友達のヨシキ
また、友だちの話なんですが、僕には1番古い付き合いのヨシキ(仮名)という愛すべき親友がいます。小1から30年来の仲。
今は遠く離れたところで暮らしているので、会えても年に一回とかそれくらいのペースですが、ちょい前に記事にしたマーチン同様、ヨシキも僕の目から見れば異端者です。
ヨシキはいわゆる「学校の勉強」に関しては出来が悪くテストも、僕なら目をつむってしかも金縛りに合った状態で解いても取れるくらいの点数しか、取れないヤツでした。
ところが、地頭がかなり良い。
それは学校のテストの点数に反映されないタイプの賢さであり、加えて行動力がズバ抜けている。逆高学歴ニートみたいな感じです。
そんなヨシキは美容師をしていますが、独身時代の20代のほとんどは美容師の仕事が終わると、そのまま派遣のバイトで深夜から朝方まで働いて、ちょっと仮眠してまた美容室へ。
みたいな生活を何年もしていた。
しかもそれ、「経済的な必要に迫られて」とか「貯金してやりたいことがある」とかではなく、単に「空いてる時間ヒマだから」という理由で、ダブルワークしてたんですよね。
自ら率先して、長時間の重労働に出向いていた。
そんなヨシキを見ていて僕はよく思いましたよね。
バカなのかな…
だって、基本僕らってだらだらしたいじゃないですか。
僕なんて生活の為ですら、バイトなんてできれば行きたくなかった。不労所得入んないかなぁ〜、とか不純なことばかりを考えて。
ただ時間が空いてるという理由だけで、派遣のバイトに出向くヨシキの行動は、僕にとってポテサラに入ってるリンゴくらい理解に苦しむものでした。
そんなヨシキの語る話には、たいてい「主語」がありません。
30年付き合いがありますが、ずーっと主語が迷子です。見つからないのです。
はよ捜索願いを出すべきです。
それに加え、会話の前後関係まったく無視で、いきなり「述語」だけをぶっ込んでくる。
突然何の話をされているのか、分からないこと多々。
たとえばですけど、もしも回転寿司に行ったとして、レーンを行く寿司の間に、突然マイナスドライバーが流れてきたら皆さんの頭の中は「???」で埋め尽くされると思います。
ヨシキの話とはこの、マイナスドライバーと似たようなものだと思ってもらえればOKです。
とは言え、僕くらい付き合いが長いと、そんなヨシキの話も楽しく聞くことができます。
阿吽の呼吸というヤツです。
ヨシキが伝えようとしていることは、たとえ主語がなくても僕には伝わる。
述語だけで十分。
なんなら述語さえ要らないかもしれない。
てかもう、しゃべんなくてもいいかもしれない。てか、もうしゃべんな。頼むからしゃべんなヨシキ。これ以上オレを混乱させないでくれ。頼む、しゃべんな。
これ以上レーンにマイナスドライバー乗っけんな
さて、冗談はこれくらいにして、僕はヨシキのことを非常に尊敬しています。
とにかく行動力がヤバい。今ヨシキは結婚して奥さんと子供たちがいますが、奥さんであるミーちゃん(仮名)との馴れ初めがなんともヨシキらしい。
結婚前当時、ミーちゃんは漠然と「いつか世界一周してみたいなぁ」と考えていたそうな。
でも、やりたいなぁと思い描くことと実際に行動に移すことの間には、大きな隔たりってありますよね。
そのご多分に漏れずミーちゃんも、その「いつか」が訪れることはないのかもしれない…と、漠然と思っていたそうな。
そんな夢の話をヨシキにしたら、その返しが
「そっか。なら、オレと行くか!」
だったそうな。
「え?!そんなあっさり!?え!?」
きっとミーちゃんは、全くたじろぎを見せないばかりか、ファミチキ一個買うくらいの軽いノリで世界一周を決断するヨシキに、驚きはもちろん、愛しさと切なさと心強さと、いろんな感情を抱いたことでしょう。
そして実際に2人はお金をためて、約一年に渡る世界一周へ。
この一連の流れ、本当に素晴らしかった。
友ながらあっぱれ!さすが、ヨシキ!お前こそ、男の中の男だ!すごいぞ!かっこいいぞ!
そしてもう何もしゃべんな!頼むからしゃべんな!マイナスドライバーをしまえ!と、僕は膝を打ったものでした。
それに限らず、よくよく思い返せばヨシキはいつもその行動力で同級生の1歩先、2歩、いや、3歩先を進んでいました。
僕らと主語を置き去りにして。
今は遠く離れて暮らすお互いですが、何かの拍子にふと思い浮かぶ顔の1人であるヨシキ。
きっと、いや、確実にこの文章はヨシキにも読まれることでしょう。
そして、読後彼はこう思うでしょう。
「そんなに無いかなぁ…」
「主語が」な!主語がそんなに無いかなぁ、な!
また忘れてんぞ。