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中2のとき映画を見に行って「さすがにヤバいな」となった話

僕が中学2年の時、若者の間では「古着ファッション」と、公開中の映画「タイタニック」がものすごい人気を博していました。

クラスでも「ディカプリオカッコいい」とか「タイタニックヤバい」という話をたくさん聞き、友達数人で「よっしゃ見に行くか」という運びになり、当日映画館の前で待ち合わせになりました。

鑑賞当日、繁華街でバスを降りて待ち合わせの映画館へ向かうと、遠目に友達のグループが見えました。
先に既に3人集まっている様子で、チケットを買い求める客の列に並んでいました。

近づいて「よう」と、みんなに声をかけると「…、おう…、待ってたぜ」と、一瞬ですが、気まずい雰囲気が漂ったことを僕は感じました。そして、刹那にすべてを悟りました。

友達はみんな、ラコステやラルフローレンの、ボーダーのポロシャツにジーンズみたいな、いわゆるトレンドのオシャレな古着ファッション。

方や僕。
腐りかけの高野豆腐みたいな色のベージュの短パンに、母親がどっかで買ってきた安もんの紫色のTシャツを着ていました。そして、その胸には白抜きでこうプリントされていました。



LOVE!


いやダサない?
お前それで来たん?
さすがにヤバない?もう中2よオレら。
これからラブストーリー見るだけに、LOVEなん?いや、そんなんいらんのよ。
下ベージュに上紫っておまえ、あずきバーかて。
一緒にいるの躊躇するダサさなんだけど…。


という友達の心の声が聞こえてきて、さすがに思いましたよね。



これはヤバいことになったな。


と。
ダサさの当事者である僕からしても、グループの中に明らかに浮いてるダサさであり、その時人生で初めて自分の服装のダサさを自覚しました。
僕は服に興味が0で、同級生がまさか古着ファッションなどに目覚めているとは、夢にも思いませんでした。

さて、
映画館の暗がりに紛れて、「服装バレなくて最高〜」という安堵と共に、タイタニックを鑑賞しました。
しかし、見終わった後のことが気がかりで中々映画に集中できない。

映画終盤に差し掛かる頃には、「あー、またこのダサさで街に行かなくてはならんのかぁ」と、海に沈むタイタニック号よりも僕の気分の方が深めに沈んでいましたし、
「ROSE!」と叫ぶディカプリオよりも、僕の胸の「LOVE!」のデカプリントの方がよほど迫るものがありましたやかましわ。

というわけで映画は終わり、表へ出ると相変わらずグループの中で浮いた「歩くあずきバー」である僕。友達の1人が当然のことのように「古着屋めぐりしようぜ」と、言いました。

周りの友達も「もちろん、そのつもりでいたぜ」という感じを出しており、そのどさくさに混じって歩くあずきバーも「それな」みたいな顔をしておりましたら、



いや、おまえの反応違くない?


という、友達の視線が僕に刺さったことは言うまでもありません。

「それな」じゃねぇんだよ。
行ったことねーだろ古着屋。みたいな。

もちろん、古着屋なんて行ったことありませんしなんなら、これからCD屋に行きたいのが本音でしたが、同調圧力に屈した歩くあずきバーも古着屋を目指すことになりました。


というわけで、友達4、5人で古着屋めぐり。
1つ目の店に入ると驚きました。
なんと友達全員が「なべ(僕のあだ名)には、これが似合うよ!」とか、「なべ、このシャツいいんじゃね?」みたいに、まるで店員さんのように代わるがわる僕に、古着をすすめて来るのです。
思いました。



圧、すごない?


どんだけ買わせたいねん、と。
どんだけ、脱あずきバーさせたいねん、と。LOVE!脱がせたいねん、と。

みんなにダサいと思われていることは、言われずしも雰囲気で感じ取っていましたが、古着屋に入ったとたんの友達の「一刻も早くこいつを着替えさせねば」という態度には、にわかに必死ささえ漂っていました。
みんな必死に僕を着替えさせたがっていました。お前らにとってどんだけダサいねんオレ。


ですが僕は、服に少ない小遣いを使うくらいなら、CD買いたいなと思っていましたので「まぁ、考えてみるよ」みたいな感じで友達の押し売りを交わし切り、店を出ることにしました。

そこで僕は、「オレ、CD屋行くわ」と、まだまだ古着屋めぐりを続けようとする友達に告げました。
すると、「そっか、じゃまたな!」となりまして、僕は1人でCDを見に行くことにしましたが思いました。



せめて1人くらい引き止めんかね?

あずきバーいなくなる言うて、安心したか。なぁ。ダサいやつおらんくなるぞーよっしゃー、てか。フツー引き止めるやん。1人くらい一緒行こうぜとかなるやん。なぁ。
あずきバーは無理ってか。一緒にいると自分もダサいヤツって思われるのがキツいってか。なぁ。

と、レコードショップへの道中、自分の胸にプリントされた「LOVE!」の文字が、皮肉にも友達のLOVEの希薄さを僕に感じさせはしましたが、そんな寂しさも束の間。
レコ屋でCDの試聴機にかじりつく間に、音楽がもたらす高揚感がすべてを洗い流してくれました。

僕にとって映画タイタニックを見に行った思い出とは、そのようなものです。
ではまた。

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