にぽかわせらせんレトロゲーム座談会
かわせ:こんにちは。『銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE』編集長かわせです。今回もメンバーの皆さんの活動を紹介するシリーズ。にぼっくめいきんぐさんのお仕事について、座談会形式でお送りします。にぽさんはかなり手広く活動されていて、今回取り上げるのはゲームアーカイブについてです。よろしくお願いします。
にぽく:よろしくお願いします!
かわせ:さらにはですね、今回は神楽坂らせんさんにも参加していただきます。よろしくお願いします。
らせん:よろしくお願いしまーす!
かわせ:さて、この座談会を企画したきっかけは、にぽさんの活動が記事になっていたことです。こちらです。
倒産した会社のゲームを海賊版に頼らず遊びたい、可能にする方法とは 大森敏行 日経クロステック 22/8/29
僕、この記事読んで、両サイドの人に比べて真ん中のにぽさん=松田さんが、ちょっと謎の人になってるなと思っちゃったんですよね(笑)。併記されてる肩書きのところが、他の人はストレートに話題につながってるのに、にぽさんはちょっと違う。その上にあまり関連なさそうな仕事が二つ並んでる。なのでその辺りの経緯から整理してみたいと思います。
元々の本業は特許関連のお仕事をしている弁理士さんですよね?
にぽく:はい。主にソフトウェア関係の特許を扱う弁理士です。
かわせ:そこからだんだん著作権絡みの活動が増えていったような印象なんですけど、きっかけはなんでしたっけ?
にぽく:うーん、きっかけは、どこまで戻ってお話するかによりますね……。第1のきっかけは、鷹野さんおよび福井建策先生と、同時に出会った、という所になります。つまり独立作家同盟(現:HON.jp)の渋谷でのイベントが、一番最初です。
その後、鷹野さんの門下で小説を書き始めた(月刊群雛)ことについては、ガンズの読者さんにはご存じの方もいらっしゃるかと。つまり著作権というより、著作物そのものと向き合うことになったわけです。
一方、福井先生からのお誘いで、弁理士枠で某学会に入り、色々やっていたら、なんと漫画家の赤松健先生が後から新入部員として入って来た、というのが2つ目のきっかけ。
そして、その赤松健先生ご本人から、レトロPCについて軽い相談を受けたのが3つ目のきっかけですかね。このあたりまでくると、ゲームアーカイブの話になります。どのあたりのきっかけのところをお話すればいいですかね(笑)
かわせ:日本独立作家同盟の福井先生のイベント、面白かったですよね! これですよね。
インディーズの護身術 —表現とアイデアを分ける著作権のツボ— NPO法人日本独立作家同盟セミナー講演録
親会がありましたけど、そこで福井先生とお知り合いに?
にぽく:です。懇親会で福井先生と少しお話させて頂きました。まだ著作権にもそう目覚めていなかった時期で、刺激が強かったです。
かわせ:そこから始まったわけですね。僕は今HON.jpでイベントする方のお手伝いをしてますけど、企画側からしたら、そういうきっかけになってるのはやりがいのあるいい話ですねえ。
にぽく:縁を繋いで頂いてありがとうございます。独立作家同盟のイベントがなければ、赤松先生とお会いする展開もなかったわけですから。
らせん:あら、赤松健先生ってレトロPC興味ある方なんですね。ウチ、父がそういうの好きだったもので結構コレクションありますよー。
にぽく:赤松先生はレトロPC相当お詳しいですよ! 先日も、アセンブラの話とか、フロッピーディスクのプロテクトの種類の話とかをしておりました。赤松先生は、学生時代に「パラディン」というゲームをお作りになった、ゲームクリエイターでもありますし。らせんさんのお父様と、おそらく話が合うのではないかと!
