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鳥の目と虫の目

鳥の目と虫の目

「鳥の目」と「虫の目」という言葉があります。鳥の目とは、大空を高く飛び、地表を見渡す鳥の視野、マクロ(巨視)の視野、俯瞰する視野のことです。反対に虫の目とは、身の周りを詳細に知るための虫の視野をいいます。細かい細部を仕上げるときに必要なミクロ(微視)の視野です。魂は細部に宿ると云います。精確で美しく、細部にいたるまで描き込むのに必要な視野を指します。

時代の変わり目、先行き見通しが見えない潮目の時代には、「鳥の目」が特に大事です。様々な現象や事象を鳥瞰し、総合して未来の方向を見出す「目」が必要になるからです。ビジョンやコンセプトを練るときにも、幅広い視座、俯瞰が必要です。俯瞰とは、観察するレベルと層を一段深めることでもあります。瀬は速く、淵は緩やかな川の流れから、深層を観ることです。表層の姿・現象を通して、深層・深淵の動きを探ることです。つまり、見える現象をもとに、見えない原理を観て、次に起きる現象を読む目を養うのです。

しかし、「鳥の目」により未来の胎動を予測できても、次にこの動きに応じた対処が必要です。このためにはミクロの視野から多様性や個別性を詳しく見分ける「虫の目」を備えねばなりません。仕組みの創造には、グランドデザインだけでは不十分で、細部にいたるきめ細かな作り込みが必要であり、個別の要素や技術が欠かせないからです。

鳥の目と虫の目でコロナウイルス対策を

いま世界のコロナウイルスの感染拡大が収まりません。1年6ヶ月にわたるウイルスとの闘いのなかで、国民の健康と経済のバランスをどのように取るのかが常に論議になってきました。現在、第5波の感染拡大のなか、観客のいない状態でオリンピックが開催され、さらなる感染再拡大も危惧されています。

われわれ国民にできることは、マスクに手洗い、ウガイの励行であり、いまできる自らの行動で自分の身を守り、身近な仲間に感染を拡げないことです。一方、政府の姿勢がマスクに手洗い、ウガイの励行を国民に要請するだけでは困ります。コロナウイルスの感染防止措置について、具体的なビジョン/ゴールが必要です。つまり、出口となる予防薬(ワクチン)や治療薬の開発・確保が大事です。日本国全体でみれば、国民のいまできることを「虫の目」、政府が国全体としてなすべきことを「鳥の目」の視点と捉えることもできます。

けれども、もう一歩考えを進めて、われわれ国民がいまできることを実施するだけではなく、コロナウイルスを正しく知ることも大事ではないでしょうか。日本と世界の感染状況や感染症の歴史を知り、コロナウイルスとその感染予防に関する科学的な知識を深めることも大切です。科学リテラシーを身に付け、溢れるようなマスメディアやSNSの情報からエビデンスに基づく情報を選り分け、自分で考え判断してフェイクニュースに惑わされないようにしなければなりません。このように、国民に求められる前者(感染防止の行い)の視点を虫の目、後者(感染症を正しく知る)の視点は鳥の目ということもできます。

行政府の仕事についても同様です。具体的なビジョン/ゴールは最終目標となる予防薬(ワクチン)や治療薬の開発・確保としても、当面の課題である感染を抑えるための緊急事態宣言・まん延防止等重点措置など、国民の自由を制限する一方、弱者への経済支援の手配・仕組みも要ります。当面の施策は虫の目、ゴールに対する手立てが鳥の目に当たります。

また、感染を抑えているうちに、ワクチン接種を済ませなければ、いつまでも行動の自由が制限され、経済が疲弊するのは自明です。したがって、コロナ対策全体の行政府の仕事では、前者の政策立案は鳥の目から、後者の施策実施は虫の目からの視座がとくに必要です。

このように国家レベル、あるいは国民/政府レベルなどの立ち位置を決めれば、これに応じた「鳥の目」と「虫の目」を見つけことができます。したがって、もし全体から個別にむかう関係性を網羅し、それぞれに応じた二つの視野を拡げることができれば、ネットワーク化された超俯瞰ができるのではないでしょうか。

「鳥の目」と「虫の目」は、このような対照的な二つのものの見方を表したものですが、互いに補完的な役割を果たします。ビジネスや仕事に限らず、人生におけるさまざまな局面での判断に、この二つのものの見方の調和を保つことが大切です。

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