厚労省パブコメの意見閲覧をやってみた(質疑備忘)
5月某日、「厚生労働省(厚労省)」に行ってきました。
目的は「とあるパブリック・コメントに送られた意見の閲覧」です。なお、案件は困難女性支援法関連ではありません。以下では今回閲覧したパブコメの案件名や中身等には触れません。あくまで勉強のために抽出した案件であり、その案件そのものに何らかの疑義を持つものでは無いためです。
1.前置き
パブリック・コメント(パブコメ)とは、国や自治体といった行政機関が、省令条例や方針などを定めるに当たり、その案に対する意見や情報を広く募る手続きです。
そのやり方は、政府に関しては行政手続法に定められており、同様の条例が各自治体にもあります。
パブコメを行った省令等を制定するに当たっては、提出された意見を十分に考慮し、提出意見とその考慮した結果と理由を公示する必要があります。
この際、意見そのものではなく、同じ趣旨の意見をまとめたり、意見の要点を抜き出したりする「整理又は要約」をして公示しても構いません。
ただし、「整理又は要約」を行った場合は、元の意見が適正に扱われていることが確認できるよう、提出意見そのものを公にする(行政窓口等で閲覧できる状態にする)必要があります。
<行政手続法 第六章 意見公募手続等 第三十八〜四十五条>
今回、厚労省でこの「提出意見」を閲覧しました。
パブコメは、①省令等の案への修正等を提案するほか、②その政策に対する私たちの意見を示すこと、③言葉の定義など問うて政策の中身を公に確認できること、④気になる点を質問して「問題無い」など判断を示して貰うこと、以上ができる大事なシステムです。そして、そのように機能する前提にあるのは「整理又は要約」が適正になされること、即ち、全ての意見の趣旨が損なわれることなく公示される結果に含まれ、けして不可視化されることはない(※下記、参考note)という行政手続法と行政への信頼です。
厚労省では多種多様なパブコメが行われています。医療、福祉、労政など、国民一人一人が当事者たる内容が多いためでしょうか、非常に多くの意見が集まる案件が多いです。
そして、多数の意見が届きながらも、公示される結果は非常に簡素にまとまっていることも特徴になります。
果たして「厚労省における意見の整理又は要約」は適正に行われているのか?
その確認と、「パブコメ」というシステムに関するお考えを伺うべく、厚労省にお邪魔いたしました。
<※関連note>
2023年3月に行われた「困難な問題を抱える女性の支援」に関するパブコメでの厚労省、総務省とのやり取りはこちら。わざわざ厚労省に伺うからには理由があります。
2.閲覧までのやり取り
⚫︎3月半ば
厚労省ホームページの「国民の皆様の声送信フォーム」から4件のパブコメの意見閲覧の希望を送付しました。
困難女性支援の基本指針(案件番号495220327)と関連法令等(495220328)、そして、部局ごとの対応の差を知りたかったことから、A局とB局の案件から意見数の比較的多い案件(いずれも50件程度)を1件ずつ選びました。
うち、困難女性支援の2件については、翌日に「こども家庭庁に移管した」とメールで回答いただきました。(後にこれは誤りだと分かりました。別途報告します)
⚫︎3月末
A局の案件について、担当部局より「厚生労働省にて閲覧可能」とメールにて回答ありました。
⚫︎4月半ば
他3件の動き無く、先のメールに記載されていたA局担当者のアドレスへ改めて閲覧希望を送付。(後にB局案件は閲覧できましたが、今回は割愛)
⚫︎5月連休明け
担当者より返信あり、そこからメールを数回往復して閲覧の日程を5月下旬で調整しました。
3.閲覧当日の動き
⚫︎1300 厚労省のある「中央合同庁舎第5号館」へ伺う。守衛に声かけて中へ入り、セキュリティゲートは通らずに正面入って左手の共用会議室の前で待つ
⚫︎1315 厚労省A局の担当者(以下、Xさん)と会議室前で合流
挨拶、対応のお礼と閲覧の目的を述べる。目的を述べないと閲覧できないわけではありませんが、この後の質疑をスムーズに行う為、こちらの考えを理解いただく必要がありました。
⚫︎1325 意見をプリントアウトして綴じたファイルを渡され、Xさんの目の前で拝見。
パッと見て、「コピペの意見がほとんど」「この意見群なら、そりゃガッツリ削ってまとめても、趣旨は損なわれないな」「【整理又は要約】のケーススタディとしては好適でない案件」と判断。残念。
その判断をXさんに伝え、意見内容の精査ではなく、Xさんとの質疑に重点を置いた。
⚫︎1345 意見閲覧、質疑終了。
ありがとうございました。
![](https://assets.st-note.com/img/1730847598-QgusFeoZ8JE5TxNm6Xw9C2rq.png)
4.質疑内容
【注意】あくまで素人の非公式ヒアリング。公式回答でない上、まとめるまでに誤認誤解脳内補完入りますので、ご参考まで。
⚫︎閲覧の目的
川田:【減税会】【次世代運動】という草の根勝手連で市井から声を上げる全国運動に参加している。厚労省は予算規模が極めて大きく、管轄は多岐に渡り、特に持続性が無いように見える社会保障制度を抱えることから、パブリックコメント等を通じて積極的に意見を伝えていきたい。
X:パブコメは確かに意見を伝える為の制度だが、制度案を作り終えてから行うため、その意見を制度に反映することは難しい。何かを変えたい場合には、パブコメよりも、やはり国会議員へ意見を伝えたほうがよい。
川田:意見の政策への反映には政治や各種会議・審議会に意見を届けることが重要と認識している。【減税会】【次世代運動】は勝手蓮で、個々に政治家に意見を伝える他、様々な手段を取っている方々がいる。パブコメでの意見を制度に反映することが難しいことは承知しており、パブコメは主に制度案への懸念や質問を伝えて回答を残す、あるいは賛意を伝えて公に示す場と考えている。
そのため、パブコメでどのように意見すればよいか、届いた意見がどのように「整理・要約」されるのかを知りたく、事例として本パブコメの中身の閲覧を希望した。
X:趣旨了解
⚫︎パブコメ制度の運用について
Q1.パブコメの意見の閲覧希望はよくあるのか?
