手を抜きつつ美味しく食べたいカレー
高校生の息子は、まだまだ食べ盛り。にしても、幼少期から食いしん坊だった。
幼稚園の頃。外国人のクラスメイトが、その国の食べ物をお土産として持ってきた時、クラスのみんなは、初めて見たその馴染みのない物に抵抗を示し、食べなかったらしい。
息子以外は。
「〇〇(息子)クンは、一人、美味しい美味しいって食べてましたよ！」と先生が笑って教えてくれた。
地元の野菜を使ったスイーツを扱った店では、大人は美味しく食べれるけど、多くの小さい子が「苦い」といやがったそうだ。
息子以外は。
息子はやっぱり「美味しい美味しい」って食べていた。
もしかして。
味がわからない？
いや待てよ。もっと幼い頃。
離乳食にこだわりがあったではないか。最初の数か月、一口食べさせると「ギャー！」って泣くから、全然進まないし、そのうち焦り始めた私は、息子の「ギャー！」を聞く度に一緒に涙を流すようになった。何で食べてくれないんだよう。
辛かったけど、単に息子のタイミングの問題だったようだ。数か月したら、ある日を境にバクバク食べ始めた。
そしてもっとさかのぼれば、妊娠中、ダシの素の匂いがダメになって、面倒だったけど仕方なくダシをきちんと取り始めた。その後、離乳食を終える頃、どうやらダシの素を使った物はいやがり、きちんとダシを取らないと食べないぞと気が付いた。お腹の中にいた時からだ！
レストランでもそうで、「ここの店、ちょっと人工的なダシの香りだな」と思いつつ、息子に一口食べさせると「ギャー！」と泣いた。
私が気が付かなくても、息子の「ギャー！」で、そう言えば……って店もあった。
ヤツは、本当は「違いのわかる男」でもあるんだ。
なんて思いたかったけど、そのうち何でも食べるようになって、何もかも美味しそうに食べる。「お母さんの出す料理で何が好き？」と聞いたら「バナナ！」と言われて、傷心したものだ。
材料以外で何か手を加えた料理はないのかと、それからしばらく後に聞いたら「おにぎり！」と答えた。
こだわっていたとか、違いのわかる男とか、もう良いや。息子は食いしん坊なんだ。
食いしん坊な息子は、あっという間に好き嫌いが減っていった。むしろ何が好きなのかわからない。さらにその後聞いても「お好み焼き」とか言う。それ、ソースの味だから。
＊＊＊
私自身は、ずっとカレーが好きだった。
息子が生まれる日の昼も、無理やりカレーを食べに行っていたし、息子が生まれた後の最初の外食は、スープカレー店だった。
母の作るカレーも好きだったし、人んちのカレーも美味しかった。
友達のお姉さんのカレーにはブロッコリーが入っていて、意外と合うと知った。いつものカレーに、青い野菜が加わって栄養面でも良い。
それから私のカレーには、ブロッコリーが入るようになった。
夫は、完全な茶色になるまで玉ねぎを炒める！ と熱く語っていた。
私はそこまでは面倒だけど、とろとろになるまでは頑張る。
そんなに特別に手の込んだカレーではない。だから基本は市販のカレールーを使う。
その中に、さらに香辛料がブレンドされたカレー粉を加える。原材料は、カルダモン、クミン、コリアンダー、ターメリック、シナモン、ピンクペッパー、クローブ、唐辛子、ローレル、フェンネル、フェネグリーク、レモングラス、と表示されている。
夫が仕事で関わるスリランカ人が、帰省するとお土産にマンゴーチャツネをくれる。ビン詰で、かなりフルーティな甘い味と、少しのスパイシーさがあって、なにより強い香り。
これを入れると、深いコクが出る。
スーパーのマンゴーチャツネだと量も香りも足りないので、こればっかりはちょっと高くても輸入品を買う。規定の量である三倍くらいを、ガバーっと一回のカレーに入れるけど、それでもスリランカのお土産にはかなわないなあ。
中学生だった息子がある日、言った。
「今日、給食でカレーが出てさ～。それ食べてて思ったんだけどね。お母さんのカレーって美味しいんだね。知らなかった」
知らなかった？
アラ。
そう。
……。
知らなかった？
でも料理の良し悪しなどわからないと思っていた息子が、初めてそんなことを言った。
それまでカレーを出しても特に喜ぶことのない息子で、カレー大好きな私とは違うなあと思っていたから、なおさら嬉しかった。
夫も「そのうち彼女や奥さんにカレー作ってもらったら、きっと物足りなく感じちゃうよ」と笑う。
本場のマンゴーチャツネをたっぷり入れるのが基本のカレーなんて、確かになかなかないかも。
その後、やっぱり褒められることはなくても、夫も息子も私の作るカレーを気に入ってくれているんだ。とちょっとだけ良い気分になりながら、カレーを作る。
何の変哲もないカレーだけど。
これが私の作る特別な味かなあ。
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