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『ヒルビリー・エレジー』J.D.ヴァンス著:読書感想

薬や貧困、家庭内暴力、離婚、殺人、そして無気力が蔓延しているアメリカのラストベルト出身の著者が、自らの家系にまつわる話を祖父母の時代から現在まで辿ってまとめた一冊。

アメリカの南部、そしてかつては繁栄を誇り現在は打ち捨てられた一帯であるラストベルト、それから石炭の採掘で一度は賑わい、けれどその枯渇により衰退したアパラチア、そういった地域に住む白人労働者が今、底辺とも言える貧しい生活に甘んじている。

大きな人権問題となってきた黒人に対しては厚い補償が行われているけれど、この一帯に住む白人にはそういったものが行き届いていない。
教育の遅れにより、そこから抜け出す知恵すらもたらされず、無気力が絶望に替わり、それが薬やアルコール中毒を誘発し、貧しさの連鎖が続く生活の中にいた著者。

けれど、彼には祖父母や姉の愛情があった。
薬物中毒の母、その母が何度も繰り返す結婚とその相手との不安定な生活、労働者階級ゆえの反発心などが相俟ってひねくれそうになる。
けれど、絶望の淵からこぼれ落ちそうになるたびに粗野だけれど誇りと親愛に溢れた祖父母たちに何度も救われた著者は海兵隊に進み、後にイェール大学のロースクールを卒業して弁護士として成功する。

在学中のアルバイトでは、州議会の議員事務所で働き、政策を決める人々が現場を見ずに様々な決定が行われていることを知る。
著者は、そういった経験や自らの生い立ちを鑑み、困窮する白人労働者を救う公共政策や革新的な施策は存在しないと考え

ただ、著者が祖父母や姉の愛情によって何度も救われたこと、また「モルモン教徒の多さから、教会を中心にコミュニティの結束が強く、家族の問題も少ないユタ州が、ラストベルトに位置するオハイオ州を圧倒している」ことから、家族の繋がりこそが最低の生活からの脱出口になり得るとも推測している。

その彼が、次期大統領の有力候補である共和党のトランプ大統領の副大統領候補に選ばれた。
このことは、白人貧困層にとって奇貨となるのではないだろうか。
民主党がこれに対し、どういった方策をとるのか。
次回の大統領選について考えるに、本作を読むとより興味が増すと思われる。

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