BUCK-TICK、そして櫻井敦司さんのこと
BUCK-TICKのことは書けなかった。
このnoteで人生におこったくだらない出来事や、好きなモノ・コトについて書き散らしてきたが、BUCK-TICKだけは無理だった。
あまりに存在が大きすぎて、書くべきことが多すぎて、3億字くらいになってしまう気がして手がでなかったのだ。
10月19日、BUCK-TICKヴォーカル櫻井敦司さんが逝去した。
ニュースがでて何日か経った今でも、自分で↑の文を打ったら鳥肌が立つくらいショックで、受け入れ難いことだ。
BUCK-TICKの曲、というか櫻井さんの歌詞はそのほぼすべてが死生観についてで(と個人的にはとらえていて)、「いずれ別れがくること」「だからこそ生を見つめるべきであること」をず~っと歌ってくれてたのに、もちろんそんなことは起こらないと思い込んでしまっていた。
でも、別れはやっぱりやってきた。
10月19日、BUCK-TICKヴォーカル櫻井敦司さんが逝去した。
これを機に、少しBUCK-TICKのことを書いてみようと思った。
「亡くなって初めてその人のことを語るなんてダメ、生前にちゃんと言っとけ!推しは推せるうちに推せ!」という言説もあるし、僕もどっちかというとそちら派だったのだが、死が何かを後押しすることは、やっぱりあるみたいだ。
もちろん直接お会いしたことはないが、ファンが知ってる櫻井さんは少なくとも、そういう浅はかな行動も受け入れてくれる、深い優しさの持ち主だった。
古い記憶を掘り起こすと、5歳くらいの時にBUCK-TICKとのファーストコンタクトがあった。
テレビでふと流れた映像で、真っ黒い画面で真っ黒い男たちが暴れてるのと、「バクチク」という聞いたことない言葉がめっちゃ怖かったのを覚えている
AC(公共広告機構)の怖いCMみたいな、いわゆる「あれってなんだったの?」系のトラウマ映像として記憶しているのだ。恐らく今思うと「悪の華」か「スピード」のCMなんだと思う。
時が経ち中学2年。
その後現在に至るまで完治しない"中2病"という大病にかかった僕は「とにかく人と違う音楽を聴くぞ!」と日々図書館やレンタルCDショップでディグを続けていた。そこで見かけた「BUCK-TICK」の文字列。あの黒いやつらか…。と手に取ったジャケをみてトラウマが再燃した。
今見てもちょっと怖い。
手を震わせつつも、しかしこの「殺シノ調ベ」というタイトル、中2で見たらそりゃもうカッコよすぎて聴く以外の選択肢はなかった。
いざCDのプレイボタンを押すと、そこには今まで全く聴いたことのない世界が広がっていた。
ダークで荘厳で狂気的。「Aメロ→Bメロ→サビ」みたいな構成もガン無視した楽曲群。正直難しかった。全然ハマらなかった。
「スピード」とか「JUST ONE MORE KISS」とか、何曲か分かりやすくポップな曲があったので、それだけMDに録音して速攻返却した覚えがある。「M・A・D」とかはもうヤバすぎて冒頭1分くらいしか聴けなかった。(今聴いてもちょっと怖いよ)
この年BUCK-TICKは『SEXY STREAM LINER』というアルバムを出していて、それに伴うツアーを行いライブビデオをリリースしていた。
3回目の接触は、カウントダウンTVでそのライブビデオの紹介がされた時だ。
雑誌などでルックスを知ってはいたが、当然YouTubeもない当時、動いているBUCK-TICKを見たのは(幼少期のトラウマ映像を除くと)これが初めてだった。まあまずは見て下さいよ。(非公式動画だけど…)
どうだろう。美しすぎる黒ずくめのボーカリスト、腕には謎の文字、サイバーな雰囲気をたたえたギター2人、後ろで天高くおっ立つ髪の毛。ステージセット。
中2が好きなものといえば"暗黒"と"電脳"と決まっているが、その2つを併せ持つこの世界観にやられてしまったのだ。
「あれ、BUCK-TICKってやっぱかっこいいのでは…?」
再び僕は図書館に赴き、『殺シノ調ベ』と最新作『SEXY STREAM LINER』を借りてきた。今度は心から最高だと思った。今から思うと、大げさではなくここが人生の転換点だった。
時代はJ-POP全盛。SPEEDやモー娘。が猛威をふるい、ロックバンド界ではGLAYやラルクが何百万枚も売り上げていた。
僕は周りの友達より少し音楽好きで探求心があったものの、やっぱりJ-POPが好きで、そして、J-POPに慣らされた耳にはBUCK-TICKはあまりに刺激的で異質だったのだ。
サビはなくてもいい、歌じゃなくて楽器を主体に聴いてもいい、歌詞はひたすら繰り返しでもいい、恋の歌じゃなくてもいい、つまり「音楽は自由」だということをこの時のBUCK-TICKに強烈に刷り込まれた。
ここから自分はどんどん音楽にのめりこんでいき、それまでHANSON(「キラメキ☆MMMBop」で有名な最高のバンド)しか縁がなかった洋楽にも手を出すようになる。
BUCK-TICKのインタビューを読み、名前が挙がるバンドをかたっぱしから聴いた。NINE INCH NAILS、PIG、KMFDM、Ministry、Marilyn Manson…。どれも暗くて気持ち悪くて、そしてそれが良いんだと思える感性を育ててもらった。周りから音楽が好きな友達が減っていったがそれも良し、と思った。