らせん:なんと! そうだったのですか。赤松先生ゲーム作られていたのですね。父ともしかしたら同世代なのかもしれません。今度実家に帰ったら自慢してやります(自慢になってない(笑))
ところで、フロッピーディスクのプロテクトと言えば、ちょっとロストテクノロジー・SFネタになりそうなやつを聞いたことがありますですよ。
なんでも、ハードウェア的にフロッピーディスク・ドライブの回転数を変化させていて、通常回転数でコピーすると違うデータに化けてしてしまう。のだとか。
バックアップ・コピー用のソフトの業者も、これに対応するためにドライブの回転数を手動で制御するデバイスをソフトに付属させたりして、いろいろいたちごっこしていたそうです。
最近はレトロゲームは当時のコンピュータをエミュレーションして仮想的に動かしているみたいですけど、こんな外部のハードウェアやデバイスに依存しているゲームって、ちゃんと読み取れるんでしょうかねぇ。
将来、レトロゲームをプレイするのは、まずプロテクト暗号を解読しないといけない、ロゼッタストーン的な高度な遊びになるのかも!? なんて思ってます。
にぽく:そうそう! フロッピーのプロテクトって、回転数プロテクトとか穴開きプロテクトとか、かなりの種類があるんですよね! すごいいたちごっこ。ゲーム保存協会のルドンさん達に先日お会いしたのですが、「そのいたちごっこの歴史自体も、保存すべき文化だ」とおっしゃっておられました(すごく納得)。
そして、ある意味「SFは現実化する」展開に進んでおります。ゲーム保存協会さんの所に「ポリーヌ」というデバイスがあります。かなりすごいデバイスでして、既に多くのプロテクトに対応済みのようです。そして、国会図書館(以下、NDL)は、その「ポリーヌ」を使ってマイグレーション(フロッピーからの媒体変換)作業を既に開始しているという現状にあります。
らせん:すごいですよねぇ。プロテクトとプロテクト破りの攻防いたちごっこ。
私も実はそのあたりに興味があって、いつかお話にとりこみたいとおもっていたのです。それを文化と捉えてる方がいるとはおどろきです。本にでもして出してほしいー(あ、ネタが取られちゃうのでまずいですね(笑))
あ、ディスクの穴開きプロテクトといっても一般の方にはきっとわかんないですね。
ここでプチ解説を入れておくと、フロッピーディスクの内側には回転数検知用の小さな穴が開いているんですけど、その数を増やして、回転数やヘッドの位置をハードウェアが誤認するようなワザのことだと思います。
磁性体が塗られているデータ部分に物理的に穴をあける方法もあったのかな? そのあたりまでは把握できてませんが。
それにしても、こんな風にメディア自体に細工をしてまでコピー対策をしていたってことですねー。
で、「ポリーヌ」さんですか、彼女(でいいのかしら?(笑))はそこらへんまで対応できちゃってるんですか? だとしたらすごいですね! AIでも組み込まれているのでしょうか。ぜひ自我を与えたい!!(なんちゃって)
かわせ:穴の通過で回転を検知しているので、一つ開いてるはずのところに二つ開けると回転数を二倍だと勘違いしてしまうという感じですか?
らせん:私はそう理解していましたけど、よく調べてみたらそれだけでもなくて、その穴の位置を元にしてデータの読み取り位置を変えたりすることもあったようですねえ。ほんと、調べれば調べるほど奥が深い。ロストテクノロジーですねー。
にぽく:ゲーム保存協会
上記のサイトによると、ポリーヌは「オープンソースで発表」とのことなので、数あるプロテクトに対してそれぞれどういう対応なのか、聞いてみたいですね。その前に僕は、プロテクトの勉強がもっと必要ですけど。
ともあれ、「プロテクトがかかっているフロッピーのデータをどうやって保存するのか?」という部分の課題については、ゲーム保存協会さんのお力に頼るのが一番! という所感です。要は一番詳しい人にお願いする手筋です。
かわせ:機械側からもコピープロテクトしようとまで考えた人は、さすがにずっと先の保存のことまで考えてなかったでしょうねえ。にぽさんがレトロゲームの保存について関心を持ったのは、赤松先生とお話してからですか? もともと問題意識があった?
