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ピースがハイライト 〜 【本郷隼人の名盤紹介①】宮本文昭『BLUE VOICE』

 困ったことに愛煙家であるわけだが、そうなってしまった原因イイワケの一つに、前世紀末までは当たり前のように放送されていた、タバコのTV-CMがある。

 流されるのは、ほぼ深夜帯。でこれがまたその時間のアダルティな番組たちと相まって、どこぞの豚ではないが「カッコイイとは、こういうことさ。」に、まんまと洗脳されてしまったわけですな。

「MILD SEVEN」の真っ青な空に白いひこうき雲(宮﨑駿つながり)、「PARLIAMENT」の都会の夜景と着飾った紳士淑女、「KENT」のジェームス・コバーン……等々、「LUCKY STRIKE」のバイクのおっちゃんはなんだかなーだったけど(笑)、洋酒(死語)のCMも併せて——まあ昭和クオリティと言えばそれまでなんだが——大人の男への憧れってヤツが、大いに喚起されたわけですよ。

 で、中でも衝撃だったのが、そろそろ三十路アラサーの声が聞こえてきた頃の、バブル絶頂期のこれ。

 のちに指揮者となり『タモリ倶楽部』のクラシック回にも出演していた宮本文昭さんが、オーボエ奏者(ケルン放送交響楽団首席)時代に出演された「PEACE」のCM。
「オーボエ奏者がタバコなんか吸うんじゃねえ!」という俺ですらのツッコミはさておき、いやもうイチコロ(笑)

 慌てて購入したのが、今回紹介するアルバム『BLUE VOICE』

 もとよりクロスオーヴァーってんですか、「クラシックのポピュラー編曲・変奏」はなんとなく好きだったんだけど(これはまた別途語りたい)、現在に至る俺の趣味嗜好が、決定づけられたと言っていい。
『イパネマの娘』や『おもいでの夏』などクラシック以外も入っているトコがまたイカすんだけど、もうね、名編曲・名演奏ばかりで、たちまちのうちにハートを鷲掴みにされた。

 分けてもいまだに「この編曲と演奏のためなら世界を敵に回してもいい」というぐらいに好きなのが、このアルバムの中では『回転木馬』と題されている、サティの「ジュ・トゥ・ヴ」。

 ちょっと脱線するが和訳タイトルでは「あんたが欲しい」(男声では「おまえが欲しい」)ともされるこのジュ・トゥ・ヴを初めて聞いたのはハタチぐらいだったんだけど(もちろん原曲のピアノ。加藤和彦トノバンのアルバムが最初だったな)、その頃からこの曲は「娼婦の純情」だと思っていた。
 それが最も腑に落ちるカタチで編曲・演奏されたのがこの『回転木馬』で、まさにベル・エポック、ムーラン・ルージュの雰囲気。もっと言えば映画『スティング』(1973)の、とある場面にも通じる。
「『ジュ・トゥ・ヴ』を『回転木馬』とするセンス」もまた、全俺を泣かせたわけだ。

 とまれこのアルバム『BLUE VOICE』は以来30年以上にわたり毎年「秋が深まってきたら必ず聴いては泣く」ものとなったのだけれども、広く知られているわけでもなくまた既に絶版(絶盤)となって久しく、なかなかその魅力を伝えられずにほぞむというのが長らく続いていた。

 が、願いというのは叶うもので、今年の7月末に、遂にサブスクで解禁となりましたーっ!!!(涙)

◆Apple Music


◆Spotify


 ところで今回Apple Musicで聴けるようになりあらためて知った新事実なんだけど、当時は宮本文昭さんの演奏ばかりに気を取られてたこともあり、編曲が誰かをまったく意識していなかった。
 ところがぎっちょん。『回転木馬ジュ・トゥ・ヴ』は、かの名作アニメ『パンダコパンダ』(またも宮﨑駿つながり)の劇伴サントラを手がけた佐藤允彦先生であり、他の曲では『象印クイズ ヒントでピント』や大瀧詠一師匠作曲『熱き心に』のストリングスアレンジを手がけられた前田憲男先生とのこと。どちらも一流のジャズメン。驚いたのなんのだが、言われてみれば成程納得。いやー、これだから〝好きであり続けること〟は大切なのだよね。

 同時代のサントリーウイスキーのコピーっぽいが「古代のひびき」とも称せられるオーボエの枯れた音色と、洗練ソフィスティケートされた編曲と演奏が、ことにこの季節に、五臓六腑にみ渡ること請け合いだ。

 ぜひ、お聴きいただきたい。



追伸:
こんな感じで、これからジャンルを問わず俺が愛してやまないアルバムを紹介していきたいと思う。
よろしくお願いいたします。

蛇足:


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