※ちなみにB-Tと兄弟バンドのように語られるLUNA SEAであるが、彼らはコピーのしやすさなどからバンドキッズに人気であり、周りにもファンが多かった。反してB-Tを語れる友達なんていなかったという妬みから、当時の筆者はLUNA SEAを逆恨みしていた。
BUCK-TICKが扉をひらいてくれ、自分はその扉を奥に奥に進み、20年近くたった今、音楽を職業にしている。やっぱり大げさではなく、文字通り人生が変わったのだ。
情けないことに決して自分の音楽生活は楽ではないので、たまに「あの時BUCK-TICKにハマらなければ…」と思うこともあった。しかし楽曲を聴けば、こんな様子のおかしなモノに反応した自分を誇りに思えるような、そんなバンドだった。
櫻井さんの話をしよう。
昔から主人公ではなくその脇にいるキャラにひかれる、いわゆる青レンジャー気質だった自分は圧倒的にギターの今井さん・星野さんのファンだった。まあこれも人生の転換点だが、お二人を見たことでギターを弾きたいと思うようになったのだ。
ライブに行っても夢中になってギターズばっかり観ていた記憶がある。
ルックス的にも存在感的にも圧倒的な赤レンジャーである櫻井さんに関しては、そりゃかっこいいけど完全に自分とは関係ない「あっち側」の人間だよな…という感覚だった。(いやもちろん全員圧倒的に「あっち側」であって「こっち側」なんて一人もいないんですけど!ニュアンス伝われ!)
櫻井敦司というヴォーカリストの表現の凄みが本当に分かるようになったのはわりと近年、アルバムでいうと2009年の『memento mori』あたりからである。
櫻井さんの凄さというのは、そのキャリアを通して常に成長し続けたことだと思う。デビュー時のBUCK-TICKの音と最新の音を比べるとマジで同一人物とは思えない。もちろん何から何まで違うんだけど、特に歌の大躍進は凄い。1巻で下手だった新人作家のマンガが、連載していくうちにめちゃ上手くなってく現象を見てるようだ。
リアルタイムで一番世間的に売れてた時期のB-Tだけを知ってる人からすると「歌がちょっとね…」という印象らしいが、近年の櫻井氏の歌唱を聞いて、好き嫌いこそあれどその力量を認めない者はいないと思う。(正直91年くらいから全然すごかったですけど!!プンプン!!!)
『memento mori』のライブ会場だったか、ライブ映像だったかで「あれ、この人やっぱ凄くない…?」と思ったのを覚えている。
歌唱もさることながら、舞台上でのしぐさ、小道具の使い方やリズムに合わせた動きなど、全身を使った表現の美しさに、遅まきながら気づいたのだ。
その何年かあと、ドキュメンタリー映画『劇場版バクチク現象Ⅱ』において、亡きお母さまとの想い出を語ったあとの、ご自身の複雑な家庭環境を詩にした「禁じられた遊び -ADULT CHILDREN-」のパフォーマンスで激泣きする自分が劇場にいた。
櫻井さんが遺した数ある名演の中でも自分が最も好きで、最も苦しくなるパフォーマンスがこの曲である。
アマプラで観れるので是非その部分だけでも観てみてほしい。
自分が最後にみたライブとなった、2022年9月の横浜アリーナで演奏された「鼓動」でも泣いた。今にして思うと現実逃避だろうが、中3のテスト勉強の時になぜかこの曲をやたら聴いてた思い出があり、人生トータルでも300回以上聴いてたと思う。
そんなおなじみの曲なのに、2022年の櫻井歌唱に、この年ちょうど父となった自分はやられてしまったのだ。
そして恐らく(こんな言葉使いたくないけど)遺作となるであろう最新作『異空』が、そんな櫻井さんの表現がある到達点に達したことを感じさせる凄まじい内容だった。
BUCK-TICKの音楽的リーダーである今井さんの陰がいつになく控えめで、THE・櫻井敦司全開!!ともいうべき内容のこの作品がラストになったことに、受け入れがたいけど運命的な何かを感じざるをえない。その死の直前までステージに立っていたことも含め、あまりにカッコよすぎる。
カッコよすぎて悲しい。
『異空』最終曲の歌詞である。
薄れる意識の中で歌っているような空白の空け方もさることながら、今にして思うと"ファン"のことともとれるし、"BUCK-TICKのメンバー"のことともとれる"あなた"。
いずれにせよ最後に(意図せずとはいえ)遺されたメッセージとしてこんな完璧な歌詞あるだろうか。カッコよすぎて辛い。
"ずっと続くものなんてない。死を想って今を大事にしなきゃいけない"
アルバム『memento mori』のメッセージが、今また身に染みて思い出される。BUCK-TICKの作品や、これからの展開(ヴォーカリストの訃報に際して「続ける」宣言をした今井さんの凄さ…!!!)を今まで以上に大事に受け取りながら、僕らファンも生きていくしかない。
櫻井さんは人生を通してそう教えてくれていたと、僕は受け取っている。
僕の人生を変えてくれた櫻井敦司さん、心からありがとう。
あなたが旅立った異空が、どうか美しいものでありますように。