にぽく:私に完全にスイッチが入ったのは赤松先生とお話してからです。と言いつつ、それよりだいぶ前に、ゲーム保存協会さんのサポート会員になったりしていました。
アーカイブというと、本とか文書とかアートとかいうジャンルの話が多く出るのですが、僕は物心ついた頃からのゲーマーなので、「ええと……ゲームはアーカイブしないの? ゲームは蚊帳の外なの?」という思いがちょっとあったんですよね。
といっても、何をどうすればいいかもわからないので、先達にお金だけでも……。と、ゲーム保存協会のサポート会員になっていたわけです。一口3000円のやつ。ところが、去年の引越しを期に状況がよくわからなくなってまして(汗)、再度のサポーター登録が必要かもしれません。
コピープロテクトの他にもたくさん問題がありまして、例えば、ゲームのNDLへの納本状態が、2000年以降と、1999年以前とで全然違うようだ、という問題点に先日気づきました。国会図書館オンラインでコツコツと個人調べをしたんですけど、大手パブリッシャーのゲームについての所蔵が、2000年以降は年間2桁ぐらいなのが多いのに、1999年以前は、0本とか1本とかが多かったんです。 つまり、前世紀のゲームが滅失しやすい(ゲーム会社のリポジトリに残っているならセーフだけど)という状態にあります。
以下の画像は、前世紀と今世紀のNDLの所蔵数(7月、にぽ調べ)です。
かわせ:ほんとにきれいに別れてますね。これは確かになくなってしまいそう。にぽさんが古物商の免許取ったのもこれ絡みでしたっけ?
にぽく:はい。保存したいゲームはクラシックゲームなので、昔からのプレイヤーではあるものの、(もっと実物に慣れ親しまないと、保存の肝は押さえられないのでは?)と思ったので、古物商の免許を頂きました。商売で扱えば詳しくなれるんじゃないかと思って。
ちなみに、クラシックゲームというのは、一般では「レトロゲーム」と言われるものです。クラシック音楽と同様、文化的価値があるので、アーカイブの世界では「クラシック」と表現する方が多い印象です。
かわせ:これでにぽさんの特許事務所/古物商という謎の肩書が解明されましたね(笑) ちなみに上の表なんですけど、以前納本していなかったというだけではなくて、ぱたっと止まっちゃってる会社があるじゃないですか。これは潰れちゃったところですか? それとも別の理由で?
にぽく:一部は合併によるものですね。つまり甲社と乙社が合併して、その先は甲社の方だけに計上して、乙社については0としている場合。また、理由が分からない0化もあります。納本を止めてしまったのか、名義を変えたのか、その他の理由なのかが特定できないケースです。表に挙がっている会社は、(合併はありますが)倒産などせず、いずれも存続しています。
らせん:バン〇イとナ〇コが合併したり、スク〇アとエ〇ックスが合併したりしたやつですかねー。このあたりはまだ社名のこってますけど、社名も消えてしまった会社も多かったハズ。
かわせ:社名ごと消えちゃったところのゲームがどうなってるのかということですね。
にぽく:社名ごと消えても、ゲームについての権利が他社に移転していればまだ、移転先の会社にお伺いする手筋があるので良いんですよね。「社名が消える時に権利がどう扱われたのか分からない」会社の場合に困ります。誰にお伺いを立てればよいのかわからないので。
著作権法でいうと、いわゆる裁定制度の筋になります。権利者不明であって、探しても見つからない時に、供託金を事前に払っておいて文化庁長官の裁定をもらって実施する、という手筋。
CEDECでも触れましたが、実例がありまして。ファミコンの「北斗の拳」が裁定制度を使って復活しています。「あべし」を取ってパワーアップするやつです。デベロッパーのショウエイシステムが倒産しちゃったので、発注元の東映アニメーションが裁定申請をした、という例。
らせん:発注元がキャラクターの版権を持っている場合はそういう手がありそうですけど、キャラクターやストーリーも内製していたゲームデベロッパーさんが倒産してしまうとわかんなくなりそうですよねえ。