X:他部署含めて聞いたことがない。ほとんど無いと認識している。
ーー
Q2.閲覧した意見の複写は可能か?
X:この場での複写はできない。別に情報開示請求を出して手続きを進めて貰う必要がある。
川田:開示対象指定は「案件名」「案件番号」「行政手続法に則り公にされる全ての意見」でよいか?
X:手続を主管しないので確定ではないが、大丈夫だと思う。
※補足:実際、この文言で開示を受けた案件があります。また、開示請求無しでも意見を頂けた例もあり、対応はまちまちなようです。
ーー
Q3.他の厚労省パブコメにも意見閲覧を希望しているが、なかなか閲覧できない。ホームページの省代表の意見フォームから相談したが、他の希望手段はあるのか?
X:省代表への連絡でよい。他省では問い合わせ先を示す例もあるが、厚労省ではやっていない。
ーー
Q4. 他の厚労省パブコメで「公にする準備ができていない」と閲覧を断られたが、本パブコメではどうだったのか?
X:この案件の担当者は異動しており、今回の閲覧の対応のため引き継いだ。今回のため、書式を整理してプリントアウトし、ファイルに綴じた。
⚫︎届いた意見について
Q5.本件の担当者は異動されたということだが、意見の整理はどのようになされたのか?
X:特に定まった手順はなく、担当者が事案に沿って適正に整理、要約している。今回の件も、例えば「反対意見」としてもっと大きくまとめることもできるところ、記載内容を拾って適正に整理されていると考えている。
ーー
Q6.(意見そのものを確認して)確かに、本件ではほとんどがコピーしたような文面で、案に対する指摘内容も明確でなく、まとめてしまえるように見える。
このようなコピーしたような意見が大量に届くことは多いのか?
X:分野や取り扱う内容によるが、本件のように報道等で注目を集める事象に関するパブコメでは散見される。
ーー
Q7.率直に、コピペのような意見群をどのように感じるか?
X:意見の件数には意味が無い。この事例のように「反対」とだけでまとめてしまえるものは、幾ら送られても1つの意見でしかない。
ーー
Q8.どのような方の意見を求めているのか?
X:全ての方が意見を送れることが前提。その上で、分野や取り扱う内容によるが、やはり事業者などの現に携わる方、関係する方から意見が来ることを想定している。
ーー
Q9.(意見を見ながら)数値や事例を記載して意見する例があるが、そういったものの確認は取るのか?
X:取る必要があれば確認する。ただ、意見の趣旨そのものには数値等が関係しない場合には確認しない。
ーー
Q10.意見の根拠となる数値や実例を書きたい場合、文献やインターネットアドレスの提示でもよいか?
X:意見の一部として扱う。但し、Q9の通り、確認する必要が無いと判断する場合もある。
以上、主な質疑でした。
ご対応いただきましたXさんに感謝申し上げます。
5.感想
最大の収穫は「パブリック・コメント」制度について、その趣旨から細かい意見の取扱まで、自分の認識が現に担当されている方としっかり一致すると確認できたことです。現在、「#次世代パブコメ」などで社会保障・福祉・教育・報道情報などの目についた様々なパブコメに意見を送っていますが、今後も自信を待って活動することができそうです。
雑多な感想1。Xさんがそう言ったわけではないので、会話の端々からの推測ですが、反対意見コピペを送るような「活動をする人」が閲覧を希望してきた、と思われていたのかな?
最初は構えた印象でしたが、会話を通じて当方の意図を伝え、質疑を重ねて徐々に緩み、しっかり対応していただきました。
雑多な感想2。Xさんの語り口から、「コピペ意見」への悪印象は非常に強そうだと感じました。サッと見ただけの私も、同じ「構文」と認知した瞬間に「ハイハイ、次ね次」となり、その意見を読み込む気が起きず、このやり方で何かを伝えるのは難しいなと思いました。
勿論、個々に考えた結果として「コピペ」を送るのも、それもまた意見ですから、ドンドン送るのもありとは思います。ただ、私はそうすることもそれを勧めることもしたくはないなと、そう思わせる対話でした。
なお、今回は「政策案」へのパブコメでしたが、「調査報告、論点まとめ」などへのパブコメも実施されています。後者は、その後の政策検討における根拠資料となるもので、ターゲットや方向性を規定する効果があり、ここへの意見も結果として政策に影響する可能性があり、重要です。
ご興味持たれましたら、政府のポータルサイト(e-Gov)や自治体のサイト(みなさんのご意見を、とかのページにあったりします)を確認し、気になる案件を見つけてみてはいかがでしょう??
<政府ポータル>
<例えば、東京都 計画等に関わる意見公募>
以上