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ローテーブル チャミスル 詫び

自宅の畳の部屋、真ん中にあるローテーブル。結婚当初、嫁さんが実家から持ってきたそれは、無垢材でできており言ってしまえば「結構いい家具」である。
昨今SNSで流行っている(た?)、「ていねいな暮らしガチ勢」の部屋に置いてありそうな、シンプルで凛とした佇まいだ。

僕はと言えば、ていねいな暮らしの対局にある「粗雑な暮らし」とでも言うような家庭環境で育ったようなもの。
そのためか、自分の身の回り品に関しても嫁さんに言わせれば「全然大事にしない」あり様で、確かにその通りかもなぁ、と自覚している。

とは言えその自覚がある分、普段から自分なりに丁寧に扱おうと心がけているし、こんな僕なんぞの元に来たらモノも可哀想だとの思いから、身の回り品は必要最低限にしてなるべくモノを持たない、買わないことにしている。
それは、片付けが苦手な僕にとって、部屋が散らかりにくいことにも役に立つので、一石二鳥だ。

さて、その夜ローテーブルにコースターも敷かずに置いた、チャミスルのソーダ割りが入ったグラスを見つけた嫁さんが、「ダメだよ直接置いたら、シミができちゃうよ」と言って、グラスの下にティッシュを敷いた。

ほんと、こういうところなんだよなぁ、と僕が心がけていてなお配慮の及ばない部分に、自然と気がつける嫁さんを素直に(すごいなぁ)と思う。というか、自分の配慮アンテナの感度の低さが酷いというべきか。
そして、「ローテーブルよ、雑ですまんな」と言葉に出さず詫びてみる。

何年か前に、テーブルの表面に僕がつけてしまった飲み物や食べ物のシミを「リペア」しようと、ネットで調べてやってみた。
サンドペーパーをかけて、ミツロウなるワックスのようなものを上から塗ってところ、見た目に気になるようなシミはなくなった。
「よっしゃ。ナイス、オレ」と自分を労ってはみたものの、嫁さんの目にはおそらくそうは映っていなかったことだろう。

何故なら先日、「そろそろまた、テーブルの表面リペアしようかな」と僕が呟くと「いや、しなくていいよ」と返ってきたからだ。
たぶん僕は、「余計なことをした」に過ぎなかったのだろうとその時察した。

グラスの氷が溶けて、薄くなったチャミスルのソーダ割り。
マスカットフレーバーのそれをグビッとやった後で、「うめぇなぁ」などと言いながら無意識に今度は畳の上にグラスを直置きした僕を、嫁さんが横目で見ていた。
「そうだよな。グラスについた水が染みちゃうよな。畳よ、雑ですまん」
言葉には出さず、畳に詫びた。

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