キャラクターやストーリーや、ゲームシステムなどのそれぞれの著作権の問題も出てきそうですね。
にぽく:まさにそれなんです。ゲームってクリエイティブの元気玉みたいな感じですから、本来の著作者はすさまじい人数が居るんですよね。CGも、音楽も、テキストも、あれも、これも、それも、著作物ですもの。
普通は、そういうたくさんの著作物の権利を、ゲーム会社に集中させてゲーム販売……となっている「はず」。著作権法における職務著作もありますが、雇用契約などでも著作権の扱いが書いてあると思われます。権利を集中させていれば、その後の続編がどうとかスピンオフがどうとか、アニメとの連動がどうとか、等々にも対応できるので。
そして、存続している会社において、権利を管理している立場であれば、前記の「はず」が取れて、確証が得られるわけです。「北斗の拳」の東映さんとショウエイシステムさんのように、発注関係がある場合も、当時の契約状態を把握できると思われます。
一方、「引継ぎもよくわからないまま無くなってしまった会社」の場合、「そもそも権利者は何人いるのか?」「無くなった会社にちゃんと集約されていたか否か?」とかいう所に、もう確証がなくなるので、裁定申請ですらしんどくなるんですよね。。。裁定申請の実務に、実際に関与したことありますけれど、「権利者が誰か」っていう所は、なあなあでは済まないので。
そしてこの、「権利者が誰かわからん! うがぁぁ~!」問題を、国会図書館なら突破できたりするわけです。
かわせ:テレビ番組の場合でも、権利者に連絡つかなくなることがあるらしいですもんね。
そうすると、2000年より以前のゲームが大変そうですねえ。
にぽく:はい。テレビの場合は、エキストラなどに連絡がつかずに「エイヤ!」で放送してしまうのが現状だ、、と、福井先生の以前のご講義で伺ったことがあります。
このあたりのテレビの「放送アーカイブ」を、CEDECで一緒にご登壇頂いたNHK放送文化研究所の大髙さんが研究なさっておられます。「放送アーカイブとゲームアーカイブは似たところがあるから……」という理由で、大髙さんに、ゲームの方にも多大なるご協力を頂いている、という状態です。
そして、2000年以前のゲーム、確かに大変なんですけど、少し道は見え始めてきてます。
まず、「寄託部」という部活をやっています。僕のポケットマネーで新品未開封のゲームを仕入れて、国会図書館に寄贈するという活動ですね。この活動を、もう少し組織的にできないか? というお話を、研究チームの方から頂いています。例えばクラファンとかDAOとかですね。つまりゲームの実物収集は、にぽ個人の趣味から、組織的行動へと、規模拡大して対応となるかもしれません。
次に、国会図書館は著作権法31条の権利制限規定を使えます。国会図書館は、「著作権者の明示の許諾が無くても」31条に規定の行為を行うことができます。図書館資料の保存のため必要がある場合の複製とか、(特定)絶版等資料を記録媒体に記録して自動公衆送信するとかですね。つまり、「権利者が誰かわからん……」という問題を、国会図書館ならば、法的に超えられるということになります。(僕ら一般人では超えられません。国会図書館だから特別にOKというお話)
そして、国会図書館は今、「館内での実機プレイ」を試行しています。9/13に実際に、国会図書館でゲームをプレイしてきました。実機の場合、数十年経つと壊れると思うので、短期スパンの話ではありますが、公用・学術研究目的であれば、すでにPlaystation1~3のゲームを国会図書館でプレイできる状態です。
ここから先は、赤松先生のお力もお借りして切り開く、ということに、おそらくなると思います。赤松先生は既に、国会図書館にレク(事務所に関係者を呼んで色々とヒアリングできる、レクという権限を参議院議員はお持ち)を行っていますので。
らせん:レク! シン・ゴジラでちょろっとそんな単語が出てきた気が!
