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息子は思春期
椅子に座っている夫の膝の上に座るのが、幼少期の息子は大好きだった。夫の食事のおこぼれをもらうのだ。自分の分を横に置いてでも座りに行っていた。
家事をしようと座ったりテレビを観ていたりすると、私の膝の上に座りにくる。
そのうち、重くて足が痛くなってきて「痛いから」と早々に降りてもらうようになる。
ところが今度は、座っている場所とテーブルやこたつの間に座るようになる。
こたつの前の、夫とこたつの間から息子が顔を出す様子は、似たような顔が二つ並んでいて、トーテムポールみたい。とても可愛い。
これがですね、高校生になった今でも時々やる。私にもやる。ご飯食べ終わってテレビを観ていたりパソコンしたりしていると。テーブルと私の間を指さし、「そこ良い?」と聞く。返事する前からとりあえず頭を突っ込んで入ってくる。で、一緒にテレビやパソコンを並んで観る。大好きな安心タオルを持っていたら、究極の甘えの出来上がり。
かと思えば、二階の自室にこもって、スマホを楽しんでいる。
ある日は、学校帰りに耳鼻科に連れて行った。診察室から出てきた息子は、シンとしている待合室で自分がどのように診断されたかを説明している。お薬の話もしてきた。他に女子中学生や女子高生がいても恥ずかしくないのだろうか。戸惑いつつ「ああそう」と話を聴く。
そこから塾へ送る前に、「コンビニに寄って食べる物買う」と言うので、コンビニで降ろす。ついでに、私も飲み物を。と一緒に降りると「この時間だったら、知り合いとか友達とかに会うから」と言われ、急に別行動を求められる。
コンビニ内では案の定、友人たちと会って談笑していた。私とは目も合わさない。
日曜に学校の活動があって、学校の中まで送った日。駐車場で降りたら、コートを車の中に置いたままドアを閉めようとする。「コートは?」と聞くと、チラッと見て友達の方に駆けて行った。思いのほか暖かかったので要らなかったのだろう。にしても、無視なのだ。アラ。無視された。と思うけど、別に私も腹は立たない。
晩御飯の後、テレビを観ながら「ふくらはぎがだるい~。もんで~~」とうつ伏せになって待っている。夫か私、頼まれたらグイグイと指圧する。昔、父の日や母の日に自分で作った、大量の「肩たたき券」「指圧券」の分を取り戻しているのだろうか。
「王子様だね」とからかうと「王子様なんだよ」と笑っている。
大好きなお菓子が残り少なかったので、食べずに息子の分を取っておいていた。すると息子の、「アラ―。そんなこと気にしないで食べて良いのよ~」が私と似すぎていて、大笑いした。息子も自分で「母さんみたいになった」と笑いが止まらなくなっていた。
大学受験に向けて勉強しているけど、「不安」と言う。どんなところがどんなふうに不安かと聞くと、自分で考えを巡らせながら分析している。「でも独り暮らしは楽しみ!」と言う。いや、勉強とかより、こちらはゴミ出しや洗濯や片づけができていない息子が心配だよ!
ああ。全部、息子なのだ。甘えるのも甘えずにいられるのも。喋るのも無視するのも。一つ一つのできごとが、笑ったり、戸惑ったりしながら、思い出になっていく。
こんな風にしていられるのも、あと一年。
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