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「がまくんとかえるくん」の絵本作家アーノルド・ローベルの人柄も感じた
アーノルド・ローベルの絵本と出会ったのは6~7歳頃。
「がまくんとかえるくん」「ルシールはうま」「きりぎりすくん」「ふくろうくん」を何度も読んだ。
中でも「がまくんとかえるくん」の2冊と「ふくろうくん」はお気に入りでどうしても手放せないまま。
大学で英米児童文学を専攻した時、先生がアーノルド・ローベルの作品を紹介していて「有名なんだ!」と驚いた。ニュージャージーで読んだ本が当たり前に和訳されていて、そんな風にみんなが知っているなんて。
卒論は別の作家について書いたけど、アーノルド・ローベルについても、先生の話から少しは考えた。
読み返してみると、押しつけがましく感じちゃうような意味のある教えだとかお説教がなくて、そこに優しさを感じるんだなと気づく。
息子ができてから、夫も「がまくんとかえるくん」を楽しむようになった。カエルのキャラクターが好きな夫は、がまくんとかえるくんのぬいぐるみを買うほど気に入った。それも1対じゃない。冬ヴァージョンと夏ヴァージョン。服装が違うのだ。
息子はわりと気に入ってくれたけど、それより「こぶたくん」を好んだ。
「こぶたくん」シリーズも、教訓や学びなどなく、子供そのものが描かれているだけ。
むしろ「お父さんのこの受け答えがいいなあ」「お母さんてこうなっちゃうよねえ」と、子供の絵本なのに親への共感が強い。
でも息子はとても気に入って、何度も「読んで」と持ってきた。
それから10年以上経つ。
今年、アーノルド・ローベル展をするとわかって、夫と必ず行こうねと楽しみにしていた。
でもこんなに胸がいっぱいになるなんて、まったく予想していなかった。
会場に入り数分で、彼の人となりを感じてその世界にひきこまれた。
誰かと一緒にいることの安心感、そして、誰かと一緒にいるための思いやりの心。そんな「誰かが誰かの支えになっている」というあたたかい共存関係を、ローベルはとても大事に思っていました
病気がちだった彼は、自分が人と違うことの寂しさを感じ、映画や本を支えにしていた。刺繍も趣味の一つだったそう。
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詩人とコラボしたり、挿絵を描き続けたり。絵本作家として活躍しても決しておごらず、絵を描くこと自体に楽しみを感じていたそうだ。
野鳥や「マザーグース」が好きだったらしいのも、人付き合いは苦手でも友人を大切にしていたことにも、親しみを覚える。
展示では他の作品もたくさん紹介されていた。
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構想や描き始めのもの、練習のもの、たくさん下絵があってワクワクする。
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文字を切り貼りしたアナログな作業も、きっと今より大変だったと思うけれど、見る分にはその原始的なつくり方が魅力的に感じてしまう。
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編集者とのやり取りも良かった。
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編集者もがまくんとかえるくんの個性をよく理解し、「がまくんならこう返事した方が良いのでは」「その言葉ではかえるくんの気持ちが誤解される」みたいに、細かな部分に気を配っている。
「ここ可愛い」などちょこちょこ褒めるのも忘れないのね。
アーノルド・ローベルもセリフや表現を変えたり、少し開いていた目や口を閉じたりなど試行錯誤しているのを見ると、編集者を信頼していたのだろう。時には我を通すこだわりもありつつ、融通をきかせるバランスがきっと大切なところ。
「がまくんとかえるくん」のコーナーは特別に広く取ってあった。
彼らの関係性は、作中だと友達だけど、兄弟のようでも親子のようでもある。真相は、自身の持つ二つの面を投影させ、二人(二匹)で、アーノルド・ローベルらしい。
4冊続くこのシリーズは後半、互いの関係性でちょっとイヤな気持ちになる瞬間があるのだけど、最後は良い関係で終わる。
どうやらアーノルド・ローベル自身、二人の関係を痛々しく感じてしまったようで。
互いを認め合い、ただ寄り添うことを願い、そっと幕を降ろすことで、がまくんとかえるくんの世界を永遠のものにした
思わぬ方にキャラクターの個性が進んでしまっても、決してそれで納得はいっていなかった彼の気持ちが伝わってくる、心温まるエンディング。
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展示の中で、改めて読んだ「おてがみ」が良かった。
がまくんが手紙を待つお話。
僕にはどうせ手紙なんて来ない。来たことがない。僕のことを大切に思う友達なんていないんだもの。と卑屈になるがまくんは、ふて寝する。
いつも余裕のかえるくんが、それを見て慌てて家に戻り、がまくんに手紙を書く。
それをかたつむりくんに託したので、がまくんの家にはなかなか届かない。
がまくんに元気になってほしいかえるくんはそのうち、「僕が送ったから手紙は来るんだよ」と教えてしまう。「大切な友達だよ」って書いた中身もしゃべっちゃう。
4日後にやっと手紙が届く。
最初はがまくんだけがポストの横に立っている絵だったそうだけど、最終的には二人で並んでいる絵。
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この絵でどんな状況で手紙を受け取ったかを想像するのも楽しみの一つ
こんな話あったなあと読みながら「アラ我慢できずに明かしちゃうんだっけ」「そしてがまくんは喜んじゃうんだな」と可愛さに、マスクの下で笑みがこぼれる。
私の大好きなのはこういう部分だ。
がまくんもかえるくんも、お互いを大切に思い、お互いが大好きで、それを言葉でも行動でも表すことに何の抵抗もない。
そして「表されることにも」抵抗がない。
ありがとう。ってお互いに思っている。
相手がいやがっていない限り、大好きだよー! の表現にためらわなくて良いって、なんてラクなんだろう。
大人になるにつれ何度も人を傷つけてしまい、あるいは勝手に裏切られた気分になって、もう誰かを相手に感情表現したくないと思っちゃう。そして互いに傷つきたくないから警戒し、遠慮して臆病になっていく。
そのつらさも日々知っているはずなのに私は、つい油断して、立場も環境も経験も年齢も飛び越えてしまう。そしてやっぱり壁や差を感じて寂しくなってしまう。
アーノルド・ローベルの作品たちは、そんな私に、無邪気でいたって良いんだよ、うまくできなくても卑屈にならなくて良いよと、そっと寄り添ってくれるようだ。
人生には、喜びもあれば悲しみもある。うまくいくこともあれば、いかないこともある。
アーノルド・ローベルはそんな当たり前の日常を表現したくて絵本を描いていたそうだ。
幼い子供たちだって、これを読み始めるころには既に身の回りのそんなことをわかり始めているだろう。大人になって心動かされるのも、大して変われない自分を感じているからなのかもしれない。
アーノルド・ローベルの作品たちにも、自分に対してまでも、愛おしい気持ちでいっぱいになって帰ってきた。
帰宅後に改めて読んだ「ふくろうくん」についてはまた。
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