(適当に口走っててすみませんw 無視してOKでっすー)
国会図書館でゲームプレイできるのってすごいですね! 映像ソフトとかの視聴ブース的な感じなのかしら。そこに歴代のゲームがそろっていたらかなりたのしそう。(笑)
ただ、ゲームって適当に早回しして必要な場所だけプレイすることってできないじゃないですか、RPGとかで途中の村の情報を閲覧したい。って要望が例えばあったりしたら、図書館的にはどう対応するんでしょうね。
個人のプレイデータのセーブって問題もあるし、いろいろ考えると図書館でプレイするのって普通のプレイ環境の再現は難しそうですねえ。
にぽく:まさにそうなんですよ! 現状では、プレイ時の制約が色々あります。第1に、セーブデータは翌日引継ぎ不可であり、NDL側で削除されます。つまり、例えばRPGで2日間プレイしてようやくたどり着く村の情報などは、NDL館内プレイではお目にかかれないことになります。
第2に、9/13には「ドラクエ5」「ガンサバイバー2バイオハザードコード:ベロニカウイズガンコン2」「パラッパラッパー」の3タイトルをプレイしてきたのですが、ガンコン2はセッティングされませんでした。本体はPS3での提供だったので、PS3用の通常のコントローラでのプレイでした。注意書きにも「特殊な機器や持込機器の使用、接続はできません」と記載されているので、例えば「太鼓の達人」のタタコンや、「ダンスダンスレボリューション」のマットといった周辺機器を使ってのプレイ体験は、研究目的でも不可ということになります。
第3に、注意書きには「インターネットに接続しての操作はできません」とあるので、ゲームのプレイ中にサーバからデータをロードするタイプのゲームはうまく動かないだろう、というのがあります。
第4に、注意書きには「データの複製、撮影、画面キャプチャの取得はできません」とあります。例えばゲーム関連の学術論文を書きたくて、研究目的でプレイしたとしても、画面キャプチャ等はできないので論文等には画面を載せれない、ということになります。
というわけで、らせんさんがおっしゃる通り、現行の運用では、普通のプレイ環境の再現は種々の観点から難しい、ということになります。この「プレイ環境」が、かなりセンシティブで難しいところなのではないか、というのが現状の所感です。
さらに、昔のゲームだと、コントラストの明滅が使われているようなものもありそうです。NDLの館内で、いわゆる「ポケモンショック」であったような、光過敏性発作が起きてしまうとマズイです。(このあたりをNDLがケア済であるかはまだ調査していません)
かわせ:昔過ぎてちゃんと覚えてないんですけど、「ふっかつのじゅもん」だったらセーブ関係ないんでしたっけ?
