落合博満/報復の流儀//虚高の天才
落合博満。
プロ野球史上で至高のバットマン。
500本目、1000本目、1500本目、2000本目、
節目のヒットはくまなくホームランで自ら祝う。
狙ってホームランを打てるそのバットコントロール精度は入神の域に達していた。
今日は至高のバットマン・落合博満の凄みをしめすエピソードを紹介しつつ、メディアの情報統制・フェイクニュース云々について語ってみよう。
トンビ、落合の頭に当てる
東尾修。
西武ライオンズのエースとして70年代から80年代に渡り活躍した200勝右腕。
愛称は飄々として捉えどころのない立ち振る舞いと名前をかけて「トンビ」。
技巧派投手であり、
ファミスタで「カーブ12、シュート12」というハイスペックを誇示したように技巧派中の技巧派だ。
そんなトンビが落合博満の頭部にデッドボールを当てたところで「物語」の幕が上がる。
1982年7月7日の西武ーロッテ戦の2回。
東尾修の投じたボールが落合博満の頭部を直撃。
もんどりうって倒れた落合はそのまま病院に運ばれる。
しかし、
二打席目に落合は帰ってきた。
センター返し/報復の一里塚
手負いの獅子となった落合だったが、神主打法には僅かばかりの狂いしかなかった。
二打席目、落合は白球をセンター前に打ち返す。
ピッチャーの脇を抜けるセンター返しのお手本のようなバッティングだ。
だが何故か、
出塁した一塁ベース上で落合はしきりに首を傾げる。
かくして運命の三打席目がめぐってきた。
落合、報復のピッチャーライナー
三打席目。
東尾が飄々としたフォームから白球を投じた。
落合の狙いすましたバットが一閃。
瞬く間もなく、打球は東尾修の左肩に命中。
苦悶の表情を浮かべて堪える東尾だったが、やがてマウンドに崩れてしまった。
落合は一塁ベース上で淡々とただ佇む。
その表情は深く落としたヒサシによって解らない。
だが一打席目のデッドボールに対し、三打席目に落合がピッチャーライナーで報復する形になった。
これは紛うことなき事実である。
当てられたら当て返す。
凡百の打者では狙っても出来ない。
いや、落合博満以外には誰にも出来ない「報復の流儀」である。
フェイクニュースが出来るまで
「物語」はこうして生まれる。
実はこれは「虚構」である。
東尾が落合にデッドボールを当てて、その試合で落合がピッチャー返しで報復した。
そんな事実はない。
そんな試合もない。
1990年代初頭に作られたこの映像は、「天才・落合ならばやりかねない」、という視聴者心理をついたフェイクニュースだった。
しかも当時はインターネットがなく、当人たちが確認する術すらなかった。
だから2023年になるまで、
「東尾からデッドボールを食らった落合が、その試合で東尾に報復のピッチャー返しを放った」という「物語」がまことしやかに流布していたのだ。
フェイクニュース/記憶の改竄の恐ろしさ
この「寓話」には続きがある。
東尾修氏はかつてこの映像を見て、
「自分が落合に当てて、落合に当て返された」と映像のとおり誤認識し続けていたのだ。
30年来の誤認識である。
このように、
当事者ですらファクトを記憶の中で改竄させてしまうほどに、メディアのフェイクニュースには力がある。
このフェイクニュースの舞台は1982年。
製作されたのが1990年代初頭。
そしてフェイクが発覚したのが2023年。
今よりも格段に画像処理・情報処理能力が劣る1990年代のフェイクニュースですらこれほどまでの力がある。
30年もプロ野球ファンを欺いてきたのだから。
いわんやそれから四半世紀をへた現代のフェイクニュースはどれほどのものか。
メディアコントロールとは末恐ろしい。
そう思うのは私だけであろうか。