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ひぐらし 山道 カッパ 

駐車場の木陰になったスペースで、アキレス腱や、膝の屈伸運動をしている。
普段生活する市街地と比べて、海抜が高いためかいつもは耳にしない、ひぐらしの声があたりに響き渡っている。

ケガや虫対策にと、この暑さであっても、長袖に長ズボンを着てきた僕の心配ごとはただの杞憂なのか、他のメンバーを見てみれば思い切り短パンに半袖なのもいる。
「いや、潮干狩りに行くんじゃねぇんだから」
と、喉まで出かかった言葉を飲み込み、そのまま登山口へと向かう。

「はい、ここからの山道、油断しないようにねぇ」
と、無言の言葉を投げかけるように、入り口には朽ちかけた鳥居が佇んでいる。
それをくぐり抜けると、ほんのわずか足を踏み入れただけなのに、明らかに空気が変わるのを肌に感じる。涼しい。

緩やかな斜面、あるいは、急な階段を登りながら、行く手に降り注いでは揺れる木漏れ日に目を止めていると、ふと随分前に行った屋久島の記憶が蘇る。


「屋久島の天気は変わりやすいからね!あんたこれ持っていきな」
と、実家の母がパートをしていた100円ショップで取り扱っている、雨具のカッパを出発前に持たせてくれた。

事実、屋久島の天気は非常に移ろいやすく、僕が縄文杉を目指して山道を行く途中、さっきまでの快晴が嘘のような土砂降りに見舞われた。
リュックに入れてきた、100円カッパを着込んで「よし、これでオッケー」と、登山を再開したのも束の間だった。

しばらくすると、そのカッパは有り得ないレベルでズタズタに破れだしたのだ。
登山というハードな体の動きには「非対応」の設計だったのかもしれない。
着て15分もしない内に、脇から、股から、ビニールが裂け始めると、見る見るうちにズタボロの様相を呈してきた。

「おのれ…。オカンのヤツ…」
と、わざわざカッパを準備してくれたことへの感謝など、どこ吹く風。
屋久島の山奥でさしずめ、ズタボロのビニールゴミをまとっている風情となった僕は、
「もっとマシなやつ無かったのかよ」
と、100円カッパと母に憤慨する始末であった。  

縄文杉にたどり着いた頃には、雨具の役割などとうに果たさなくなった、「元カッパ」である「ズタボロのビニールゴミ」を体に巻きつけて引きずりながら、服に染み込んだ雨の冷たさに震え、一切がどうでも良い気分になっていた。

さて、今日の登山道は屋久島のそれに比べ、快適である。
山道も歩きやすく、木陰の気温は穏やかで時折吹く風は肌を清々しく撫でていく。
雨の心配は無さそうだ。

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