にぽく:はい。ドラクエでいうと、ドラクエ1、2なら「ふっかつのじゅもん」で行けます。ドラクエ3からは冒険の書なので問題が発生します。ロックマンのマトリクスとかもありますよね。ちなみに9/13のNDLでのプレイでも、「ドラクエ5でぼうけんのしょがセーブできずにそもそもスタートできない」というピンチに陥りました。メモリーカードが本体に刺さっていないからです。
らせん:あー、メモリーカード必須なんですね。そういうゲーム多そう……。
レースゲームもハンドルがあるとないとではプレイ経験だいぶ違うでしょうし、「ゲーム機本体だけ」で遊ぶことを前提とした、あんまり尖がっていないふつーのゲーム(それだけプレイ経験としては中央よりでつまらない?)ものしかできなさそうですねえ。
メモリカードで連想しましたが、パソコンのゲームとかも対象なんでしょうか。パソコンって本体拡張しないと遊べないゲームとか特にレトロなMSXとかに多かった気がします。本体に内蔵しているメモリがすくなすぎて、拡張メモリー刺さないと遊べないやつとか。そういうのも難しそう……。
あ、そうか、パソコンの場合、エミュレータで動かせばいいのですね。最高スペックの仮想ハードならだいじょぶか。
でも、アクションゲームの場合ジョイスティックが必要になっちゃうか。
最初からジョイスティック付きのパソコンってまずないですよねえ。パソコンの場合、ゲームするならジョイスティックぐらい用意するだろうって前提でゲームつくられていそうだし、やっぱり本体以外のデバイスの可否はプレイ経験に相当影響しそうですね。
にぽく:そうなんです。他にも電車でGO!のマスコンとかもあります。NDLの現在の運用のままでは、そういう周辺機器を繋げない。よって、尖ったゲームはアーカイブとして「体験可能」な形で後世には残らない、ということになってしまいますね。「図書」館に何を求めてるんだ? という大元の所から論点があるんですよね、なにげに。感覚的には、ゲームは、「図書館」より「博物館」の方が合っている気がします。実際、ゲーム博物館の試みは先行例が種々あるようですし。
(1)NDL、(2)博物館ときて、さらに3つ目の主体も実は想定できます。それは、メディア芸術ナショナルセンター。MANGA(MAnga、Animation、GAme)に特化して収集する組織でして、例えばアニメのセル画とか。メディア芸術ナショナルセンターは、実は国会図書館と同様の権利制限(31条)を使える組織になります。(国立国会図書館法3条の「支部図書館」という扱いになるため)
メディア芸術ナショナルセンター法案が通って、実際に出来るなら、そこには予算もつくでしょうし、MANGA特化だからNDLよりも柔軟な保存活動もできるかもしれない……ということで、だいぶ期待がもたれてはいます。ただし、法案が20年ぐらい通らずにいるんですけどね……。
PCゲームも、パッケージ化されていれば、現行法でNDLへの法定納本の対象になりますね。つまり出版者側に納本の義務があり、違反すると過料です。 問題は、ハードの方ですよね……。後方互換がどの程度効くか? という話がでます。そしてらせんさんがおっしゃるように、プレイするだけなら(周辺機器などにこだわらないなら)エミュレータの筋があります……が、周辺機器とかメモリーカードとかはどうするの? という部分は残ります。
メモリーカードについては、例えばPS3本体には、「仮想メモリーカード」を作る機能がついていまして、前述のドラクエ5は仮想メモリーカードで乗り切りました。周辺機器の方は、例えばUSBケーブルが伸びた周辺機器(要はガジェット)があればある程度はいけますね。操作感の完全再現はどうか……という問題はどうしても残りますが。
かわせ:そう考えていくと、ゲームの体験をそのまま後世に残すってハードル高いですね。この座談会はクラシックゲームの話題ですけど、最近の、例えばポケモンGOとか残す時、アプリだけ残ってても何が面白かったのかわかんないですもんね。
にぽく:ですね。「何が面白かったのか?」がやはり肝だと思います。アーカイブされたゲームを参考に新しいゲームを作るにしても、「プレイヤーがどう感じたか」を参考にしたいはずなので。
この、体験という観点については、「実況動画で残す」という選択肢があって、こちらの実現はおそらく、ビデオゲームをプレイ可能に残すよりも実現しやすいだろうと予想します。ただし、「他者によるプレイ」を「見る」という体験へと変質するので、プレイ体験そのものではなくなってしまいますが。
