いいね ルーティン 月並み
港の近くに車を停めると、車窓に伝う雨をぼんやり眺めながら、友達のスマホスピーカーから出る音楽に耳を澄ませた。
バンドマンである友達が、最近作った曲であるそれは、フォークソングのような雰囲気を醸していたが、メロディーの起伏と歌声が心地よく調和していて、耳の奥をさながらマッサージでもされているようだった。
「いいね」
素直な感想を伝えた。
こういうとき、「いいね」以外の言葉が本当に浮かばない。胸の内にふっと湧き起こった情緒を「いいね」の一言で片付けてしまう、自分の語彙とその表現力の乏しさに一抹の寂しさを覚えはするが、次に同じようなシチュエーションになったとしても僕は言ってしまうのだろう。
「いいね」と、ひとこと。
つまり、改善する気がさらさらないのである。まぁ、それでいいね、ではある。
午前中から、ドライブしながら近況やこれからのことを語り合った僕ら。
語り合える友がいることは、生きることに彩りをもたらす。
彼は僕が伝えた言葉そのままを、正確に受け取って、あるいは、受け取ろうとしてくれるとても貴重な話し相手。だけど、間も無く遠くへ引っ越してしまう。
話は変わって毎月頭にやっている、原画の通販が昨日で終わった。毎月世界中から注文があり、誰であろう販売している当の本人である僕が驚いている。そして、今月は過去1番の枚数が方々へと旅立つことになる。
良いことがあると、「調子に乗らない為の修行」ということにしている。
そのために大切なのは、毎日同じペースを乱さずに日課に取り組むこと。同じ時間に起きて、モーニングルーティン的なやつこなして、仕事行って、帰ったら9時には寝て、みたいな生活を崩さないこと。
調子に乗ったら終了、である。昨日も、今朝も、そして明日も描き続けていこう。淡々とやる。
今こうしている間にも、自分の絵が海の向こうにある国々の、会ったこともない人々の家の一角に飾られていることを想像すると、なんとも感慨深いものがある。
去年の暮れに、ノリで描き始めた絵が既にしてこんな風に僕の未来を切り開いたことや、まだまだこれから先、新しい出会いを運んでくるであろうことを想像する。
月並みだが「何かやることが、日々を豊かにする」事実を自分の生活を通じて学んでいる。
大切なことというのはいつも、言葉にしてしまえば本当に陳腐で月並みだと思う。
それもそのはず。大切なことなのでこれまでにも、キリがないほどに散々語られて、あるいは、書かれて来たことだからだろう。
そういえば、この前は、月が綺麗だったな。
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