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老いて身体が言うこと聞かなくなることに思いを馳せる~リュックはまだだった~

 世の中、腕を使う動きの何と多くて、当たり前なことよ。

 年齢重ねるともっとあちこち痛くなってできなくなる一方なのだろうか。少し気持ちがふさぎそうになるけれど、そうか高齢の方たちの不自由さはこんなところにもあるんだと少しは気持ちや大変さを知る。
 ひとっとびに、そんな風になるんだと何となく思っていた。
 何となく動かなくなるし、そういうものなんだろう。くらいに。

 五十肩は確かにひとっとびだし、個人差があるけど、動かないのは痛みがあるからなのだ。少しずつ日々鍛えて動かしているとそうはならないなんて法則もなさそうだ。

 でもありがたいことに、長くて数年も経てばほぼ元通り。

 もうだいぶ大丈夫になってから是非聞いてもらいたいと思っていた話がある。

 恥ずかしい話だけど、過ぎ去ってしまえば笑い話だぞ! と言い聞かせながら乗り越えた。

 腕が上がらないというのは、つまり。

 脇の処理ができないってことなのだ!


 まずカミソリが届く位置まで腕が伸ばせないこともあるけど「どうしよう。ボーボーなんて恥ずかしい!」なんて心配しないで良い。

 開き直ったからではない。
 自分を諦めたわけでもない。

 想像してほしい。

 そもそも腕が上がらないのだ。

 私は右も左も五十肩が痛かったのだけど、右腕が特に辛くてカミソリの先端がようやく左の脇に届くくらいだった。届いただけでは剃れないってものらしい。
 頑張って届いたとて、一番ひどい頃は左腕が90度も上がるか上がらないか。
 脇って剃る方の腕だけじゃなく、剃られる方も動かないといけないんだ。共同作業なんだ!

 夫に「脇の処理ができない」と泣き笑いながら訴える。

 それを聞いて夫が笑う。


 でもね。腕が上がらないってことは、人から見えることもないわけだ。ノースリーブとか半袖の時は一応カーディガンとか羽織っておいたけど。なんなら自分でもよく見えないからね。
 
 誰にもわからないから恥ずかしい思いもしない。

 右腕の方が左腕にギリギリ届くようになった時は「治ってきた!」とわかって嬉しかったけど、何しろギリギリ届いた頃って、手の長さプラスカミソリの長さで、脇の下まで届くんだ。
 それに気づいていなかった。
 つまり、ようやく剃れても、剃った後に炎症を起こさないよう、剃り跡の痛みを軽減するように塗るローションが届かなくて。
 かなり苦労した。

 身体全体を前に丸めて、見えない何かを抱きしめている。
 毎回。そんな体勢で。塗る。

 それが今や両手とも背筋を伸ばしたまま届くのだ!
 右腕から左脇はまだちょっと痛いけど、でもできるのだ。

 できるって嬉しいね!


 腕の痛みが全盛期だった頃、カフェでソーサーに乗せたカップがかちゃかちゃ言うのも困った。腕が上がらない上に、ちょっとでも重さを感じる物を一定の高さに保つのが辛いから、どうやら腕が震えているらしい。
 席に着くまでかちゃかちゃがうるさいくらいに止まらなくて、恥ずかしくて仕方なかった。ソーサーとか要らないからもう! でもかちゃかちゃでこぼれてしまうコーヒーをソーサーが受けてくれてはいる。複雑な気持ち。
 そもそもカウンター越しにカップ出されても、そのカウンターが高かったら届きづらいのよ。必死で手を伸ばしたんだから。あの「高い棚」システム、五十肩には酷だ。やめてほしい。

 老眼になってからあらゆる文字が小さくて、思いやりがないものだとちょっとイライラするのだけど、この高い棚システムもソーサーもちょっとイライラしてしまう。

 高齢の方たちがイライラしていると感じたらもしかしたら、思うように体が動かせない自分や、いたわりのない世の中を嘆いているのかもしれない。と最近思う。
 そうは思っても、若い頃はその環境を甘受して楽しんでいるのだし、老害だとか言われちゃうからきっとまあまあまあまあと自分をなだめて暮らしている人たちだってけっこういるんだろうな。

 体が思うようにならないことで、少しずつ高齢の方たちへの思いを想像できるようになってきた。

 で。

 あれもこれもできるようになった私は、この前リュックサックを背負う機会があったので、当たり前に背負おうとしたんだけど。

 それはまだできなかった。
 背中に両腕を寄せる動作はまだ痛いらしい。

 ああこれはまだだったか。
 仕方ないから片方の肩にかけるようにして持った。
 完治するのはもう少し先。今は痛くない範囲ならできるだけ積極的に動かして、腕の動く喜びを満喫している。


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読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。