ヤフオクで幕末の浮世絵を買おう  (その1)

この文章は上にある『幕末の浮世絵を保護してください』の続きで、金持ち以外の人へのメッセージです。
『幕末の浮世絵を保護してください』では、初めに芝居絵の浮世絵を紹介しましたので、その芝居絵の説明を書きます。

浮世絵は初摺りにこだわりますが、価値がないと言われる役者絵の一つ『芝居絵の三枚続き』は初摺りしかありません。
そのわけは、芝居絵は歌舞伎の宣伝の浮世絵ですから、歌舞伎公演が終わってしまえば、発売する意味がないのです。
但し、歌舞伎公演が始まる前(見立)と始まっている最中(中見)の2回発行されます。
この芝居絵は、江戸時代はものすごく人気があり沢山の歌舞伎絵(役者絵)が発行されました。
しかし、現在ではこの役者絵は全く人気が無く価値もほとんどありません。
浮世絵を売っている店では、この役者絵を安く売りだし、浮世絵になじんでもらおうとしています。
ある意味、コマセ扱いの浮世絵です。
それ故、3枚続きの芝居絵はバラシて1枚ずつ売られたりもしました。
但し、同じ役者絵でも写楽だけは別格です。
写楽の浮世絵はちゃんとしたものなら6000万円以上の価値があります。
同時代の初代歌川豊国の役者絵とは100倍くらい値段が違います。
ところが、江戸時代は初代豊国の方が断然人気があり、それは明治に入っても同じでした。
それが、欧米で写楽が人気となると写楽は別格の浮世絵となるのでした。

            左写楽右豊国☝
注、豊国は大首絵などの特別な絵ではない限り100万円以上はしません。ほとんどが10万円以下で買えます。
写楽は逆にどんな浮世絵でも100万円以下は見たことがありません。

江戸時代の庶民は写楽より初代豊国の絵を好んでいました。
江戸時代の庶民と欧米の人ではアートの見方が違うのでしょうか?
ここに落とし穴があります。
欧米の浮世絵の価値は知識人と金持ちが作ったものですし、日本の明治以降の知識人も同じように幕末の浮世絵を馬鹿にしていました。
ところが江戸時代の庶民の価値は違います。
江戸時代の庶民は写楽より豊国を支持し、初代国貞(3代豊国)、広重、国芳の幕末の浮世絵を贔屓にしていたのです。
やはり江戸の庶民より欧米の金持ちや知識人の方が、レベルが高いのか、というと、そういうことではないのです。
幕末の浮世絵は進みすぎていて欧米人の金持ちや知識人には理解できなかったのです。
ハデハデの色彩にデザインとか戯画とか、色々な絵がてんこ盛りの幕末の浮世絵は、ずっと浮世絵を見ていたお客でなければ理解できないのです。
これは現在のコミックと同じです。
古い漫画、例えば手塚治虫の漫画は、先駆者の漫画として価値はありますがレベルはどうでしょうか?

これは、現代のレベルの高い漫画に比べれば明らかに劣っています。
しかし、手塚治虫の漫画本となれば価値があります。
スラムダンクの漫画は売り出されてもまだ価値がないでしょう。
しかし、お金の価値と絵のレベルは違うのです。
浮世絵も同じです。
幕末は浮世絵が興隆したためにレベルも上がり、沢山発行もされました。
そして、三代豊国、初代広重、国芳らは、現代のポップアートの世界にも入り込んだのです。
だからこそ、印象派やファン・ゴッホに影響を与えることができたのです。
浮世絵が印象派に影響を与えたと聞くと、春信や北斎が影響を与えたのだろうと勘違いする人がいますが、北斎の北斎漫画は影響を与えましたが、富岳三十六景などの錦絵は、印象派やファン・ゴッホに影響を与えていません。
北斎は確かに天才であり、技術のしっかりした絵師でした。
だから、印象派やファン・ゴッホを始め芸術家にも、知識人にも評価されました。
しかし、北斎こそ浮世絵のアカデミーだったのです。
北斎漫画はアカデミー浮世絵の典型です。
アカデミー浮世絵だからこそ、欧米の金持ちも知識人も芸術家も素晴らしいと分かるのです。
1880年代~1890年代にパリに渡った日本の画家たちが、印象派には目もくれずアカデミー絵画にはまったのと同じです。
つまり、アカデミー絵画もアカデミー浮世絵も分かりやすいので、一般人も評価がしやすいのです。
ところが、印象派とか幕末の浮世絵は、一般の人には、何だこれ? という風にしか見えないし、下手すれば絵画の冒涜、卑しい絵画、などと表現されてしまうのです。
特に役者絵はプロマイドとか広告の浮世絵なので知識人からすればアートではないとされてしまったのでしょう。
ここに三日前(2020年4月26日)にヤフオクで落札された芝居絵を載せます。

江戸時代の本物の初摺りの3枚続きが1万円以下で買えるのです。
日本人として、この現実がおかしいとは思わないでしょうか?
もちろん私は生活費までつぎ込んで買ってはいますが、貧乏個人一人ではとてもではないですが全てを買うのは不可能です。
また、この文章は幕末の浮世絵の保護が目的なので、買った浮世絵は飾らず、桐の箱(まあ無理でしょう)とか和紙に挟んで引き出しにしまう(これも大変かも)が良いのですが、100円ショップで売っているB4の賞状ホルダーかA3のCLEAR FILEに入れて洋服ダンスの中の上にでも置けば大丈夫です。湿気には気を付けてください。

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