ベンチ 女学生 せんべい
市街地を流れる川沿いにある公園で、木陰にあるベンチを見つけた。
座らないワケないじゃないの、とベンチに向かって深く頷いた後で腰掛けてみた。
ふぅ、と一息。相変わらずの残暑の中を歩いて、少しだけ汗ばんだ体を休めてみる。
風に乗って木の葉っぱが時折、足元に吹き込んできた。
その向こうでは、芝生の上を食べ物を求めて鳩が蛇行しながら歩いている。
うまいもん腹いっぱい見つかるといいね、と心の中で激励してみたら鳩がこっちを向いたので、「あれ?もしかして、心の声聞こえてる系の鳩さん?」と、これまた心の中で問うてみたら、それには何も応えずすぐにどこかへと飛び去った。シャイな鳩である。
公園を挟んで川と反対側に歩道がある。
下校途中だろうか、専門学生風の女の子が2人「やいのやいの」と言い合いながら歩いている。
突然、1人が通りに落ちている細い枯れ枝を拾って、なにやらもう1人に伝えている。
すると、競うようにもう1人も枯れ枝を拾うと、相手にそれを見せた上で何事かを伝えている。
僕には言葉のやり取りは全く聞こえなかったが、枯れ枝片手に2人はとても楽しそうだった。
それを見て僕は、いいな、と思った。
枯れ枝で存分に楽しめるタイプの女学生が行く歩道の、さらに向こうには片側3車線の、そこそこ道幅のある国道だか県道だかが通っている。
コロナ禍になる前、その通りを歩行者天国にして毎年イベントが開かれていた。
ピザやパスタなどのイタリアにちなんだ料理やお酒を、楽しめるイベントだった。
一度だけ出かけたことがある。
どの露店も混雑して客が列を作っていた。
こういう時、「食べたいもの」より「並ぶ時間が短くて済むもの」に流れてしまう僕は、確か、ウィンナーを買った記憶がある。
ビールを左手、ウィンナーを右手に持つと、「このイベントをフルで楽しんでいる人」みたいな風情になった。ディズニーランドで言うところの、耳を付けてる状態だろうか。
そして、ウィンナーをひとかじり。イタリアにちなんだイベントだけども、そういえばウィンナーって言えばドイツだよなぁ…と思ったし、ビールにしたってどちらかと言うとイタリアよりドイツだよなぁ、と。
どうりで、ウィンナーを買い求める客の列は短かったワケだ。イタリアがテーマのイベントだもの。パスタとピザとワインがきっと人気なんだろう。
と、本末転倒なことをしたような気もしたが、それはある出来事を僕に思い出させた。
僕には、生まれも育ちも東京の友達がいて、数年前に東京で遊んだ際、「これ、めっちゃうまいから」と、お土産にせんべいをくれた。
ありがたく頂戴して、飛行機に乗って鹿児島の自宅に帰宅してそのせんべいを食べてみた。
魚の香りがフワッと豊かですごくおいしかった。
パッケージの裏の記載を見てみれば、僕の家から割と近所にある地元鹿児島の工場で作られていた。
なぜこんなことを思い出したかはよく分からないし、木陰のベンチをもうそろそろ後にしようという頃合いになった。
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