理解されにくい人の不器用な生き方が、しかもなかなかうまくいかない~サンダーロード~
「ブルース・スプリングスティーンの曲がテーマになった映画だよ」
夫にそう聞かされて、どんな感動的な映画かしらん。と行ったら。
観た直後は、痛々しくて居心地悪く。夫と二人、呆気に取られて小さな映画館を後にした。
「できるだけ、観た映画は感想を残しておきたい」とnoteを始める時に思ったものだけど、なかなかそうはいかない。イマイチなのも、後味悪いのも、ちょっとは不満も言いたくなる。他の作品と比べて「あっちの方が良かった」って言いたくもなる。「なんだか爽快過ぎて、観終わったらさっぱりしちゃった」と何も残らない気分の良い映画だってある。
今回も、「感想書かないと思う」と夫に話したのに、帰る道すがら、どうしても「あれってこういうことかな?」「あそこってこうだったよね」と次々考えが出てくる。
そして結局、書いている。
本来、ブルース・スプリングスティーンの「Thunder Road」を歌う葬儀のシーンだけ、12分の短編映画だった。12分のを帰宅後に改めて観たけど、コメディとしても観れた。ただし、泣き笑いみたい。やっぱり複雑な気分になる。
これが、曲も流れず、歌も歌わず、踊るだけだから、92分の映画となると、心を動かされて泣きたくなるような。コミカルで笑いたくなるような。そして狂気を感じるような。いやもしかしたら精神的に病んでいるのか。親の葬儀で悲しんで動揺が激しいのか。それとも発達的な障害があるのかな。
何の予備知識もなく観ると、どうとでも受け取れるから、感情のやり場に困る。
いずれにしても、これだけの台詞を続けるのは圧巻だ。笑わせに来ているにしても、圧倒されて、「笑い」だけの感情では済まない冒頭。
そして「Thunder Road」の歌詞が、そのまま映像となったような映画が流れる。男女間を歌ったような歌詞が、映画では親子関係とも、友情関係とも受け取れる。
*ネタバレあります
監督自ら演じる主人公ジムが、とにかく痛々しい。
生真面目過ぎるし、感情のコントロールもうまくできないので、失読症以外に障害を持って暮らしてきたのだろうと感じる。
コメディとも紹介されてはいても、時々クスッと笑える以外は、ほとんどが痛々し過ぎて、笑うというより「困惑」。
こんなにも人との関係が不器用なら、目を背けたい人が多いのではないか。
現実だっている。noteでだって、私も時々「真面目で痛々しい」って思われているかも。
そんな主人公のジムは、母親を亡くし、葬儀で醜態をさらし、娘に嫌がられ、そのうち仕事もうまくいかなくなり、別居中の奥さんに離婚をつきつけられ。
このまま全部書いていくと完全なネタバレになる。そのくらい何もかもうまくいかない。
そのうち少しでも笑える場面ですらも、哀れで惨めで泣きたくなる。
それでもやっぱり感想を書きたくなる、後から気になる映画なのだ!
人ってうまくいかない時はそんなことが重なるし、愚直に生きていたら、何とかでもうまく渡り歩いている人には理解されにくい。
ジムにはたった独り、理解のある親友がいる。全然違う環境で、彼は「俺は幸せなんだなと思うよ」と奥さんに言いながら、でもジムを決して見捨てない。この二人のつながり方も、他の人には理解してもらえないかもしれない。
「観て観て!」と勧めにくい映画なのだけど、勧める理由があるとしたら、ある一件で皆はどう思ったか、観た人に問いかけたいシーンがある。
娘に問題があってジムが先生に呼ばれた時、観ている側は、ジムのせいでもあるのではと思ったのではないだろうか。
でも母親があんな風になって「やっぱり母親のせいなんだな」と思ったか。「母親のせいだったの?」って驚いたか。
アナタは、私は、ジムのような人に対して偏見はなかったか。
ここで立ち止まって考えさせられる。骨太な映画だと認識させられるところだ。
それは、意味深な流れを止めて、絶望から希望へと引き返すシーンでもあった。
そして葬儀で踊った自分を醜態としてだけでなく、哀悼のダンスとして自分を受け止めたのかなと思うシーンが続く。母親のこと、自分の醜態、娘の表情を見守り、すべてを受け入れようとしている彼に、私は希望を感じることにした。
迫力のある映画だった。
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