■On Your Mark
「・・・あ、始発。」
蛇の指さす方向、鈍色の建物をかすめて 電車が滑りこんでくる。
空が明るみ始め 徹夜明けで汚れた顔の私は 彼を見ることができない。
代わりに 指の先の緑の車両を目で追って うん とうなずくだけだった。
「でも、お前らしくなくて うけた。 今回は」と 蛇。
仕事の失敗も、
弱音も、
色々珍しいしだいたい
「だいたい俺に 手伝わせるなんてさ」 と、歩きながら蛇が笑う。
駅が目に入った。やけに着くのが早い。
どこかにツマミがあるみたいに 朝焼けの明度はどんどん上がっていく。
今日が始まるというのに 私はただ 彼の隣にいた。
今なら この時間が特別だという事を 伝えられる距離にいる。
「普通に一日って 始まんだなぁ」
改札を前にして蛇が呟いた。
ビルの上端ギリギリから 朝日が顔を出しかけている。
私は息をのんだ。心拍数と到着電車の騒音が重なる。
普通の一日なんてなかったのに。
貴方が横にいる限り。
「寿退社だからって 気抜くな!」
蛇はそういって 笑った。
#お題 :「電車」
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