見出し画像

天空の立ち呑み とさか(京都駅)

19時着の新幹線で戻ってきた。地元とは違い、京都の街はこの時間になってもまだ空が明るい。本当は、着いてすぐにでも愛佳さんに声をかけたかったが、公務員の仕事は暦通りと聞いていたのでやめておいた。それでも何となく直帰する気になれなくて、スーツケースを抱えながら駅前の立ち飲みで一人飲んでいる。

ビールとアテを頼む。あん肝があるのが嬉しい。冬の食べ物だとばかり思っていたが、夏でもあんこうは水揚げされるんだということは、大学時代に県北出身の友人から聞いて知った。
「お兄さん、1人?」
40代くらいだろうか、別の1人客に声をかけられた。
「ええ、まあ」
「こっちの人やないね。スーツケース持ってはるし、旅行かなんか?」
「いや、旅行ではなく」
「あー、女やろ。お兄さん、イケメンやしモテるやろ。絶対女やわ。京都の女はやっぱええか?」
もう相当飲んでいるんだろう。腹が出ていて顔は脂ぎっていて、見るからに冴えない男だと思った。
「いや、女ではなく。今年から仕事でこっちに来まして」
「なんや。転勤族か。お兄さんどこの人かわからんけど、こっちの女もええと思うし遊んどき。なあ、かっこええよなあこの兄ちゃん」

他には、何のつながりだろうか。30代から50代くらいの女性三人組が顔を赤くして飲んでいる。お盆明けの日曜日だ。客はまばらだった。
「かっこええわあ。若すぎるけどなあ」
50がらみの女が言う。
「私は好きやわ。ちょっと頼りなそうなところもええわ」
少し若い女がすかさずフォローにならないフォローをする。

そうだ、1人で飲みに行くと、絶対にこうやって見知らぬ人に絡まれる。自分は静かに飲みたいのに、と思う。気の知れた友人らと騒ぐのは楽しいが、飲み屋で知らない人とワイワイ飲むのは自分には向いていない。気の知れた友人たち。今回の帰省で、やはり地元が1番だなと再確認した。成人式以降、中学の仲間との付き合いも復活しているし、高校時代のツレたちは一生ものだと思う。研究室のやつらは散り散りになってしまって数人しか会えてないのが残念だ。やはり自分は、京都に来て気を張りすぎていたのだと実感した1週間だった。

あん肝は脂がのっていて美味しい。茨城以外でも食べられるのだなと感動する。向こうではあまり食べる機会のなかったホルモンも、関西に来てから良く食べるようになった。そうだ、こっちではホルモンは牛肉なのだ。あっちでは肉と言えば大体豚肉で、同期たちが日常的に牛を食べるのに驚いた。しかしどうやら、関西の味付けや食文化は自分に合っているようで、食べ物だけはこっちも悪くないなと思う。

こっちで、同郷の愛佳さんと一緒に過ごせて行けたらどれだけ良いだろうか。地元で愛佳さんの話をすると、5歳という年齢差に戸惑うやつもいたが、絶対になんとかものにすべきだと皆が口を揃えていった。自分もそう思ったのだ。これは運命だと。

2杯目のビールを飲み干すと、心地よい酔いがやってきた。1人で飲むと、回るのが早い。
「愛佳さん、来週末はどうしてますか?良ければドライブでも」
気付けばLINEを打っていた。


天空の立ち呑み とさか
京都・京都駅
立ち飲み
天空の立ち呑み とさか - 京都/立ち飲み居酒屋・バー | 食べログ (tabelog.com)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?