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味噌汁 工場 大名行列

火にかけた鍋のお湯が沸くのを待つ間に、にんじんと玉ねぎを刻む。
にんじんは薄く輪切りに、玉ねぎは少しだけ厚みを持たせたくし切りで。
同じタイミングで煮始めて、同じタイミングで熱が通るようにそうしている。
誰かに学んだわけでもないのに、いつの間にか自分に備わっている料理のひと工夫。
なんも考えてないようで、案外いろいろ考えててえらいな自分!と、ささやかな自画自賛をしてみる。

おダシはダシの素を使っている。さすがに、自分で昆布や鰹節から取るのは骨だ。
一応、自然食品店で化学調味料無添加のダシの素をセレクトしている。
「無添加」というワードに厚い信頼を寄せる僕は、「とりあえず無添加選んどきゃ間違いないっしょ」という、薄っすい思考の持ち主でもある。

さて、雪平鍋の表面が泡立ち始めた。沸いたお湯に、ササッとにんじんと玉ねぎを放り込む。すかさずダシの素の粉末も入れる。
弱火でコトコト7分ほど煮込む。
この間に、まな板と包丁をスポンジで洗って、冷蔵庫から味噌を取り出す。

もちろん、化学調味料無添加の味噌だ。
「とりあえず無添加選んどきゃいいっしょ」という、薄っすい思考は味噌のセレクトにも採用されている。
雪平鍋の中に溶かし入れ、味見のためにひとすくい。おいしい。
さすが無添加。自然な優しい味わいがする。知らんけど。

食卓で味噌汁をずずずと啜って朝食を終えた頃合いに、嫁さんが口を開く。
家の近所の、とある製菓メーカーの工場の話だった。

「あそこさ、社長さんが来る時は、従業員全員が入り口のところで整列してお迎えするんだよ!」

へぇ、と思い話の続きを待っていると、
「でね、社長が来るまでまだ時間があるときは割と姿勢もラフな感じで並んでるんだけど、時間が迫ってくるとすごいの。体育祭のときの気をつけみたいな感じでさ。みんな直立不動なの。」

いやなんの話やねん、と思いながらもそんなことよく観察してるなぁと面白く聞く。
そして、まだ話は続く
「でね、社長の車が入り口から入ってくると、もうみんなほんとに深々と頭下げるの。車が通り過ぎるまでずーっと頭下げてるの。すごくない?」

いやまったくなんの話やねんと思いつつ「すごいね、まるで大名行列のときの平民みたいな感じ?」
と返すと、「いや知らないそんなの」とバッサリ言われ、確かに僕も大名行列の時の平民を直接見たことはないな、と思った。

今度そこのお菓子をスーパーで見る機会があったら、これまでとは違った見え方するんだろうな。そんなことを思ってるうちに、出勤の時間が迫ってきた。

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