短編小説:剣士

山田雅春は生粋の剣士。3歳から剣道を習い始め、めきめきと力をつけた。5歳の時には小学生の高学年を打ち負かす程の実力を身に付けていた。
雅春は小学校に上がる頃には、父親の勧めもあり、防具一式を外さなくなった。面も被ったままだ。入学式も遠足も運動会も防具を付けたままだ。入学してすぐに学校で問題になったが、彼の剣道の才能と両親の熱意で防具着用を認められた。
自宅でも防具一式を外すことはない。食事は面の隙間から食べ、風呂は足を洗うだけ、寝るときは竹刀を枕元に置いてそのまま眠る。
入学二日目。当然、学校でからかわれた。
「おまえなんでそんなの被ってんだよ!気持ち悪い!」
「ずっと裸足ってことは靴買えないんだ?ビンボー!」
「ママがおまえのこと薄気味悪いから一緒に遊んじゃダメって言ってたよ!」
雅春は、からってくる同級生には男女関係なく面を叩き込んだ。
小学校一年生とはいえ竹刀で頭を叩かれると相当痛い。ましてやずっと剣道をしている雅春の面打ちは相当の威力がある。叩かれた子供達は泣き叫び、嘔吐する子もいた。
すぐに学校に父兄からクレームが入り、雅春の両親が担任に呼ばれた。母親はパート中だった為、無職の父親が学校に出向いた。
「やはり防具を外してもらわないと、これから学校で生活行くのは厳しいと思います」
「雅春は剣道の神様の子供です」
「・・・いや、しかしですね」
「あの子は選ばれた人間なんです。私も幼い頃から剣道を習っていましたが、あの子程強い子を見たことがありません」
「・・・とにかく今回その、竹刀で人を殴ってしまってますので、僕の方からも注意したんですがお父様の方からもお願いします」
「わかりました。ただ、雅春はからかわれたから叩いたと聞きました。先生もからかった生徒をきちんと指導してください」
そう言うと、父親は職員室を出て行った。まだ若い担任はため息をついて首を横に振った。
次の日、クラスで雅春をからかってくるものはいない。当たり前だが竹刀で叩かれるからだ。
登下校中や昼休みなどにからかってくる上級生には小手を叩き込んだ。父親から、試合以外、面はダメだけど小手なら打っていいと言われていたからだ。
入学から二カ月ほど経った六月。雅春の教室に異臭が漂っていた。原因は雅春だ。ただでさえ剣道の防具は汗臭いのに、雅春はもう二カ月防具を付けたままだ。
”シューッ!”
昼休み、担任があまりの臭さに雅春に気付かれないように、後ろからファブリーズをかけた。その瞬間、くるりと雅春は振り返り、担任のファブリーズを持っている手に小手を打ち込んだ。
「いて!!!・・・違うんだ雅春君、先生ちょっと雅春君をいい匂いにしようと思って・・・ハハッ・・・」
「・・・」
担任は教室から出て行ってしまった。担任はもう雅春に何も言えなくなっていた。完全に腫れ物を扱う対応しかできなかった。入学二日目に同級生を竹刀で叩いた雅春を厳しく叱ったときに、面を喰らい失神させられていた。

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