せっかくのクリスマスだし、生温かい話でも~恋人つなぎって合理的~
えっ恋人つなぎっていうのん?
そんな名前がついてるんだ。
指をからませた手のつなぎ方。
そういう生々しい表現がどうにも居心地悪いけど、この言葉を聞く度に抱く違和感。
そんなに「素敵」なものなのかなあ。
夫と初めて手をつないだ瞬間を覚えている。
おっと。危ない。って足を滑らせた時だった。またとないチャンスに、どさくさにまぎれて、どちらからともなく手をつなぎ、そのまま、ふわ~んと幸せな気分になった。
異性とのスキンシップが、どうしても好きではなくて。昔から。
触れるまでドキドキしているはずなのに、触れた瞬間、失礼ながら「おえ~」って思っちゃう。触んないでよって。ひどい話だ。私はいったい何様なのだ!
自分でもその感覚は分析できない。好きになった人でも何故なんだろうって不思議だった。夫は私よりもっとその感覚が強いみたい。
生々しい表現も苦手だし、恋はしても、恋愛はできないタイプなのかな私。って思ってきた。今もホントはそう。
自分の「好き」の範囲は男女問わず広い。むしろ女性の方が簡単に好きになる。でも恋心の対象は異性で、映画でも漫画でもやっぱり簡単にキュンとする。なのに、恋愛感情や表現は自分が持つのも見るのも聞くのも、もちろん受け取るのもどうもダメで。
でも夫とのスキンシップだけは「居心地良い」。ホカホカ~な気分になれる。この人は今まで知った人とは違う。全然いやじゃない。
だがしかし。すぐに残念なことが起きた。
初めて手を繋いだその瞬間から、二人の手のひらが、かなりのスピードで蒸れてきた。
気持ちが「ふわ~ん」から、手が「むわ~ん」に。
ごめん。私の手はアブラっぽいのだ。
今でこそ「私の手はアブラっぽいのだ」なんて笑っていられるけど、若い頃は耐え難い自分のイヤなところだった。
うら若き女性の手がアブラっぽいってなんだよ。これじゃあまるで体中がアブラっぽいみたいじゃないか。まるで蒸れやすいみたいじゃないか。
ってバレちゃうじゃないか。
アブラっぽいエピソードはもう50年近く暮らしているとたくさんあって、今なら人に聞かせ、笑ってもらえるけど、20代半ばの私には口にできない。
そしてどうやら夫となる彼もアブラっぽいらしかった。
普通に手をつないでいると、二人のアブラっぽさで蒸れて仕方ない。
手の触れている面が、もうムンムンだ。
アブラで熱を帯びた二人の手のひらの間で、そのうちビリビリと電気でも起きるんじゃないだろうか!
彼は言った。
「蒸れちゃうね」
おおう! よくぞ言ってくれたものよ。この事態をどうにかしようぞ!!
ムンムン蒸れ蒸れに耐えられなくなった私たちは、この事態を解決するべく、指を交差させ引っかけることにした。
指を交差させると、手のひらを触れずに空間を作れる。触れる部分はほぼ点だけだ。二人の間にスースーすきま風が通る。
素晴らしいアイディア!
スースー、大事!!
そう思って私たちは、その後もそうやって手をつなぐことにした。
そんな合理的なつなぎ方を、世間では「恋人つなぎ」と呼ぶらしい。
25年前の私たちには知る由もなかった。
いや、ホンモノの恋人つなぎとは、指だけでなく手のひらも密着させるのかもしれない。でもそんなことしたら、せっかくの風通しが生かされないではないか。
最近は通常の道路で、二人で手をつないで歩く時なんてない。きっと次つなぐ時は、一人で歩けない時だ。
健康でいたいものですわね。