ポケモンGOやドラクエウォークなどの位置ゲームの場合、歩き回って色々と出会う体験が肝になるわけで、その体験をどうやって残せばいいの? という壁があります。例えば、動画保存では味気なくならないか? といった部分。
サーバそのものを残せば……という考え方もありますが、それはゲーム会社さんの協力なしには実現困難だろう、というのが私見です。例えば、「サービス終了した『真・女神転生』のMMOを復活させたファンをアトラスが提訴」というニュースがありました。
アトラスがサ終した『真・女神転生』MMOを復活させたファンを提訴…「取り返しのつかない損害を与えている」と主張 Game park 22/9/27
にぽく:米国の法制からみて、上記のメガテンの件がどうなのかはまだ潜れておらず、確たることは言えません。ただ、僕が目指すゲームアーカイブの姿は、ゲーム会社さんと争いになる方向ではないです。ゲーム会社さんにも益があって、ゲーム会社さんにも喜んでもらえるような形態にできないかなぁ……というのを、去年からずっと考えています。だからこそ難しい道なんですけどね(笑)
らせん:動画で保存はできるでしょうけれど、他者の楽しみを見る形になるとやっぱ違っちゃいますよねえ。
なんだかテーブルトークRPGの時に流行ったリプレイ小説みたいな形になりそう。
そういえば、MMOのように参加者がいる場合の動画は各プレイヤーの肖像権というかプレイ動作の著作権(とはいわなそうだけれど?)はどうなるんだろうって疑問もあります。
コンサートの観客席のようなモブなら不要でしょうけれど、実際に「魅せる」プレイなら、アドリブでも映画撮影のように俳優として演技したってことでなんらかの権利は主張する方もでてきそう。
音楽の著作権からの類似点で考えるなら、作曲者とはべつの、演奏(プレイ)している音や姿の録音や録画物に発生する権利ってかんじで。ゲームのプレイも自己表現でアートだというアーティストなプレイヤー、たしかに出てきそうな気もします。
にぽく:そうなんですよね。できれば、自分で自由に操作できる形で残したいですよね。MMOの参加者が法上の実演家に該当し得るケースはあり得るかもですね。著作権法上も、実演家の権利が別途規定されています。歌手、ダンサー、俳優などの枠ですね。メタバースを無視したとしてもだいぶ複雑なので、ここでは割愛しますが、場合によって権利は発生し得ると思います。
「肖像権法」という法律は実は無かったりします。和歌山カレー事件の最高裁で「6要素の総合考慮」と判示されたものが元になっています。条文になっていないので「アバターの肖像権は?」とか「AIが制御するノンプレイヤーキャラクタの肖像権は?」といった部分は直接は導き出せません。大元が「人格」権なので。
SFの話になりますが、アバターやNPCに、人間とは別個の人格がもし生じた場合、その人格に基づく人格権は? みたいな話が将来出てくるかもしれませんが、これって要は「強いAI」とか「AIに意識はあるか」とか、そのあたりと同根の話になりそうです。「現在は」、人間の人格に基づく権利なんですよね。肖像権って。
そして、実演家の権利の話に戻りますが、著作権法に法定されているということは、その条文に従って判断される、ということになります。例えばワンチャンス主義とか。
さらに、利用規約等で同意を取ってしまう、という実務的な話もあります。「実演家の権利に基づくトラブルが生じないようにする条項」を利用規約の中に入れておいて、ゲームのプレイ前にその利用規約に同意していただく、ということができます。同意しなければプレイが始まらない。(利用規約はなんでもかんでも有効なのか? いや違うよね? という論点も実はありますが、弁護士マターも良い所なので割愛)
予め利用規約による同意を取り付けることが出来ないようなサービス態様の場合には、実演家の権利は問題発生の確率があがりますね。利用規約の作りこみが足りていない場合なども同様。
……と、わちゃわちゃと書いてしまって申し訳ないです(我に返った)。魅せるプレイヤー(実演家)の論点は、たぶん、「MMOをアーカイブしようぜ!」という時に考える必要が出てくると思いますね。今は、その前の前の前、ぐらいの段階で壁と向き合っている感じです。そもそもゲームのカセットとかフロッピーとかCD-ROMとかをNDLに収集しきれていない、っていう段階ですから。
