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誠実で素朴な彼が、渾身の「Help!」を歌った時~「イエスタデイ」を観て~

 一方的に恋に落ちる瞬間て、皆さんどんな感覚なのだろう。ビビッと来たり? ズギュンと胸を打ちぬかれるような? 私の場合は、恋という名の池に、まさに「落ちる」感覚。ぽちゃんと。
 結婚して22年、夫大好きアラフィフの私が、恋に落ちる瞬間があるなんて、誰が想像できるだろう。 
 現実の世界だと、ネットでさえ、私は会って話す可能性が少しでもあると知っている時点で、壁がある。いつの間にか築く壁に、池は遮られている。

 その反動なのだろうか?

 映画を観ては、時折ぽちゃん、ぽちゃんと落ちる。恋の池に落ちるのは、けっこう不意打ちなので、あっシマッタと思ってしまう。不覚なのだ。意図していないから、気持ちをコントロールできなかったウッカリな自分に、ほんのちょっぴり悔しい。それで「シマッタ」。
 ただ、お互いの進展を考える必要がない。だからぽちゃんと落ちてから、別に無理して戻る必要もなく、かと言ってその向こう岸に渡る時もない。つまりぽちゃんと落ちた池で、しばらくキャッキャと一人で楽しんでいる。アラフィフおばさんが、池で一人ハシャぐ。

 ……。

 しかも池を渡り歩いている。
 この映画ではこっちの俳優に。あの映画ではあっちの俳優に。

 共演者とすぐに関係を持ってしまう俳優がいるが、私が女優ならすぐその世界に入り込んでしまうのだろうか。心配だ。

 ただ時々、近くで観る機会はある。俳優だとイベントとか。ミュージシャンだとライブとか。
 
 先日、東京コミコン(東京コミックコンベンション)で、マーク・ラファロが来日して参加した。そのインタビューだの本人のインスタ動画だのが、ツイッターでも回ってきた。キャこっち向いて話さないでよ! って思うほどアップだったりして、スマホの画面に、勝手に照れている。

 ちなみに彼に対して「シマッタ……」の瞬間は。大喜利で、彼の写真が使われていた時。八の字眉で困った表情。ああこんな顔、するする! と笑った。そして「サノスいたもん」と書かれた誰かの大喜利。うまい!! ……もはや誰の何に恋をしているのかわからない。
 あっ。フィル・コールソン(クラークグレッグ)は、彼がドーナツを選んでいる姿を見た時ね。

 長い長い前置きはもうそろそろ良いだろう。


 前置きでした!


 いえね、先日雪山を超えて、「イエスタデイ」を観に行ったのよ奥さん。

 ヒメーシュ・パテル演じるジャック。一見、冴えない子が……いやずっと苦しんでいるからずっと冴えないんだけど、「Help!」を歌った時。「シマッタ」って思ったのよ。奥さん。

***

 この映画を、ずっと楽しみにしていた。地方にやってきたのは随分後になってからだったけど。とにかく映画館で観ることができた。

 ある時を境に、ビートルズを知っているのは、どうやら自分だけらしいと気づく田舎の売れないミュージシャン。
 「イエスタデイ」は、「ビートルズ」を出演させずに、ビートルズの魅力を最大限に引き出した映画。制作側のビートルズ愛に溢れた映画。もうビートルズに関してや、映画の中のトリビアは、パンフレットやネットなどで読んでいただきたい。どこにでも書いてあるだろう。

*ネタバレあります。


 印象に残ったのは、「毒杯」。

 どんな場でも、そこが大きな意味を持ち過ぎている時。
 その集団の持つ意味が強くなってくると、私はその輪から外れるようにする。集団の中の個人個人の心情を思いやり、勝手に気持ちを寄り添わせてしまい、ヘトヘトに疲弊する。そこからさらに心が擦り切れる前に、その場から去ってしまう。

 周りの誰かや何かを犠牲にしている時。犠牲にしてまでも、名声のためにその場を守り、馴れ合って親しいふりをしている時。

 それは「誰か」や「何か」に魂を売っているように見える。
 有名にしてくれる「誰か」と協力しながら。
 もう自分じゃあらゆる判断能力もなくなって惰性になっても。

 その裸の王様の状態を披露するのは、後の自分だけでなく、周りの人をも傷つける。時に無責任で、時に残酷。その世界は苦しい。私ならもっと広い世界で暮らしたい。自由でいたい。そして自分が傷つくのが見えてくると、傷つく前に身を引く。
 でも、どうしてもその場に身を置かなければならない人は、どんな思いだろう。大丈夫かな。時々心配する。

 クイーンの「ボヘミアンラプソディ」の時も、エルトンジョンの「ロケットマン」の時も、名声のために魂を売り、それによって富を得るマネージャーが存在する。そしてこのフィクション、「イエスタデイ」でも、それを目論むマネージャーがいる。彼女はそれを「毒杯」と呼び、「飲むか?」と聞く。

 いったん了承し、その毒杯を飲もうとする彼だけど、罪悪感と違和感とを抱え、誠実でいようとして葛藤する。彼はずっと地に足つけているのだ。自分がよく見えている。名声を得たら嬉しいけど、成功したら嬉しいけど、さらにこの世界において、ビートルズの曲を広められたら嬉しいけど! でも本当はいつだって客観的な視点を持ち、人に迷惑をかけたくない。そしてただ恋に臆病なだけ。

 だから渾身の「Help!」を歌っている最中、めちゃくちゃ切ない。

 その後、ビートルズを覚えている人たちと喜びを分かち合う。
 その世界のジョン・レノンと話すシーンも美しくて優しくて、彼が自分を信じる道を歩むきっかけとなって好きだった。けど、私はビートルズを知っている仲間で「あの曲がどうだ」「あの歌詞がどうだ」と話し、手をとりあって「ビートルズって良いんだよね!!」ってハシャぐシーンが一番好き。何の損得勘定もなく、単純に1ファンであるって何て幸せなんだろう。
 
 久しぶりに、幸せな気分になり過ぎて、笑顔で涙が出てきた映画。観ることができて良かった。
 サントラを聴いて、聴き慣れたビートルズの曲の良さを再確認しながら、ヒメーシュ・パテルの歌声を楽しんでいる。

***

しばらく映画の感想を書かずにいました。
確か「トイ・ストーリー4」の辺りからほとんど書いていないはずです。他にも何本か観てはいます。映画レビュー、特に感想ともなると、あまり読まれないけど、映画を観て、感想を書くのは趣味ですので。またいつか、少しずつ書いて載せていきたいです。

#映画 #イエスタデイ #ビートルズ #感想 #ヒメーシュ・パテル #コンテンツ会議


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かわせみ かせみ
読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。

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