初めてカットのやり直しをお願いしてしまった
髪のカットのために美容院に定期的に行くようになったのは、中学二年生くらいのころだっただろうか。それまで祖母が髪を切っていて、毎回その仕上がりに、部屋に戻ると泣いていたほどイヤだった。
やっと解放されてからも、大学生になるまで長い髪は家庭で許してもらえず。それでも美容院で、少しは満足できる風にカットしてもらえるようになった。
それからはひどい不満を持つことはほぼなく。
一度だけ私にとってはひどい仕上がりで大泣きしたことがあったけど。こんな髪で電車に乗りたくないと、タクシーを拾って泣きながら帰った。
どこに住んだ時も、最初はあちこち迷いながら次第に気に入った美容師さんを見つけ。今の地域でもそうやって今の美容師さんに至る。
出会ったころはまだまだ若くて、腕はそれほどでもなかった。
でもその前に通っていた美容院のスタッフさんが接客悪くて。もう探し回るのもイヤになっていた。
友達に紹介されたからと義理もあって何回か通うともうここで良いやってなっちゃって、それから15年も切ってもらい続けることになった。
雑談が苦手な頃から、無理に会話しなくて良い雰囲気を作ってくれていた。それでいて気取っているとかカッコつけているとかが全然なくて気さく。互いのパートナーや息子たちの話、音楽や映画や漫画、ゲームなどの話もできる。
彼が独立してからも、アシスタントの女の子や男の子とは趣味の一部で話が合ったり。皆、変にノリが良いとかなれなれしいわけでもなく、おばさんの私の話にも素直に反応してくれる。
何かと気を回し過ぎる私にとっても居心地の良い場所。
カットに関しては、最初の頃こそイマイチだと思う時があったけど、年数経つにつれて不満はなくなった。
でもイマイチの時も、それまでの美容院に通った時だって、切り終わった後にわざわざ不満だとか伝えたことはない。
今回、初めて「数日後、初めて会う人や4年近くぶりに両親と対面で会う予定なのだけど、毎日どうしても上手くできなくて。セットを上手にできるように手を加えてしてほしい」とお願いした。
電話で快く返事してくれて「うまくできていなくてすみません」と謝ってきた。
ここでも不満を書いたけど、直接伝えるのはけっこうな罪悪感だった。でもその気持ちを超えるほど、その髪型で日常とは違った人たちと会うのが私はどうしてもいやだったみたい。化粧とかほとんどせず、その辺すごく適当な私なのに。
こんな苦い気持ちを抱え続けるのいやだなあ。きっとあの美容師さんにとっては仕事なのだし、こんなの慣れっこかもしれない。その場その場で対応するものだと思っているだろう。
何度もそうやって、平気平気と自分に言い聞かせる。
あんまり申し訳ない態度だと向こうにまた気を遣わせるから、いつも通りでいよう。
そして当日。
美容師さんは「思い通りにいかず、すみませんでした」と謝り、私は「細かなことをうるさく言ってすみません」と謝り。私が謝ると「言ってくれた方が良いんですよ」と気づかってくれる。
「すぐできますから」と言われて、取りかかった。その間も、互いの好きなマンガや、ちょっと前に行われた地方のフェス、好きな音楽について話す。
洗って襟足をカット。
「これで毎回この形になりますよ!」
そして終わったら料金取らなかった。
もしかして取らないかもと頭にその思いはあったけど、カット料金を用意していた。だって2週間ちょっと過ぎていたんだもの。不満を伝えるには間あき過ぎたなあって。
でも「いや、要らないです」って言われた時。
「もしかして」が頭のスミにあったから、それはないわあ~って強く言えなくて「えっ……」と絶句した後、首をブンブン振るだけになってしまった。
「いやいやいや。いただきません」美容師さんも頑な。
まあここで押し問答したところで受け取らないよね。わざとらしいやり取りが痛々しく感じて、けっこうあっさり「すみません、じゃあ。ありがとうございます」と切りかえた。
ところで後ろを鏡で見せられた時、初めてのリアクションをした。
「わあ。良い感じ……」と言った後「とか言って、ほんとはよくわからないんですよねえ。いつだって良い感じ~って思っちゃうから、前回も気がつかずにこれで良いって思って。後からこんな風に言ってすみませんでした」って最後まで言い訳めいた感じになっちゃった。
ああもう何をどう言っても申し訳ない。
でも今回のカットはふんわり丸いショートボブになって、すっごく気に入ったので良かった。
気に入ったんだよー。
気に入っているんだからねー!
読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。