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まちづくりの一歩目を踏み出し、政治との遠さに終止符を打つーー高橋勝也・対談

自分が住んでいるまちの理想を考えたことはあるだろうか?

2015年、選挙権をもつ人の年齢が満 18 歳に引き下げられ、教育業界では、正解のない社会を生きるために一人ひとりが自らの考えを育てることの重要性がうたわれている。文部科学省、主権者教育推進会議の最終報告レポート「今後の主権者教育の推進に向けて」では、これからの社会を担う子どもたちが「社会の形成に主体的に参画するための資質・能力」をもつことの重要性が書かれており、そのための教育を主権者教育という。

一方で、いわゆる大人でも、暮らしの困りごとを解決する方法を知らずに過ごしていることがある。「住みやすいまちにしたい」という思いは誰にでもあるはずなのに、なぜだろう。まちづくりとはなにか、だれと一緒に取り組むのかに迫る。

身近なのにあまりにも遠い、政治

中学校、高校での長い教員生活を終えて、高橋勝也は2017年から教員養成に活動を移行した。名古屋経済大学法学部の准教授として、新科目「公共」、主権者教育、経済教育を研究し、現在も新たな教育方法を提案している。

総務省主権者教育アドバイザーを務める高橋勝也と川崎市議会議員の春たかあきの対談は、主権者教育の話から始まった。

2022年12月18日、てくのかわさきにて

高橋勝也氏のプロフィール
1969年生まれ。明治大学法学部卒業、鳴門教育大学大学院学校教育研究科教科・領域専攻 修士課程修了。現在、名古屋経済大学法学部准教授、NHK高校講座「現代社会」番組講師、総務省主権者教育アドバイザー

高橋「主権者教育は、投票率を上げるための啓発と思われがちです。しかし、それは違います。まちの課題を見つけて、対話して、考え続けて、みんなで一緒に解決していく教育が大切です。そのプロセスのなかに、選挙で1票を投じるという行動があるんです。」

ただ、地域全体を考える難しさがあることも、市議の活動が見えづらいことも事実。生徒と対話を重ねる授業をしてきた高橋は、政治が遠い存在であると嘆く。誰かほかの人がやることだという認識の強さを打破するために、授業では自分ごと化に力をいれた。

高橋「授業では、地域の課題、たとえばまちに赤ちゃんポストを置くべきか、赤字のバス路線は廃止すべきか、高齢者の運転免許は返納させるべきか、といったテーマをおきます。これらは、子どもたちでも身近に感じられて「はい」か「いいえ」で考えられるものです。そうすると分かりやすくて、子どもたちだけで議論できるんです。これは、現場ではとても大切です。主権者教育をやりたくても、忙しくてできない先生たちもいます。」

高橋は子ども、先生、学校の三者が現場でできる教育方法を開発している。

春「主権者教育は難しいですよね。いっぱい勉強してからじゃないと投票できない、ちゃんと理解してからじゃないと投票してはいけない、と思ってしまう雰囲気を感じます。市議会議員になって、普段の生活のなかに政治があることに驚きました。それが分かれば、政治がもっと身近になるんじゃないか、と思っています。」

高橋「人間は、身近な問題を見つけて、考えて、自分というものを作り上げていきます。ですが、投票に行くとき、候補者の誰が自分の考えに近いのかわからなくなります。これまでやってきた広報とは異なる方法をとらないと、理想のまちを描いていたとしても、活用せずに終わってしまうかもしれない。ここを解決していきたい。」

市議会議員の一週間はヒアリング、現場訪問、施策立案の繰り返し

ツイッターや動画など、政治家の発信は多様になった。政治家がどのような政策をやるかが一覧になった表も出回る。春は発信の苦労をこう語った。

春「前回の選挙(二期目)のとき、一期目の議会でどういう質問をしたのか、どれだけ発言したのかを聞かれました。議会での発言回数だけで議員を判断することは難しいけれど、掲げた公約を実現するために実際に行動したことを伝えるのは大切だと思います。選挙のときはいいことを書いていて、実際はなにもしないのはよくないです。」

とは言え、公約に掲げた政策提案のための質問、調査、現場視察、ヒアリングの実績を自分で記録して公開するのは大変だ。「かわさき未来トーク」の価値がここにある。

高橋「たとえば、どのように一週間を過ごしているんですか。過去の4年間でなにをしてきたんですか。私も知りたいし、読者もきっと知りたいと思います。聞かせてください。」

春の一週間のスケジュールはこうだ。まず、週に3回ほどは朝7時に駅前に立って議会のニュースを市民の方々に配布する。午前中は議会に出席。議会がない日は、市民から相談された内容を行政に伝える、または提案を改善するための情報収集を重ねる。週末は、平日にもらった市民相談の取材のために人に会い、現場を確認してまわる。そして週明けに、提案をまとめて行政に伝える。これを繰り返している。調査に時間を要することもある。大きな問題を解決したいときは、別自治体の成功事例を調べるなどして探っていく。