かわせ:レトロゲームの話題では、こんなニュースもありましたね。
レトロなミニゲーム機が驚きの若者売れ 知らない世界が新しい 渡辺裕希子 日経クロストレンド 22/9/30
懐かしゲームとしてだけではなく、やったことのない若い人も遊べるとなると、保存の意義は大きくなりますよね。
にぽく:ですです! こういう感じで「子孫」に繋ぎたいですね。営利ルートでも、非営利ルートでも。150年後の子孫がプレイしてくれたり、それをきっかけに次のゲームを作ってくれたりしたらいいなぁ! というのがあります。それができる「場」そのものを構築したいです。
現在地点Aと過去地点Bの2点を脳内でプロットしたら、ベクトルB→Aが想像できて、ベクトルの延長線上(未来の状態)も想像できるじゃないですか。Bの位置を違うものに動的にずらしてみたりとかもできる。この、Bとして取り得る点を増やしたい、残したいです。
営利領域の点B(つまり当時売れ筋だったゲーム)は残りやすいのは自然ですが、それ以外の点Bも残したいのであって、こちらは商業では手を出しづらい部分(先に利益を見込めないとゲーム会社の稟議が通らない等)もあるんじゃないかなって。そこは国会図書館をはじめとする「非営利」の役割なのではないかと。
かわせ:その時消費してしまうだけでなくて、子孫に残していくという観点は、文化として大切ですよね。
さて、最後に具体的なゲーム名を挙げてみましょうか。
にぽさんはお子さんいるじゃないですか。自分の子供にやってほしい「それ以外の点B」って、何かありますか? 実際ににぽさんが残したいようなゲーム。
にぽく:「僕がエゴとして」長男たちにやってみて欲しいゲームを例示すると、アストロノーカですね。遺伝的アルゴリズムでパブーが賢くなるやつ。ただしそれはエゴです。 何をプレイするかしないかは子供が決めることなので。存在しないゲームは選ぶことも、選ばないことも、どっちもできないので。「子供が選べる自由」を保存したいです。
かわせ:「選べる自由」はいい言葉ですね。豊かさの証ですもんね。
らせんさんは何かあります?
らせん:わたしは子供おりませんけれど(笑)、そうですね、将来の子供たちに遊んでほしい古いゲームと言えば、「カルネージハート」とかでしょうか。
最近、小学校でプログラミング教育とかされていますけれど、そういうので使っているビジュアルプログラミングをゲームにしたようなやつです。
確か遠い宇宙の別の星で戦うロボットにプログラムを送るっていうネタで、送れるプログラムの情報量に制限が量制限があるとか、そういう設定だったと思います。
かわせ:僕はゲーマーではないので、その二つはやったことないんですけど、調べてみたら面白そうですね。遺伝的アルゴリズムとかプログラミングとか、僕ははまりそう。
僕はどうしようかな。タイトル数をこなしてないので、みなさんみたいないい感じのが思いつかない……。
それでは、自分が関わっているやつで。「ハーメルンのバイオリン弾き」でお願いします。原作漫画のお手伝いをしていました。ヒロインをぶん投げて敵を倒すという異色のシステムで、仕事場で大爆笑でした。HPを見たら「元祖ギャル投ゲー」と書いてあるけど、元祖で最後なのでは。
にぽく:カルネージハートもハーメルンも面白そうです! 面白さのベクトルは全然違いますが(笑)
らせん:「ギャル投ゲー」!そんなジャンルがあったのですね。怖いけどおもしろそうです(笑)
かわせ:なんかオチみたいになってますが(笑)
いろいろなものがあるというのが文化の豊かさの指標の一つだと思うので、そういうゲームの歴史が体感できるように残していくのはいいことですよね。にぽさんの活動がうまくいくよう応援しています。
本日はありがとうございましたー。
にぽく:ありがとうございましたー!
らせん:ありがとうございましたー!
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銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE
2016年から活動しているセルパブSF雑誌『銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE』のnote版です。
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