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季節の移り変わりや言葉を教えることも、教わることも

 スリランカ人である奥さまに、少しだけ日本語と日本語の文化を教えている。
 謙遜なんかではなく本当に少しだけ。
 彼女には自分で学ぶ意欲があるし、私には体力の不安ばかりがある。次のレッスンの約束をしようにも、その日元気なのか自信がなさすぎて、なかなか約束ができない。

 何度かレッスンをしてわかっているのは、お互いの文化について、お互いにほとんど何も知らないということだ。
 それでも彼女はここで暮らさなければならないから、吸収しようとがんばっているし、目の前にいる彼女の表情はかわいらしい。
 
 私は日本語を教える講座をいくつか受けたし、模擬授業を体験したり講座内での試験も受けたりもしたけど、もう25年~30年前。どんな手順で何をどんな風に教えるのかなんてすっかり忘れている。
 ここまでのいきさつを少し書いている。

 私の体調が悪くて順調にレッスンを重ねられないから、彼女はその間に勉強を進めている。元々少し勉強していたのもあるし、別の「ちゃんとした」レッスンをしてもらっているとのこと。自分でも机上の勉強をしているから、「かせみ先生とは実践的なレッスンや楽しい会話ができたらうれしい」と、ありがたい言葉をかけてもらっている。
 こんな私、こんなレッスンで「先生」と呼ばれるのはしのびないのだけど、この辺のやり取りについては上に貼り付けた記事で書いた。

 この前はようやく、「毎回、(アパートの)駐車場の車まで見送らないでほしい」と伝えられて、笑いあった。スリランカでは、先生という存在は大変敬われるべきものらしく、こんな小さなレッスンでの先生であっても、尊敬の念を表さないと本当は罪悪感を覚えるものらしい。それでも日本の文化を少し知らなければと、がんばって私の提案を受け入れてくれた。
 だって毎回アパートの駐車場にとめた車の前まで一緒に歩いて、そこから手を振って見送られるの、本当に恥ずかしくて居心地が悪いから。


 彼女は、少しはマーベル映画も少しは観るらしく、「スリランカでは9つの宝石を同時に身につけると、特別に縁起が良いとされている」と教えてくれたので「アベンジャーズが集めるインフィニティストーンみたいね!」と言うと「そうそう!」とわかってくれた。
 スリランカでは宝石がたくさん産出されていて、イギリスの王室で使われる物もスリランカで採れた宝石が有名なのだそうだ。
 でも国全体は貧しく、特に、多い貧困層は悪循環で地盤にも深刻な影響を与えているそうだ。教育も行き届かずに、あらゆることがうまく機能していないのだと彼女も憂いていた。


 そんな話を聞くと、やっぱり彼女と関わり続けていこうと思う。私の身体のせいで不定期になってしまうから迷惑をかけてしまうと思うけれど、私にとっては知らないことだらけ。彼女に見せてもらうYouTubeの映像は、スリランカの料理であってもその材料や道具の素朴さに目が離せない。
 私たちは豊かな世界に生きているとつくづく思う。

 私が教えることは、テキスト通りだとほんの少しのやり取り。彼女は勘が良いので、何度かやり取りしているとすぐに覚えるし、わからないことは自分から質問してくれる。この前は「ヤバイってナンですか」と聞かれた。

 時間が必ずたくさん余るので、季節の話をする。
 「日本人は季節の話が大好きなんです」と他人事として笑ったつもりが、毎回おおいに季節の話をしてしまう。
 そもそもスリランカには四季がなくて、雨季と乾季と呼ぶほどでもない、よく雨が降る時期、そうでもない時期、しかないそうだ。だから年中同じ果物があるのだと言う。
 日本に四季があるということが誇らしくも思うけれど、ことさら自慢することでもなく、その移り変わりを楽しむのだという考えを伝える。
 その季節にしかない天気の言葉や表現、その辺りで見る花の名前、そして旬の食材を教えると喜んでメモしてくれる。

 彼女には、バス停や散歩コースで時々声を交わす方たちがいるそうだ。

 「暑いですね」と言われたらどうしたらいいのかとか、暑いと思った時の挨拶のバリエーションなど。「じめじめ」って何。とか。蒸し暑いのバリエーションも。
 改めて言語のニュアンスについてや季節について、季節で使われる言葉について考えるのって楽しい。

 暑い国で育ち、雪になじみのない彼女は、1年ほど住んでみて春と秋が気に入ったと話してくれた。
 
 ちがう文化を教え合い、広い考え方を学び合い、私にとっての大切な時間を過ごさせてもらっている。
 今月は冬について話そう。年末年始の話も良いけど、冬の花。枯れ木の間に見えてくる野鳥。木の雪囲いや雪つり。冬に使う言葉。雪の表現。考えるだけで楽しみだな。


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かわせみ かせみ
読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。