川本『鬼』へのトリビュート新作音楽
イギリスはブライトン(地図で見ると、ロンドンから南にまっすぐ下りて行って海にぶち当たるあたりの位置です)にある小さな音楽レーベル、ファントム・リム。こちらでは過去の映画作品(それもちょっとマニアックな)に、何人かのミュージシャンに新たな音楽を付けさせる”Imaginal Soundtracking”(架空のサントラ)という企画をスタートさせているのですが、その第2弾のテーマがなんと川本喜八郎監督の『鬼』。この4月16日にオンラインでリリースされました。すべて無料で聴けます(ダウンロードで購入することも出来ます……盤でのリリースの予定はなさそう)。イギリスにも川本ファンがいると思うと嬉しくなりますね。また、日本での4K修復版の公開と軌を一にするこのタイミングでのリリースというのもご縁を感じます。
『鬼』のオリジナルの音楽は、義太夫節の三味線方で、現在も文楽の公演に出演されている鶴澤清治さんの作曲で、彼の三味線と山口五郎さんの尺八で進行します。今回のアルバムは5人のアーティストが競作しており、長さはすべて7分半少々、つまり単に『鬼』にインスパイアされて曲を作ったというだけでなく、『鬼』の本編映像に合わせた新たなサントラを考えてみた、ということのようです。作品の過去のDVDをお持ちの方は、そのDVDをかけながらオリジナルの音を消して、これらの音楽を「ヨーイドン」で再生してみると、新たな『鬼』の世界が展開するというわけです。アメリカ在住のシタール奏者アミ(エイミ?)・ダン、日本出身、ベルリン在住のピアニストMidori Hirano、名古屋在住の食品まつりa.k.a. foodman、台湾の実験的音楽家SABIWA、 そしてお婆さん?の日常の会話と音楽をミックスするというアプローチを見せるTori Kudo……全体にエレクトロニカだったり、実験音楽的な味わいで、映像とのシンクロをどこまで意識しているかは人によりけりですが、なかなか面白いです。
ところでこの架空のサントラ企画の第一弾は、やはりアニメーションの短編で、ウズベキスタンのナジム・トゥルヤコザエフ(という読み方でいいのかどうか……アルファベットだとNazim Tulyakhodzayev)という作家の1984年作『Будет ласковый дождь There Will Come Soft Rains』を題材にしたもの。これはレイ・ブラッドベリ『火星年代記』の中の「優しく雨ぞ降りしきる」のアニメ化作品です。権利関係が怪しいのでリンクは貼りませんが、YouTubeで見つけることが出来ます。ちょっと『ファンタスティック・プラネット』的な美術の作品です。