パーティ・一直線!
大勢で歓談しつつお酒を飲んだり肉を食べたりする、いわゆるパーティというやつが得意ではない。
そもそも食事に時間をかけることが嫌いで、お酒は嫌いではないが弱い。それよりなにより、パーティで交わされる気の利いたちょうどいい世間話ができない。めちゃくちゃ無難なあいづちか、逆に力みすぎてキモい発言をして怖がられてしまう。
幸いなことに現在友達が2人くらいしかいないため、そんな苦手なパーティに誘われることはほぼないのだが、一応社会の中で生きてはいるので、たまに参加することになる。
コロナが蔓延し出すちょっと前の2月、友人と知人の間くらいの微妙な知り合いの誕生日パーティに誘われ、断り切れずに行くことになった。
そもそも、パーティに加えこの「誕生日」というのも得意ではない。
「おいくつですか?」と聞かれたら「えーと2020-1985=?」と計算しないと自分の年齢すら答えられないほど、「年齢」というものに興味がない。
なので「ただ年齢が1つ増えるだけの日」であるこの誕生日が、めでたいものだと、心の底からは思えないのだ。(99歳のおばあちゃんが無事100歳になりました!とかならめでたい。)
パーティに加え、めでたがってるフリまでしなきゃいけないのか…。とても気が重かった。
会場は東横線沿い代官山にあるカフェバー。普段なら頼まれても足を踏み入れることはない。
「誕生日」×「パーティ」×「代官山」という、苦手の三重奏である。
会場に入り、20人くらいの全く知らない男女が歓談する中、照明が当たらない場所で2・3人の微妙な知り合いが固まっているところを発見した。彼らもパーティ苦手オーラをビンビン出している。これ幸いとそこに合流したが、もちろん全員喋り下手なので、会話も盛り上がらずただウーロンハイをチビチビ飲んでいた。
するとそこに「カワグチ君ですよね??幹事のキサラギです!」とパキッとしたツーブロック・黒ぶち眼鏡の男性が声をかけてきた。初対面である。
名刺を渡され、「バンドやってるらしいじゃん!今度うちで新しいメディアをローンチするから、もし何かあれば面白いことやろうよ!」と言われた。
メディアをローンチ…。出会い頭にいきなり浴びせられた"代官山語"に頭がクラクラして、「そ、そっすね!おねします!ハハハ」と得意の何の意味もないあいづちを打ってしまった。さぁ、パーティの始まりだ。
これは世界的な常識だが、パーティといえばビッチが不可欠である。さすが幹事のキサラギさんはデキる男だ。しっかり「多分あの方がビッチかな?」と思われる綺麗なご婦人(仮名:ジーナ)をブッキングしていた。
ジーナは酒が進んでいるのか、初対面とおぼしき男性の指を舐めたり、膝の上に座ったりしていた。冴えない感じの男性(仮名:タケ)はビッチ慣れしていないようで、一発で落とされ、好色そうな笑顔でジーナの腰に手を回していた。
しかしさすがそこはビッチ。しばらくすると飽きたのか違う男性の指を舐めに行ってしまった。「別にいいですけど」という顔で、しかし目だけはしっかりとジーナを追うタケ。悲しすぎて見ていられない。あとなんでジーナはこっちの席の方に全く寄り付かないんだ。指舐めろし。
そんなこんなで主役に一応「おめでとう」を言いにいったり、そこかしこで行われる盛り上がりを見たりしつつ、あとジーナを横目で見たりしつつ、ヒマな時間を過ごしていた。その間棒立ちというわけにはいかない。一応ここにいる理由を見せておかなければいけないので、酒をついでグラスを空けるという動作を繰り返していて、気づくと僕はかなり酔っていた。
気持ち悪い…。でも間違ってもこんなとこでゲロゲロとやってはいけない。最後の自制心を振り絞り、椅子を2つ並べて寝そべり、身体を休めることにした。
人の誕生会でほとんど喋ってないくせに椅子に寝そべってウーウーうなっている男。その時はゲロを抑えるのに必死だったので考えていなかったが、相当にキモい。
「おいおい」頬を叩かれた感触で目覚めると、パーティ会場には誰もおらず、キサラギさんが呆れたような顔でこちらを覗き込んでいた。
「二次会あるけど…まあ帰った方がいいよね!」と爽やかに告げると、キサラギさんは僕を深夜1時の代官山の空の下に連れ出した。
店の前では主役と数人の友人たちが談笑していた。その中でタケがジーナを後ろからハグしていた。「二次会とかどうでもいいから持ち帰りて~」という雰囲気満載だった。
ジーナからすると、3~4人の男性にちょっといい思いをさせて場を掌握することでその日の役目は終わりなわけだが、一旦可能性を感じさせられた男サイドはたまったもんじゃない。
タケと同じようなご奉仕を受けた男性は他にもいたはずだが、一番ビッチ慣れしていないタケがいつまでもこだわってジーナに絡みついていた。
タケ、気持ちはわかるぞ…。俺も「そっち側」の人間だから…。
路上で盛り上がりながら二次会へ向かう彼らを後目に、僕は吐きそうになりながら帰宅の途についた。当然終電はなくタクシーだ。
あーあ、プレゼント代と合わせて一晩で15000円だよ。やっぱパーティなんか行くもんじゃないな。と思っていると、翌日キサラギさんからメールがきた。
「昨日の誕パで会ったキサラギです!バンドのMV見たけどすごいね!うちのメディアと絡めて面白いことやれるとおもいます!スポーツブランド協賛で入ってるんでそういうとことコラボして…」
ふむ。「面白いことやりたい」って漠然としたことをいう人間をあんまり信用してなかったけど、翌日にMV見て連絡してくるなんて熱心な人なのかもな。なるほどパーティは仕事につながるってのはこういうことか…。
とパーティ参加の意義を少し見直しつつ、返信した。
「昨日はご迷惑おかけしました。お声がけありがとうございます。そしたら具体的な話詰めていきましょう。お忙しければメールでもOKです。空いてる日は2月〇日と…」
7月現在、返事はまだない。
もうパーティにはいかない。
※これを書くにあたってキサラギさんのメールに貼ってある「うちのメディア」のページに飛んでみたが、かっこいいトップページがあるだけでした。「ローンチ」とは一体…。