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離れていても忘れないよ

 今年は書かないでおこうと思うのに、どうしてもその日になると、気持ちがおさまらなくて書いてしまう。

 その瞬間の揺れ。
 何時間かぶりに電気がついてテレビを観た時の気持ち。言葉を失うってこういうことなんだ。心配した友達たちのこと。中学生のころ仲良くしていた友人がお母さまを亡くしたこと。火事で家を失った知り合い。通勤の度に目に入る、文字通りつぶれた家々。近所をただようガス臭。水を運ぶ日々。
 失った物も者も私にはなかったのに、あの時の記憶はまだまだまだまだある。毎年書いても書いてもキリがない。

 今は離れた地に住むからこその、特別な思いがある気がする。
 私はもうよそ者になってしまった。気持ちだって離れているはずなのに、当時のニュースを観る度にせり上がる苦しさがある。
 そこで祈る人々が愛おしい。
 皆の中に友達を見る。

 あの子も祈っているのかな。元気にしているだろうか。怖がりなあの子はこの日のことをどう思い返しているのかな。あのころ連絡を取っても話したがらなかったあの子は。避難するところだと電話で話してくれたあの子は。ご家族を失ったあの子は。家を失ったあの子は。あの日のすぐ後、一緒に働いていたあの子は。一緒にボランティアに出かけたあの子は。

 30年の歳月を思う。

 一緒に水を運んだ祖父も、大丈夫だからねと努めて声をかけてくれた祖母も、もういないんだなあ。
 それでも30年経っても、離れてしまっても、ちゃんと覚えているよ。みんなのこと。私の育った土地。住んだ土地。
 宝塚。西宮。三宮。結ぶ阪急電車の各駅で暮らす友達たち。
 今年も誰かに会いに行くね。




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かわせみ かせみ
読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。