春「これを4年間続けています。一週間丸々、相談の電話がこないことはありません。」

高橋はこれを聞いて、学校の先生と同じだと驚いていた。学校の先生のもとには、生徒からも保護者からも相談がくる。相談に乗るのは時間がかかって大変だが、大切なことだから、一つ一つ丁寧に向き合うことになる。さらに関係各所に打診して施策にまとめるのだから、膨大な時間がかかることが想像できると、理解を示した。

暮らしの相談と期待を政治家に寄せることが、まちづくりの一歩目

続けて高橋は、学校の生徒から相談がない悩みを話した。「今の生活が最高だから不満はない」と言われるが、みんなで一緒に安心と安全をつくっていきたいとどう伝えたらいいのかと。

春「市民のみなさんと話すとき、困っていることはありますか、と聞くのはちょっと大袈裟なので、気になることはありますか、と聞いています。すると、危ない道路がある、家族に認知症の疑いがあって心配、という声もあれば、なにもないです、と答える人もいます。まず、なにもないのが一番いいことです。そういうときは、いつか困ることがあったらいつでも連絡してください、と伝えています。」

高橋はこれを聞いて、自身も生徒に「困ったときはいつでも電話して」と伝えていることを話し、同じメッセージを、まさか政治家も言うのかと驚いていた。

続けて春は、若者には「どこか遊びに行ったときに、これが川崎にあったらいいなと思うものがあったら教えて」と伝えていると話した。問題解決だけでなく、理想の未来をつくるための問いだ。なぜ、こうして二種類の質問を使うようになったのか、春に聞いてみた。

春「暮らしのすべてに政治が関わっていることを、私は理解しています。ですが、そう伝えたところで、政治への興味をかき立てることはできません。まずは、若者からもらった意見がきちんと暮らしに反映されることを伝えたいと思っています。だから、どれだけ小さいことでもいいから教えてほしいんです。」

住みたいまちのイメージは人によって違う。一人ひとりに話してもらうことが、子どもからお年寄りまで、みなにとって魅力的なまちをつくるために大切だと春は信じている。

春は、気軽に声を届けてもらえるように、LINEアカウントを持っている。こちらのリンクを押すと、春のLINEアカウントに登録ができる。「これに困っている」「こういうのがほしい」「あれがやりたい」を気軽に届けていいそうだ。
https://liff.line.me/1645278921-kWRPP32q/?accountId=378vtzwb

若者が政治に抱く無力感を払拭したい

では、春はこれまでなにを実現してきたのか。その手がかりが、高橋の手元に渡された一枚のパンフレットだった。

もちろん実績は書かれていた。だが、しっくりこなかった。具体的になにをしたのか、一つ取り上げて教えてくださいと高橋は言った。

春「高津区には下野毛という地域があります。かつては武蔵新城駅からバス路線が地域を巡っていましたが、赤字で一度廃止になりました。地域住民は車や自転車でなんとかやっていましたが、やはり不便で、バス路線を再開してほしいという要望を受けました。行政との対話を通じて、川崎市の市バスと民間バスの乗り入れ本数を調整し、今では民間バスが走り続けています。」

市民の声が暮らしに反映された成功事例が、なぜ知られていないのか。高橋は、若者が政治に無力感を覚えるのは、こうした成功事例を知らないことだと指摘した。調査、調整、政策提言を繰り返す忙しさに共感を示したうえで、以下のように提案した。

高橋「こうした事例はとても大切です。堅苦しい成果報告ではなく、政治家はこのような発信をしっかりやったらいいと思います。路線バスのバス停を写真に撮り、どういう課題があり、どういう声があって、なにが実現できたのかを写真共有SNSの Instagram に投稿したらどうですか。結果を見せるんです。そうしたら、この人は自分たちの声を聞いてくれる人なんだとわかります。」

どのように結果を見せたら、市民と一緒にまちづくりをしやすいか。春の課題に、希望が見えたかもしれない。高橋は市民を代表して、誠実な活動者である春に感謝の意を述べた。

高橋「パンフレットに書かれた『市民相談6,500件(2022年10月末時点)』の裏に、膨大な時間の仕事が想像できます。市役所と議論して政策立案するのは春さんにしかできないけれど、成果報告をしっかりやって、解決したい課題について声を募集したら、市民も一緒にまちづくりに参加できます。これは、いい主権者教育になると思います。」


後日、春のインスタグラムアカウントにバス停の写真が登場した。これからの投稿を楽しみにしたい。


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