ベランダ 隣人 おたふくソース
夜風にあたろうとベランダに出てみた。時刻は19:15、陽も暮れて東の空低い位置に満月が浮かんでいる。
この頃はすっかり涼しくなってこの時間は半袖でも肌寒く感じる時がある。
隣のベランダから、ガチャガチャと食器の立てる音がこちらに聞こえてくる。
匂いから察するに焼きそばかお好み焼き、あるいはたこ焼きを、ベランダに調理器具一式持ち出して、作って食べているらしい隣人。この匂い、きっとソースはおたふくと見た。
秋の空気を浴びながら、ベランダとは言えアウトドアでディナーですか。
いいじゃないの、人生楽しんでるじゃないの、と隣人に心の中のいいねボタンを押してみる。
仕事の休みの日は、夕方割と早い時間からビールか、最近はマスカットフレイバーのチャミスルソーダを嗜んでいる。
ビールはこの頃、エビス一択。
人が「あなたは何故エビスビールを飲むのですか?」と問うならば、僕はこう答えたい。
「おいしいからです」
いや、フツーかい。フツーの答えかい。まさしく、フツーにおいしいからエビスビールを飲んでいる。
アルコール度数がプレミアムモルツに比べて0.5%低いところも、僕にフィットしている。
そして、エビスでちょっといい感じの心持ちになったところで、ベランダに出てみたらば隣人のおたふくソースの匂いである。
世の中にソースは数あれど、僕はおたふくソースには思い入れが深い。
いや、実際はそんなに深くないがそれなりに、おたふくソースの思い出がある。
20歳くらいのときに、バイトの先輩宅でお好み焼きをやることになった。
買い出しに出かけた僕ら。食材をカゴに詰めながら調味料コーナーで僕がKAGOMEの中濃ソースを手に取ると、一緒に来てたもう1人から「いや!!おたふくっしょ!!」とすかさずツッコミが入った。
僕が育った家では、おたふくソースを使っていた記憶がなく、お好み焼きと言えばKAGOMEの中濃だった。
しかし、調味料コーナーで、「いや!!おたふくっしょ!!」と語気強めに言われたものだから、じゃあおたふくでいいか、となったことを覚えている。
KAGOMEにこだわりがあるわけではないし、ソースなんて味の違いはあれど、「うまい」に違いは無いので、何でもいいというのが僕の信ずるところであった。
事実、先輩の家で食べたお好み焼きは美味しかった。
その時どんな具材を入れてお好み焼きを作ったのかは、今となっては思い出せないが、とにかく「おたふくソース」がかかっていたことだけは確かなこととして、今だに僕の中にある。
「うめぇなぁ」。ベランダにて隣人の声が聞こえた。おたふくソースに違いない、と僕は思った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?