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■愛しいもの


「宗像の叔父が亡くなった」



突然の母からの電話の後 

慌ただしく帰り支度をし 私は旅先から九州へ向かった。



もう近影を思い出せないほど疎遠だったが

深夜の高速を急ぐ間

私は帰省の度に叔父が買ってきてくれた甘く柔らかい筑紫もちの事を

ずっと考えていた。



斎場に着き 最期の拾骨を待つ間 私達は「親戚」というだけで例え初対面でも親密に泣きあった。

二年顔を見なかった祖母は「叔父さんが引き合わせたと。あんたに逢えて今日はよかった」と涙を流した。


家族とは能動的に選ぶ誰か以外に

出会い 憎み 愛し 別れゆける間柄だ。

せめて百年でいいから一緒に生きる。

そんな願いと血の寄せ集めなのかもしれない。

喪服で肩を寄せ合う私の「家族」は 違えようもなく今 愛しいものだった。


甘菓子の記憶と共に 叔父は天に昇る。

遺影を見つめていたら 叔父から入学祝にもらった万年筆を思い出した。

ペンのおしりにシャチハタで苗字が入った上等なやつだ。

それは大事な家族の名前だった。



#お題 :「愛しいもの」

#400字小説

#小説

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