n/nd969f33674b7
2021/02/24
例えば、ある目的の遺伝子AのmRNAをリアルタイムRT-PCRで定量した結果、ヒトの肝臓から採取した検体では1,000コピー、膵臓から採取した検体では2,000コピーあることが分かりました。この結果だけ見ると、この遺伝子Aは、膵臓で多く発現している遺伝子と思われるかもしれません。
しかしながら、インターナルコントロールであるRNase Pを定量した結果、同じ肝臓の検体では10,000コピー、膵臓の検体では20,000コピーあることが分かりました。RNase Pは全ての細胞で発現がほぼ一定であることから、単に検体中の細胞数が2倍であり、実は、一細胞あたりの遺伝子Aの発現は肝臓と膵臓で同等であったことが分かりました。
極端な例にはなりましたが、 RNase Pを検出することで、正しく結果を解釈することができるようになります。これがインターナルコントロールの役割です。(RNase P以外に、18S rRNAやβ-アクチンと呼ばれる遺伝子も、インターナルコントロールとして使われます。)
肝臓や膵臓だけでなく、もちろん口の中の細胞もRNase Pを発現しています。
口の中の傷の治りが早いことは経験的に知っている方も多いと思いますが、実際に口腔粘膜上皮の細胞の入れ替わり(”ターンオーバー”)は5~6日であることが分かっています。(皮膚のターンオーバーは年齢によって大きく変わりますが、28日とされています。)
口の中には、食べ物、歯や舌の接触、ターンオーバーで口腔粘膜上皮から剥がれた細胞が多く存在します。それらが唾液採取の際、唾液と一緒にチューブに入ります。PCR検査でRNase P遺伝子の配列を検出すれば、唾液(細胞)が入っているかどうかが分かります。
したがって、例えば、会社などで無理やりPCR検査をやらされたからと言って、「旅行にも行きたいから、陰性になりたい!」とチューブに水を入れて提出しても、RNase P遺伝子が全く検出されず、すぐにバレます。笑
ダメですよ!笑
また既に症状のある人が、できるだけ口の中のウイルス量を少なくして陰性になろうと、よくうがいをした後に唾液を採取しても、口の中にあった細胞も一緒に流されてしまっていますから、やはりRNase P遺伝子は正しく検出されません。
一方で、きちんと正しく唾液を採取したとしても、発送を忘れていて時間が経ってしまったら、RNase Pは分解されてしまい、正しく検出されません。(RNase Pが分解されたのであれば、SARS-CoV-2のRNAも分解されてしまったと考えられます。)
そして、(いないとは思いますが...)ヒトのRNase P遺伝子を検出していますから、飼っているイヌ・ネコの唾液を採取して発送してもダメです!笑
PCR検査でヒトのRNase P遺伝子が正しく検出されなかったために、結果『測定不能』になってしまったら、当然『陰性証明書』はもらえません!
再び検査キットを購入して(会社持ちかもしれませんが...)、唾液を採取して提出するなんてバカらしいでしょう。(RNase Pのことを知らなければ、最初は水でダメ、次はうがいでダメ...を繰り返すかもしれません。)
以上。
PCR検査における『RNase P』の役割について知ってもらいたいと思い、追記(#1.5)として記事を書いてみました。
RNase Pのチェックによって嘘・ごまかしはすぐにバレますが、そもそも検査説明書に書かれた手順・注意事項はきちんと守り、正しく検査を受けましょうね!
ではまた。
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