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私はじっと息をひそめていた。 奥の部屋で彼が原稿を書いているから。 その邪魔をしないようにソファーに座り、身じろぎもせず、じっと待つ。 音をたてるなんてもってのほか。動く気配でさえ、彼の集中をさまたげるかもしれない。 だから私は、じっと待つ。 ただ、じっと。 ひたすら、じっと。 部屋からはかすかな打鍵の音だけが伝わってくる。 彼が使っているのは古風なメカニカルキーボード。今は思考入力が当然だ。脳波から考えていることを読み取り、文章の形に整えて表示する。 だ